ウィゼンベルク村とわたし#16
「おはよーさん」
明日の朝来るって言った通り、イオさんはミア達が朝の支度を終えた頃に現れた。
今日の朝ごはんはミルクをたっぷり使ったお芋と玉ねぎのスープとパンだった。最近、食事の内容がよくなってミアはとってもうれしい。パパのお膝の上で食べさせてもらってお腹いっぱい。
今日のミアは昨日と同じ晴れ着の水色のワンピース。
クリーンしたからキレイだけど「きょーも“ごあいしゃちゅ”しゅる?」って聞いたら「今日からはこれよ」だって。いつの間に作ったのかアナ達が着けていたような白いエプロンをワンピースの上に着た。
つまり、晴れ着の役目は果たしたから、今日からは普段使いするってことかな。
そんな風に朝の支度を終えて、パパも山へ行く準備にお昼ごはん用の林檎を二人分しまってたところだった。
「おはよう、朝早くから悪いね」
「これぐらいなんでもねぇよ」
「おはようございます、今日からよろしくお願いしますね」
パパとママが挨拶をしてる。ミアも挨拶しなくちゃと思って近づいていくとイオさんの陰に昨日ミアの耳を引っ張ったカイって子がいた。
うえぇ、何で!?慌ててママの後ろに隠れた。何でかカイが傷ついたような顔をしたけど知らないもん。
「あー悪ぃな、ついてくるって聞かねぇもんだからよ。ちゃんと言い聞かせたから昨日のようなことはもうしねぇから」
頭を掻き掻きイオさんが言うけど、ミアはまだ許してないし!
「それよりも、村長がやべぇと思うぞ」
「イオのところに何かしたのかい!?」
「そうじゃねぇよ、朝一番に家の前に立ってたのには正直驚いたけどな」
「何をなさってたの?」
「孫娘にうまい林檎の礼を言ってくれ、だとよ。あと次はいつ村に来るか聞いてこいって言われたぜ?」
「「「え!?」」」
あれ?“ご挨拶”って昨日の事だったよね?盛りだくさんで濃密な1日だったから、本当に1日しか経ってないのかあやしいけど、昨日の事だったはずだ。
「父さん何考えてるんだ……?」
「早ぇうちにまた孫娘の顔を見せに行かねぇと、そのうちここまで歩いてきちまうぜ?」
ハハハッてイオさんは笑うけど、……ありえる。
イオさんは背負い籠に何やらたくさんの道具を持ってきてた。
庭に広げて説明してる。
「こっちの大きいのが猪とか鹿とか大型のやつ用だ。んで、こっちがラビーや狐とかの小型のやつ用な」
有名なゲームのひげ男にでてくる大きなお口の花みたいな罠。挟まれたら痛そう。
「お、ミアはあぶねぇからこっちくんじゃねぇぞ?」
素直にこくんと頷いておく。
絶対に手の届かない位置で見学することにした。
「かー、やっぱ女の子ってやつは違うもんだな、カッツェ。うちの坊主達は何度言っても手ぇ出してきやがったもんだが」ちらりとカイを見る。
カイは林檎の樹の下でこちらを見ていた。
パパもちらりとカイを見た。
「ミア、カイに林檎を1つわけてあげてくれない?」
本当はあげたくないけど、パパが言うなら仕方ない。
「ひとちゅだけ」
「うん、1つでいいよ」
とてとてと歩いて林檎の樹の下まで行く。カイは近づいてくるミアを見て緊張してるみたい。ふんだ、ミアの方がよっぽど緊張するところだよ。
「あ、あのさっ、き、昨日は悪かったよっ、ちゃんと謝るから勘弁してくれないかっ?」
イオさんに、ものすごーく怒られたから謝る気になったのかな?
「ふーん?わるいちょ、おもっちゃの?」
「あ、ああ!本当に悪かったと思ってるっ!」
「ぱぁぱにおこらりぇたかりゃ?」
「……父ちゃんにもそりゃ怒られたけど………母ちゃんが……兄ちゃん達とケンカしても物置小屋の壁を破っても、いいかげんにしなさいって怒ってた母ちゃんが……泣いたんだ」
カイの目に涙が溜まって今にも溢れそうになってる。
「小さな女の子に乱暴するなんて情けないって、ちゃんと謝れないのも情けないって、泣いたんだ。それ、見て、オレなんて悪いことしたんだろうって、な、んで、あんなことしたんだろうって、ちゃんと謝ろうと……思って……う゛っぅ~」ぽろぽろ泣き出してしまった。
「……もうおこっちぇないよ」
エプロンの裾でカイの涙を拭いてあげる。
「ちゃーんとあやまっちぇくれたから、ゆるちてあげゆ」
それを聞いたカイは座り込んでわんわん泣き出してしまった。エプロンが初日から大活躍だ。泣き止むまでよしよししてあげた。
そんな様子を大人達は少し離れたところから見ている。
「なぁ、カッツェ、女の子っていいもんだな。うちにくれねぇ?」
「断る」