五十九話 捕縛
冒険者生活が始まってから一週間が過ぎた。
一時は無一文になり生命の危機すら感じたが、新しく安い宿も見つけてそこそこ順調に生活できている。
冒険者活動も楽しい。俺は基本的にダグラスさんたちと一緒に依頼をこなしている。
ダグラスさんとはいつも討伐数を競い、ラルフには体の動かし方や鍛え方、エレンにはいくつか呪文を教えたりして楽しくやっている。
だが、そんな中で、俺はある決意をしていた。
ダグラスさんたちから離れ、一人で活動する決意である。
なぜ上手くやれているのに、一人で活動しようと考えるのか。
純粋に金の問題である。
俺たちは主にモンスターの討伐依頼をこなしている。そして、自分で言うのもなんだが、俺のおかげで成果が上がっているので報酬は通常よりもはるかに貰っている。
それでも四人で均等に山分けされるので、一人が貰える額というのは実は大したことはなくて、宿代や食費などでだいたい無くなってしまう。
が、それ自体は当たり前だし、そこに文句があるわけじゃない。第一ダグラスさんの分が、俺含め新米三人と同じ割合ってすごい話だしね。
けれど、俺は腰を据えてじっくりと冒険者としてのキャリアを積んでいる場合などではない。
俺の目的は夏休みが終わるまでに自宅に帰るための旅費を稼ぐことであり、早急にまとまった額の金を用意しなくてはならない。
なので、日々の生活費でほとんど使ってろくに貯金が貯まらない現状は、正直困る。
だったら、俺一人で依頼を受けて、報酬を総取りして稼ぐしかない。
一人でやる分、戦果は落ちるだろうが、今度は周りを巻き込むことを気にせず魔法をぶっ放せるのでガタ落ちはしないはずだ。
俺は朝、いつものように冒険者協会に四人で集まった時に「ちょっと話があるんですけど」と事情を説明した。
まあ、嬉しいことに引き止めてくれたので話はそこそこ長引いたが、最終的には納得してくれた。
今、俺はまた一人だ。
貯金はほとんどできなかったとはいえ、ここ一週間が無駄だったわけではない。依頼をこなしていく中で、俺はヘルムト周辺の地理を頭に叩き込み、どこにどのモンスターが出現するのかもだいたい把握していた。
俺が考えた稼ぎ方は、だいたい生息範囲が被っているモンスターの討伐依頼を三件同時に受注して、一日で全部こなすことだ。
基本的にヘルムト周辺のモンスターは倒しても倒しても湧いて出てくるくらいにはいるようなので、常に掲示板に張り出されている。なので、毎日三件受注しても依頼がなくなる、ということはない。
さあ、理屈の上ではまあまあ稼げそうだが。実際のところはどうかな?
というわけで俺は数日ソロ活動をしてみたが、うん、上々だ!
俺は強化された身体能力で山を駆け回り、モンスターの群れを発見しては環境を破壊しない程度の魔法で一掃した。
報酬は四人の時から、なんと五倍程度に増えた。収入五倍て、ネットの広告の煽り文句でもそうそう見ない値だぞ。
もちろんできるだけ倹約はしている。宿も安いところを借りている。まあ、食事だけはちゃんと取らないと体調壊すから結構使っちゃってるんだけど。
ともかく、ソロで問題なく稼げているのでそろそろ具体的にどれくらい稼ぐべきか、馬車の停留所や郵便局に問い合わせてみよう。
俺はまず郵便屋に向かった。
「すいませーん」
「はい、こんにちは。郵便のご依頼ですか?」
俺は手紙出して両親にSOSを送る方が安いと考えて、ヘルムトの町の郵便局に来ていた。
「いえ、ちょっと聞きたいことがあって。――闇の魔法対策委員会に手紙を出したいんですけど、最短の方法ってなんですか?」
両親は出張中なので今どこにいるかはわからないが、送るとしたら多分ここが一番確実だろう。
だが、俺がそう聞くと、窓口のおじさんは困ったような顔をしていった。
「あー……。お客さん、そこって省庁の組織でしょう?まあ省庁だけじゃないんですけど、そういうとこに送る時は公文書として送らないと受け付けてくれないんですよ。んで、専用の紙と封筒を王都から取り寄せないといけなくてですね」
なんだとぉ?
「え、じゃあすごい時間かかりますか?」
「まー、ここは遠いですからねえ。ここから申請書送って、向こうで審査があって帰ってくるまで三週間はかかるんじゃないですかねえ」
冗談だろ?
なんでそんな面倒なことしなくちゃいけないんだ?くそ、とにかく手紙送んのは無理か。
「……わかりました。じゃあ、やめときます。ありがとうございました」
「いやあ、お力になれず申し訳ありません」
「いえいえ、じゃあ、失礼します」
郵便局がダメだったので、俺は馬車の停留所を訪ねた。
普通の馬車で俺の家がある町、ケルネへ行くのにかかる費用と時間を問い合わせてみよう。
「すいませーん、ヘルムトからケルネまで普通の馬車で行くのって、どのくらいお金と時間かかりますか」
俺が窓口の人にそう尋ねると、窓口の人はしばらく考え込んでから言った。
「うーん、そうだねえ。乗合馬車を何回か乗り継ぎして、費用は九千アリルくらい」
おお。
俺の今の貯金が二千アリル位、一日でだいたい五百アリル位たまるから、まあ食費とか宿泊費を考えるとあと三週間くらい頑張れば旅費は稼げそうだ。
今から三週間後だと、夏休みの残り期間は二週間ないくらい。ギリギリ間に合いそうか?
「――で、二十日くらいかねえ」
……おいっ!全然間に合わないじゃないか!
「えええ?そんなに掛かるんですか、ユニコーン馬車とか三日だったのに」
「乗合馬車の便の関係とかもあるからねえ。それにお坊ちゃん、ユニコーンと比べちゃいけないよ。あれは馬とそっくりだけど子猫と虎くらい違う生き物だよ」
ま、まじか。
くそ、となるとユニコーン馬車で帰るしかないが、ユニコーン馬車の料金は、俺が行きの時は四万八千アリルくらいかかった。どう考えても時間が足りん!
あーあ、どうしよ。
夏休み終わるまでに帰んのはきついのかなあ。
シルバーランクに昇格すれば依頼の報酬も上がりそうだが、確か半年続けないと認められないらしい。
なんとか短期間で大金を得たい。
だが、なんも思いつかん。
俺は問い合わせの後も一応依頼をこなした。だいぶやる気は無くなっていたが。
午後からやったので帰りが深夜になってしまったが、冒険者協会はまだ空いていた。
中はだいぶ閑散としていて、数えられる程度の人数しかいない。
窓口で依頼達成の処理を待つ間、ふと隣の窓口にいる冒険者が目に入った。
十五、六くらいの年齢の少女で、ほとんど白に近いような水色の髪をしている。
ちょっと待て、こいつあん時の泥棒女じゃん!
隣の泥棒女は、こっちに気づいていない様子だ。
俺は手続きを終えるとゆっくりとその場を離れて遠ざかった。
泥棒女が協会を出た。
俺は例のごとく聴覚と視覚を強化し、消音の呪文をかけて後を追った。
しばらくストーキングしていると、泥棒女は人気のない細い道に入った。
ちゃぁぁぁんす!
俺は一気に駆け寄って≪ヴォンキ≫の呪文で泥棒女を捕らえた!
「なっ、なに――!?」
俺はもがいている泥棒女の前で屈み、ちょっとホラーな感じに見えることを期待して、魔法で俺の顔を下から照らした。
「――よっ、久しぶり」




