戦争
戦争は、突然に始まった。
国境に隣国の兵が進軍してきていて、お母様もお父様も家に戻ってこれないくらい毎日処理に追われて入
いるらしい。
私とリリィはお母様の言いつけ通り、戦争中は家を維持することに全力を注ぐことにした。
戦況は幸い、悪くはないという。
「お姉さま、領地民の食糧についてなのですが…」
「なにか問題が起こっているの?」
「実は…国境付近から流入してきたとみられる人がたくさんいるようで、このままでは1年経たないうちに食糧事情が厳しくなるかもしれません」
戦況が悪くないとはいえ、国境付近はもう住めるような土地ではないらしい。
流入してきた民を放置しては、グレベリン公爵家の名に傷をつけてしまう。
とはいえ、考えているだけでは食糧事情も解決はしない。なにか手がないか動いてみなければ…
そこで私は、領地に隣接している魔の森と呼ばれる場所に目を付けた。
魔の森…そう呼ばれるだけあって、魔物の巣窟と化しているその場所は、一度入ったら生きては戻れないといわれているいわくつきの土地だ。
しかし、手つかずの森には多くの資源が眠っているともいわれているのだ。
迷っている時間などない。しかし、戦争で人手がない中、領地民を守るための兵士たちを引き連れていくわけにもいかない。
私はリリィに正直に伝えることにした。
「リリィ…私、魔の森に行こうと思う。」
「何をおっしゃっているのですか、お姉さま?!」
「食糧はすぐに底を尽きるわ。いまはこれだけで済んでいるけれど、戦争が長引けば流入してくる人はさらに増えていくの」
「ですが…っ……」
リリィもわかっているからこそ、私を反対したくてもできないでいるのだ。
「リリィには負担をかけるけれど…少しの間、この公爵家を任せてもいいかしら」
「…絶対に帰ってきてくださいね。私、お姉さまがいなくなったら……」
「大丈夫よ。私は絶対に戻ってくるわ」
その日は久しぶりに2人で眠った。
そして、リリィが目を覚ます前に、私はひとりで魔の森へ向かったのだった。