ウィゼンベルク村とわたし#14
「カッツェ、マリッサ、村長、んで、ミアっていったか?“ご挨拶”の特別な日にこんなことになっちまって申し訳ねぇ」
カイパパは皆に謝ってくれた。
パパは男の子の歩いて行った方を見ながら尋ねた。
「カイっていったね、あの子はイオのところの末っ子かい?」
カイパパはイオって名前らしい。
イオさんは背が高い。パパに抱っこされてても見上げなきゃいけない。ムキムキマッチョじゃないけど必要なところに必要な筋肉がついてる肉体労働してますってカンジ。黒に近い深緑の髪に黒い瞳。さっきのカイって呼ばれてた子と同じ髪と瞳の色だ。
「あぁ、面目ねぇがその通りだ。上の兄貴達に揉まれて手加減を知らねぇやつに育っちまったみてぇだ。帰ったらきちんと言い聞かせる。大事な娘さんに痛ぇ思いさせちまって本当にすまねぇ」と、頭を下げた。
「イオがそういうなら……」
「ハッ、ごめんですむなら村長なぞいらんわッ」
パパの話を遮ってじぃじがイオさんの前に出た。
「イオ、お前は謝罪としてカッツェに罠の仕掛け方を教えておけ。そいつは何にも知らんからな」
そう言い放つとおうちのある方へ歩いて行ってしまった。
「お、おぉ……本職だし狩場は被らねぇから教えることは問題ねぇが、カッツェはそれでいいか?」
「そうしてくれると助かるかな」
話はまとまったようだ。
「それにしても村長どうしちまったんだ?あーんなに頑なだったのによ。孫娘がきてるっつーから見にきてみれば、お前たちの事もなし崩し的に認めちまってるしよ」首に手をやりながらイオさんは不思議そうに言った。
「それが僕達にもわからないんだよねぇ」
「えぇ、ミアに会わせたらいきなり“孫娘”ってなって」
それ、ミアも気になってた!
「あー兄さんはずっと娘を欲しがってたからね」
広場に残っていたゲーテおばさんが話に加わる。
「兄さんはさ、長男でさ、すぐ下二人が男で、母さんは四人目で妹のあたしを産んだんだ。10違うあたしをそりゃあかわいがってくれてねぇ。カッツェもイオも男兄弟がどんなもんか知ってるだろ?」
パパとイオさんは顔を見合わせて苦笑してる。
「そりゃ僕ら二人とも男兄弟の真ん中だからね」
「毎日ケンカと飯の取り合いだったな。つか、今でも俺んちはそうだぞ」
顔をしかめるイオさん。
「だからさ、自分も娘が欲しかったんだよ。でも生まれたのは男ばかりだったのさ。村に残った私が産んだのも何でか男3人だったしねぇ」
頬っぺたに手を当ててゲーテおばさんは溜め息をつく。
「最後の望みを孫にかけてたんだろうけど、あんた以外出てっちまったし、体の弱いマリッサは子供を産めないかもしれなかっただろう?」
ママはうつむいてしまった。
「責めてるんじゃないよ?子供を授かるかどうかなんて女神様が決めることであたし達じゃどうしようもないことさね」
おばさんはママの肩を撫でて慰めてくれる。
「でもさ、兄さんがあんた達の結婚を反対したのもわかる気がするんだよ。マリッサが出産できても体を壊したらカッツェはまた介護生活だ。あれでもカッツェにばかり母親の面倒を看させて、家事や仕事を手伝わせていたこと悪いと思ってるんだよ?」
「父さんがそんなことを……?」
「直接言った訳じゃないよ?兄さんは全然自分の事をしゃべらないから。でもさ、そんな兄さんが孫娘が欲しいって知ってたから表だってあんた達の味方になってやれなかったんだよ………でもこないだカッツェからエルフから預かった娘の“ご挨拶”に来るって聞いてねぇ、一目会わせれば何とかなるって思ったんだよ。さすがにこんなに急変するとは思わなかったけどさ。これからは堂々と孫娘の顔を見せにきておくれよ。口にはしないけど兄さんも楽しみにしてるよ」
じぃじ、ママが嫌いで意地悪して反対してたんじゃないんだ。じぃじなりにパパを心配してたんだね。
「そんなに“孫娘”が欲しかったのか……罠を教えるだけですんでよかったぜ………」
イオさんが呟く。
「じゃー早速だがな、明日山番の小屋へ行くわ。冬が来る前に一通り教えちまいたいしな」
「あぁ、わかった。待ってる」
「おぅ、じゃあ明日な」
そうしてイオさんは帰っていった。
ミア達はゲーテおばさんと一緒に一度じぃじのおうちに帰った。荷車がまだ玄関先に置きっぱなしだったからだ。
パパが木箱ごと林檎を台所へと運んだ。
「まぁまぁ、立派な林檎じゃないか。こんなにもらっちまっていいのかい?」
「はつゅみちゅのおれいにゃの。はちゅみちゅ、しゅっごくあまくっておいちかった」
「そうかい、そうかいそりゃあよかった」
ミアのにこにこ笑顔を見てゲーテおばさんも目を細めて笑ってくれた。
「りんご、じぃじとたべちぇね」
「ダズのところへも寄らなきゃいけないからもう行くよ」
「また寄らせていただきますね」
「げーておばしゃ、またにぇ」
「待ってるよ」
玄関まで見送りに来てくれたゲーテおばさんに手を振る。
姿は見えないけど、おうちの中にいるはずのじぃじにも挨拶する。
「じぃじー、みあばいばいよー。まちゃくりゅねー」
パパはミアを抱っこするとゆっくり歩きだした。