プロローグ
おかしい。明らかにおかしい。
壁に掛けられた時計が1秒1秒、しっかりと時を刻んでいる。
普通異世界召喚というのは、現実世界で生きている何者かが、何らかの原因により、ファンタジックな世界へ召喚されてしまうというようなのが一般的なイメージだ。アニメや漫画では大層人気の類いで、あらゆる作品が世に出ている。
俺、田中 宗も最近流行りのその異世界召喚を現在進行形で、しかも身をもって体験している稀な1人だった。この異世界で晴れて第二の人生を送るのだとでも言いたいが、そうもいかなかった。 このケースは、異質だ。
まず、異世界と言ってもこの風景、この机、この椅子、そしてこの教室、明らかに現代のものだ。教室の窓から見える景色からは山と田畑が見える。広い緑の中にぽつんと建っているこの学校。周りには他に民家が点々とあるのみだ。海が近く、潮風が吹いている。
じゃあ何故、ここが異世界だとわかったのか。
この世界の西暦が2020年なのにも関わらず、元号は平成のままだった。俺達の世界が令和2年だったのに対し、この世界は平成32年。平成は31年でついこの間終わったはずだからそんなことはありえない。
この世界ではコロナウイルスも流行っていなければ、日本を揺るがすような大災害も起こってない。そして携帯がガラケーである。スマートフォン、通称スマホなんてものは世に出てもいない。ここまでの相違だけでもどう現実世界と言えようか。
その他にもあらゆる面で現実とは差違があった。異世界というよりパラレルワールドなのかもしれないとも思った。
この時点でも相当異質だ。
だが異質さは更に色を増す。何故、俺はこの守神高校の生徒とされているのだろう。何故、高校3年生だった俺が、高校1年生として1年のクラスにいるのだろう。
星のように存在する疑問の中でも極めつけはこれだった。
何故、元同じクラスの旧友26人とともに1年X組としてこの世界に飛ばされたのだろう。