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六十話 共謀

「っ……!」


 泥棒女が恐怖に染まったような表情をする。

 思わず捕まえてしまったが、ここからどうしよう。


「い、いつから追ってたの?」


 泥棒女が聞いてきた。


「冒険者協会にいた時からだな。おかげさまで俺も冒険者になったんだ」


「……う、迂闊だったわ。身寄りのない人間が、手っ取り早く稼ぐならまず冒険者になるのに!しかもあなたは魔法が使える!」


「……とりあえず俺の財布のことを聞こうか。あれ、どうなった?」


 俺は自分の金がどうなったのかを聞いた。

 まあ、十中八九何かに使われてるだろうが。


「あ、あなたのお金はまだ無事よ」


 おっと。こいつは嬉しい誤算だ。


「もう結構経ってると思うが。まだ使ってないんだな?」


「でっ、でも、使い道は決まってるわ」


「使い道?」


「ええ。わ、わたしも詳しいことは聞かされてないけど、竜の鱗を盗むための秘策を、あなたの金で用意するそうよ」


 竜の鱗、か。

 確か、ものすごい薬効があって、ちょっと削った粉末をひとつまみ飲むだけで万病を一発で治すらしい。重い病気でなくても、肩こり、腰痛、リウマチ、老眼、頭痛、冷え性、鼻づまりなどを改善しクオリティオブライフを格段に向上させ、一年に一回の服用で寿命を十年単位で延ばす秘薬だそうだ。

 当然その圧倒的すぎる効果と、当のドラゴンが希少かつムチャクチャに強く非常に入手困難なことからアホみたいな高値で売れ、一つゲットして売りさばくだけで莫大な金を得られる。まあ、お宝だ。

 しかし、ドラゴンからどうやって鱗をひっぺがすのか、俺は知らない。盗む、と言っていたが。


「盗む、とはどういうことだ?寝てるドラゴンの鱗を剥がすのか?」


「そ、そんなわけないでしょ!……ドラゴンだって生き物よ、鱗は少しずつ生え変わっていくの。その時に剥がれ落ちた鱗が巣に溜まってる。だから、竜の巣に忍び込んでそれをくすねてくるのよ」


 なるほど、だから“盗む”のか。

 で、秘策というのはなにかドラゴンを巣から引き離すか、あるいはドラゴンにバレないよう身を隠す手段とかか。

 まあ、秘策が何かはどうでもいい。


「で、あんたはあの男が今どこにいるのか知ってんのか?」


「しっ、知らないわ。……でも、あいつ――ヴィンスが確実に現れる時なら知ってるわ、しかもあなたのお金を持って!」


 あの男の名前はヴィンスというのか。

 いや、それよりも。何を知ってるって?


「三日後の夜十時に、町の北西の方の地下で、その秘策とやらの取引が行われるの。その時にお金のやりとりがあるはずよ」


「町の北西の地下、っつってもな」


「ちゃんと詳しい場所は知ってるわ、あなたを案内できる。――て、手を組みましょう!わたしがあなたに場所を教えるから、あなたはヴィンスを捕まえるか、殺してちょうだい!」


 泥棒女がとんでもないことを言った。


「やけに協力的だな?」


「あ、当たり前でしょ!ヴィンスより強い魔法使いの機嫌を損ねたくなんてないわよ!――それに、わたしだって好きで盗賊なんてやってるわけじゃない!出来ることなら足を洗いたいのよ!今まではあいつが怖くて逆らえなかったけど、あなたがあいつを消してくれるなら喜んで協力するわ!」


 うおっ、なんかすごいまくし立ててきたぞ。


 というか、この女も割と謎だな。確か、もう一人の男が「竜の巣まで案内してくれれば上等」なんて言ってた気がするが、するとこいつは竜の巣の場所を知ってるのか?


「……あんたは何者だ?竜の巣の場所を知ってるのか」


「え、ええ。わたしはシェスフィ。モンス・エルブスの中腹に住んでいる部族の出身よ」


 おお、すごい出自だ。

 となると、あれか。ドラゴンを信仰してて、一年に一回生贄とか捧げてる感じか。それで竜の巣の場所を知ってるとか?


「そ、その部族は、十年に一度、竜の巣に若い娘を一人巡礼させるのよ。それが今年で、わたしが選ばれた。――でも、わたしは途中で逃げてきたの!だって死にたくなかったから!ヴィンスにはその時拾われたの」


 だいたい合ってたか。


「にしても災難だな、結局案内するために竜の巣までいくハメになってる」


「その通りよ!だから、あなたにはなおさらヴィンスを消して欲しいの。……ええ、今日あなたに捕まったのはむしろ幸運ね!明日の朝は空いてるかしら?あなたに会合場所を案内するわ。冒険者協会で落ち合いましょう」


 その後、俺は泥棒女、シェスフィと別れた。


 そして翌日。


「おはよう。……早速案内するわ、ついてきてちょうだい」


 朝一で冒険者協会を訪れてからしばらくすると、ちゃんとシェスフィがやって来た。

 俺はシェスフィについていった。


「……ここよ。この水瓶をどかせば――ほら!この先の地下で二日後に取引が行われるわ」


 俺はあの時シェスフィを追ったような複雑な路地裏を縫っていった。

 こんな、建物の陰に置いてあるなんでもないような水瓶が隠してるのか。


「……この町には、この手の隠された地下室みたいなのはいっぱいあるのか?」


「ええ。この町にはヴィンスが魔法で造った地下室がいくらでもあるわ。あいつとそのお仲間はそこに潜んで日々コソコソしてるってわけ」


 なるほど。


「当日はどうするんだ?」


「好きにしてちょうだい。下手に何か作戦を立ててもあいつに感づかれる。十時にヴィンスと、秘策を用意した商人が落ち合うから、そのタイミングで適当に襲撃して」


 お、おう。

 だいぶ適当だな。


「それじゃ。――ちゃんと道覚えときなさいよ!忘れたら承知しないわよ!」


 シェスフィはそう言ってどこかへと消えていった。


 まあ、確かに複雑だからな。

 俺は何度か往復して道をしっかり覚えてから、路地裏を立ち去った。

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