八十五話 特殊な練習
ぎゅいーん。
ぐおおおおおおっ、ぐるんっ、ひゅーん、……。
「な、何をしてるんだい、リオ?」
ぶうううううん。
両手を横にまっすぐ伸ばし、上半身を前後左右に傾けながらぐるぐる走り回っている俺にベルが声をかけてきた。
「スカイジョストの練習」
「練習?それが?」
その通り。これは立派なスカイジョストの練習だ。
天才グリフォン騎手らしいルカさんは、常にグリフォンに乗って飛ぶのをイメージしろ、と俺に言った。なので、俺は暇さえあれば、自分が大空を飛び回っているのをイメージしながら、こうして走り回っている。
俺はふと、ディアナ・オークスが最大級の攻撃呪文を発動する時、ポーズを決めながら口上を立てるのを思い出した。
姉貴のシャーロットによれば、あれで想起を補助しているとのことだ。そのことを初めて聞いた時はあまりピンとこなかったが、飛行機の真似をして走り回りながらイメージをしている今なら、あの謎ポーズに効果があることにも納得がいく。
「……ええと。そろそろファイブオンファイブの練習の時間なんだけど」
ベルが呆れた口調で俺にそう言った。
そういえばそうだった。俺は飛行機の真似をやめて、ベルと一緒に練習に向かった。
「では始めよう。実際に動く前に俺たちの作戦を確認する。――ネスラー?」
俺たちは第三演習場に集まった。
いかつい六年生のキースさんは練習開始の号令をかけると、メガネのネスラーさんに説明を促した。
「はい。――我々ツバメ寮チームの作戦は、円陣魔法をもって敵を圧殺することです」
ネスラーさんはそう宣言した。
まあ、ベルがいるんだからそういう方向になるだろう。
「ご存知の通りライゼルの円陣魔法は、邪魔さえなければ極めて強力です。ライゼルが円陣魔法を自由に発動できる状況を維持すること。これが戦術の要諦となります。早い話、ライゼル以外の我々四人は護衛です」
ふむふむ。
「そして僕、キースさん、セシリーさんの三人は常にライゼルの近くで護衛します。率直に申し上げまして、他寮の精鋭とまともに戦える実力がありません」
ネスラーさんはなんでもないように言った。
キースさんは「まあな」と呟き、セシリーさんは激しく頷いている。
「で、俺はどうすればいいんですか?」
「敵陣に突撃して引っかき回してください」
うわあ、さらっとすごい無茶振りだ。
「数秒時間が稼げればライゼルの円陣魔法が発動します。以後も円陣魔法の支援の元、敵にプレッシャーをかけ続けてください。暴れまわるあなたを軽くあしらえるチームなど存在しません」
まあ、確かに下手に引っ込んでるよりもそっちの方がいいかもな。俺はこくりと頷いて肯定の意を示した。
「では練習に移りましょう。といっても、ツバメ寮に我々の相手をできる者などいませんから、普通に五対五で戦うことはしません。クライヴ一人と他の四人に分かれて、四対一で戦います。クライヴは多数を相手にする練習、我々はライゼルを守る練習です」
なるほどな。
俺たちはネスラーさんの言った通りに分かれた。
そして、キースさんの号令で練習開始。俺は四人に向かって攻撃呪文を連発しながら突進した。
「≪ウフェンディーテ クアテル≫!――≪オテラー≫、≪オテラー≫、≪オテラー≫!」
ベル以外の三人がぎゅっと固まって一斉に防御呪文を唱えた。俺の攻撃呪文は全て防がれたが、その間に俺は四人のすぐそばまで接近していた。
俺は目くらましに炎の呪文を放ってから素早く横に回り込んだ。
だが、側面を突いた俺の目の前で魔法陣が輝いた。
急いでその場を離れる俺の脇を、魔法陣から放たれたビームが掠める。流石ベル、対応が早い。
そして攻撃呪文も飛んできた。他の三人からの攻撃だ。
俺が三人からの攻撃に対処した隙にベルはさらに魔法陣を展開。これは、このままはめ殺しか?まあ、抵抗してみよう。
俺は一旦ちょっと引いて、自分に耐熱の魔法をかけた。そしていつもの地を這う炎の呪文を放ち、さらにちょっと上に向けて炎を放つ。
炎の呪文は俺の得意な呪文だ。今や俺は、想起によってある程度炎の動きを操作できる。
俺がやりたいことは、上から攻撃を加えることだ。これで足元と頭上の二方向から同時に攻撃できる。放たれた炎はしばらくの間残留するので、円陣魔法じゃないが手数を増やすのに便利だ。
「≪ウフェンディーテ フルティウス ティル≫!」
炎の対処に追われているベル以外の三人に、≪フルティウス≫で強化した攻撃呪文を複呪文で放つ。
しかし、いち早く対応したベル、そしてキースさんに防がれる。なるほど、ベルはともかく、キースさんも結構な実力者だ。動きが早いし、魔法も的確で強力だ。少なくとも、自分で言うほど弱くはない。それは他の二人もそうだ。
そしてベルが少し後ろに下がりながら、自陣の頭上に魔法陣を展開。雨を降らせた。
俺とベルが最初に決闘した時を思い出すな。あの時も、俺の炎の魔法はあれで無効化された。
だけど、俺のもう一つの得意技を忘れちゃいないか?
俺は防戦一方になって追い込まれているようなフリをしながら、頃合いを見て防御の呪文を連発しながら一気に突進、それから≪フローゲー≫の呪文を四人に向けて発動した。
「しまった!……」
致命的な隙が生まれた。
俺はそこへ容赦なく攻撃呪文をぶち込み、四人を薙ぎ払った。
「――ううん、完全に忘れてたよ。リオを相手に濡れたら凍らされるってことを」
ベルがため息をついた。
「というか、ライゼルの円陣魔法なしだと三人でもクライヴ一人に押されてない?」
「ま、まあ、守りの要はクライヴなんですから、強いに越したことはないではありませんか。それに、さっきこそライゼルの雨が我々の致命打となりましたが、本番で同じことをすれば相手を凍らせることができます。見破られれば何かしら対処されるでしょうが、それでも強烈な牽制になります」
ネスラーさんがメガネをクイっと上げながら言った。なるほど、確かにそれはそうだ。濡れてしまえば俺に凍らされてしまうのだから、相手に濡れないための対処を強いることができる。それもたった一つの魔法陣で。ローコストでハイリターンだ。
「俺たちは下手にバラけるよりも、もっと固まって、一つの盾のようになった方が良いかもしれんな。攻撃力はクライヴとライゼルの二人がいれば十分だ」
「クライヴの火力が想像以上ですね。特に複呪文の攻撃呪文はオークスの想起発動に匹敵している」
「これならライゼルの円陣魔法も安定して発動できそうね。……もっとやりましょう。私たちの守りも磨かないと」
二回目の練習からは、俺の敗北が続いた。
三人は完全に防御に徹し、常に並んで防御の呪文を発動。側面に回り込もうとしてもベルに防がれ、そうこうしているうちにベルはベルで円陣魔法でバリアーを展開
、全方位を防御してしまい、付け入る隙がなくなってしまった俺はベルの円陣魔法から逃げ切れずに倒される、というパターンだ。
ベルの円陣魔法の恐ろしさは嫌という程味合わされたが、キースさん、セシリーさん、ネスラーさんも、自分では弱いと言っているがツバメ寮の中でも高い実力を持つ上級生三人だ。固まって守りに徹されたらなかなか突破できない。
ディアナの最大級の攻撃呪文を防げるのかどうかはちょっと分からないが。一掃されたりしたら笑えないぞ。
俺はというと、火力はまあ十分だろう。それに、複呪文を駆使して防御に徹すればそうそう倒されない自信もある。レベッカとの戦い以来、複呪文の練習には力を入れてきたから、だいぶ扱いが上手くなった。
問題は機動力か。走るだけ、ってのはちょっと厳しい。もうちょっと早い移動方法があれば、もっと撹乱できるし、突進力も上がる。とはいえ走る以外にどうしろっつう話ではあるが。
俺一人ならともかく、チーム戦で氷上滑走戦法を使うわけにもいかない。マリーの大ジャンプみたいなことができればなあ。
それにしても、今日の練習は結構疲れた。
明日はスカイジョストの練習だ。ルカさんからスカイジョストの実戦を訓練してもらうことになっている。
そういえば、ルカさんは自分で戦ったらどれくらい強いんだろう?なんか強そうな雰囲気があるけど。今度キースさんとかに聞いてみよう。




