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六十一話 計画

 そして二日後の夜がやって来た。

 二日前にシェスフィと計画した、秘策の取引現場襲撃作戦の本番だ。俺は今ヴィンスに気づかれないよう少し遠くで待機している。


 辺りは暗い闇と静寂に包まれている。嵐の前の静けさ。そんな緊張感が漂う。


 手元の懐中時計が十時を示した。

――作戦開始だ。


 俺は素早く例の水瓶の元にやって来た。

 いつもの感覚強化系の呪文はすでに発動している。水瓶の下から話し声が聞こえてくる。


「――で、これがそうか」


「――ああ、金はあるか?」


 俺は水瓶をどかして、地下に飛び込んだ!


「――この財布の中に、……何だ!」


「――≪ヴォンキーテ(結べ結べ結べ) クアテル(四度)≫!」


 俺は適当に束縛の呪文を放った。狙いはつけてないが、狭い地下室なら複呪文で放てばまず避けられない。

 シェスフィは「殺してもいい」と言っていたが。だからと言って殺人はなあ。


「ぐっ!」


「ぬっ!?」


「きゃっ!」


 あ、シェスフィも捕まえちった。

 まあいいか。


 俺は地面に転がっている俺の財布を回収した。


「……なぜお前がここにいる!」


 ヴィンスが叫んだ。


「親切な人に教えてもらった。……ところで、こいつらそのまま突き出しても大丈夫なのか?」


 俺はちょっと気になって聞いてみた。

 もしヴィンスの顔や名前が割れてない場合、兵士の詰所かなんかに突き出しても「誰ですか?」となる可能性がある。


「大丈夫よ。そっちの商人はともかく、ヴィンスを縛って連れて行けばあなたは胴上げされるでしょうね」


 どうやら大丈夫らしい。


「……お前か!シェスフィ!」


「フン、誰が盗賊なんて!この子が来てくれて助かったわ、やっとあんたにびくびくしながら生活しなくて済む」


「この女……!おい、ガキ!お前の財布をスったのはこいつだぞ、こいつも突き出さなくていいのかよ!?」


「正義屋気取りじゃないからな、協力してくれたんなら大目に見る」


 俺はシェスフィを解放してから、ヴィンスと商人を連れて兵士の詰所を訪ねた。


 最初眠そうに俺に対応した兵士だったが、空中でじたばたするヴィンスを見ると飛び上がり、「ヴィンスが捕まったぞ!」と叫んだ。

 するとどこからともなく兵士達が湧いて出て、シェスフィの言う通り俺は胴上げされた。


 そしてヴィンスはすぐさま牢にぶち込まれ、取引していた商人も怪しいやつだ、ということで一緒に収監された。


――完全勝利。


 その日、俺は相変わらず安宿に泊まったが、床に就いた時の心地よさは高級宿に勝るとも劣らないものだった。


 翌日。

 気分良く目覚めた俺は、さっそくユニコーン馬車の予約をしようと思い馬車の停留所にやって来た。

 そして、取り戻した財布を開け――あれ?

 

 あれあれあれあれあれ?

 どう数えても千アリル位しかないんですけど。

 母さんが俺に渡した金額は、「一日六千くらいのとこに泊まって、それが六十日分くらいでしょ。それと交通費とか遊んだりする分を入れるでしょ」と合計で五十万アリルもの大金だ。盗まれた時はだいたい四十万くらいあったはずだ。

 えっ、これ、ちゃんと俺の財布だよね?

 いや、つうか、俺の財布じゃなくたって、ちゃんとお金無きゃおかしいよな?まさか秘策がたった千アリルで買えるようなもんとは思えないし。


 俺は「ちょっと失礼します」と窓口の人に断ってから、馬車の停留所を飛び出して昨日訪ねた兵士の詰所に行った。


「あのー、すいません!ヴィンスが収監されてる牢屋って――」


 俺の顔を見た兵士は「あっ!」と叫んで俺の元に駆け寄って来た。なんだ?


「大変だ、きみ!――ヴィンスたちが脱走した」


 はああああああああああ?


「――最悪!!ほんっとうに最悪!この町の兵士は無能の集まりよ!信じられない!」


 冒険者協会を訪ねてみると案の定シェスフィがいて、俺はヒステリーに付き合わされていた。俺もヒステリー起こしてえよ。


「……取り戻した財布なんだけど、千アリル位しか入ってなかった」


「何ですって?じゃあ、秘策とやらは千アリルで買えるものだったっていうの?」


 そうとは考えにくいが、だったら何だっていうんだ?

 会話を聞いていた限りじゃ、取引はちゃんとしてた。そもそもシェスフィがその場で見てたし。

 一体何が起きてる?


「……結局わたしはあいつの呪縛から逃げられないんだわ!そうとわかってたらあの時竜の巣に行って死んだのに!」


 だいぶ絶望してるな。

 しかし、正直俺もちょっと絶望したい気分だ。せっかくモノにしたはずの、盗まれた金を取り戻すチャンスはなぜか水泡に帰した。

 これでまた振り出しだ。今から短期間で大金を得る手段は……あ。


――竜の鱗。


 もし、もしどうにかして俺がそいつを手に入れてしまえば、一発で大金を得られる。

 どころか、本来の目的であったはずのアンナの碑文巡りまでついてくる。

 あとはどうやって竜の巣までたどり着くかだが、その道を知っているやつが目の前にいる。


 二つの難題――一つは竜の巣に案内するのが嫌で逃げて来たシェスフィをどうやって説得するか、そしてもう一つはどうやってドラゴンを出し抜くか。この二つが解決できれば!


 とりあえず、まずはシェスフィを説得してみよう。

 そうだな。


「なあ、シェスフィ」


「……なによ?」


「俺を竜の巣に案内してくれないか?」


「わたしの身の上をもう忘れたわけ?」


「いや、覚えてる。竜の巣に行くのが怖くて逃げ出して――今はヴィンスが怖いんだろ」


 シェスフィは、「わかったような口を聞いて」とぼやいたが、俺に顎でしゃくって続きを促した。


「――あの取引が何だったのかはよくわからない。だけど俺の金はほとんど無くなってたから、それがどこへ行ったのかを考えると、たぶん秘策とやらはもう手に入れてると見た方がいい。……どう思う?」


「確かに、そうかも知れないわね」


「となると、ヴィンスはまだ竜の鱗を狙ってる。でも、案内できるシェスフィがいない。なら、釣り出せるんじゃないの、ってこと」


「……それで、あなたを竜の巣に案内するってわけ?」


「そうだ。この町はやつの庭なんだろ?だったら町から出た方がいい。ヴィンスが竜の鱗を狙ってるなら、こっそりついてくるはずだ。秘策をもう持ってるなら、竜の巣に行くのに躊躇はしないだろ」


「……まあ、まるっきり荒唐無稽ってわけじゃないわね。わかったわ。他に思いつかないし、それでいきましょう」


 よっしゃ。

 あとはドラゴンをどうするかだが、ヴィンスの秘策に期待するしかないか?


「……それで、ヴィンスをどうにかできたらあなたはどうするの?」


 おっと。聞かれたか。


「……出来れば、竜の鱗が欲しい。俺は王立魔法学院の生徒で、今は夏休みなんだ。俺は元々別の目的で竜の巣を探索したくてここに来たんだけど、思ったより危険そうだったから今年は諦めて帰ろうとしたらシェスフィに財布をスられた」


 シェスフィが「悪かったわね」と呟いた。


「――それで、夏休みが終わったら当然学院に行かなきゃならないから、それまでにケルネにある家まで帰らないといけない。だからすぐにまとまった金が欲しい」


「ケルネ?そりゃ、ユニコーン馬車でいかないと間に合わないわね。というか、鱗が目的じゃなかったら何だっていうの?それに無鉄砲すぎるでしょ」


 言われてしまった。


「それで――」


「協力はするわ。最後まで付き合うわよ。わたしはあなたしか頼れる人がいないし。ヴィンスをどうにかした後だってモンス・エルブスを一人で降りたくはないわ」


 ふう、よかった。


「出発はいつにするの?」


「こっから竜の巣に行くまでどんくらいかかる?」


「私が案内すれば三日よ」


「……早くね?」


「近道があるのよ。モンス・エルブスまでたどり着いたらすぐ竜の巣に行けるわ」


 さて、出発は何時頃にしようか。

 何事もなければ六日くらいで行って帰ってこれる。時間的余裕はあるが、あまりぐずぐずしていてもしょうがない。


「じゃあ三日後で」


「わかったわ」


 俺たちは作戦会議を終えて別れた。


 しっかし、あの取引は何だったんだろうな?

 脱走までヴィンスの計画のうちだったとしても、何がやりたかったんだろう。

 まあ、俺はシェスフィの案内に従って竜の巣に行き、ついでにヴィンスをやっつけるだけだ。

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