二話 スタートラインが遠すぎる
つっても、地球のコーヒーを一から十まで再現しよう、ってどこから手をつけりゃいいんだ?
とりあえず、当たり前の事だがまずコーヒーの素となる植物、つまりコーヒーノキを見つけなくちゃならない。
ところがこれがいきなり難題だ。
何しろ、カカオが見つかってるのにコーヒーノキが見つかってないのだから。
地球ではコーヒーの産地は赤道付近のいわゆるコーヒーベルトに固まっている。まあ要するに熱帯だが、そのような地域でかつ、標高が高いところがコーヒーの栽培に適している。
で、これがそのまま低地になればだいたいカカオが育つ環境になる、と思う。
何が言いたいかというと、カカオが見つかってるならその近くに高いところさえあればコーヒーノキが見つかっていてもおかしくないんじゃないの?ということだ。
しかし、俺のこの疑問は頭の中にしまっておくしかなかった。なぜなら、実際のところどうなのかを確かめる手段がない!
まずインターネットで検索、て事ができないのは言うまでもない。オッケー、グーグル!「コーヒーノキの生息地」を調べて。――ええ。父さんは「何言ってんだこいつ」みたいな目でこっちを見てきましたとも。
となれば時代を遡って紙媒体、といきたいところだがそもそもこの世界、全然日常の中に本がない。町に本屋も図書館もないから調べようがない。
一応、印刷技術自体は既にあるらしい。
俺が生まれた家は魔法使いの一家のようなのだが、家にあった数冊の本をぺらぺらとめくってみたところ手書きではないように見えた。
が、本が普及していない。
なんでなのか、はちょっと気になる所ではあるが、重要なのは本は貴重であり、したがって情報もまた貴重である、ということだ。
つまり、俺はまだコーヒーへと到る道の入り口にすら来ておらず、まずは俺がコーヒーを発見するために何をすべきなのか、を考えるための予備知識を得られる場所を探す所から始めなくちゃいけないわけで、要は本がいっぱいあるところに行きたい。
するとやはり想起されるのは研究機関、教育機関の類であり、つまり学校だ。
そして何とも運の良いことに、俺には学校へのコネクションがある。そう、魔法使いの両親だ。
こっちの父さんと母さんは、王立魔法学院、とやらで出会ってそのまま結婚したらしい。ひゅーひゅー!
二人は俺がいたく興味を示したこともあって、よく学院の話をしてくれる。
そりゃ、魔法を教える学校なんて、現代の大半のティーンエイジャーが食いつく話だろう。俺の偏見か?
ともかく、その話の中で蔵書数約百万の大図書館の存在を確認している。ならやることは明白だ。魔法学院に入学して、図書館の関連書籍を読み漁る。
学院は魔力さえあれば試験も何もなしで入学できるらしい。この条件は、魔法使いの夫婦から生まれた俺は当然クリアしていた。
というわけでひとまず俺は、王立魔法学院とやらに入学するまで待てばいいのだけど、問題があるとすれば、まさにこの“待つ”ってことだ。
今、俺のこっちでの年齢が七歳で、学院に入学するのは俺が十二歳になる年。あと大体四年半で、それまで待たないといけない。
うへぇ!元いた世界だったら大学を入って出てるぜ、留年しなけりゃの話だけど。
さて。
というわけで少なくとも四年半は滅茶苦茶暇だから今ある知識でコーヒー再現を実現するための考察を進めてみよう。
とりあえず、苦節何年、ついにコーヒーノキを発見したと仮定する。やったぜ!
栽培を考えるのも土地の確保だの何だのときりがないので省略!土地確保しました!コーヒー育てました!
が、だからといってすぐにコーヒーに困らない生活が送れるわけじゃない。コーヒーノキに実っている果実――コーヒーチェリーをそのまま搾ったところであのコーヒーは出てこない。
ちゃんとしたコーヒーを抽出するまでの過程をコーヒーチェリーの収穫から追っていくとしよう。
まずコーヒーチェリーから種子、いわゆるコーヒ豆を取り出す。
んー、精製方法はどうしようか?品質を考えなければナチュラルの方が簡単そうだが。
いや、それ以前に果肉とか皮とかをちゃんと取り除ける道具があるのか?……うわっ、いきなり壁だ。
現代の地球ではそんなことは当然機械でやってる。だけど俺にはその仕組みがわからない。最悪手作業?ヒエーッ、こいつを考えるのは後回しだ。
よし。頑張って種子を取り出して、生豆の状態に精製できた!としよう。
そしたら生豆に熱を加えて、あのよく見る茶色い豆の状態にする焙煎の工程だ。
これはそんなに難しくないだろう、なんたって熱を加えるだけだ。せいぜいネックは火力の調整と均等に熱を与えられるか、というくらいでそこは創意工夫で何とかなる。はずだ。
で、焙煎して茶色い豆になったら、今度はそれを挽いて粉にする。
こいつは問題ない。
小麦粉。それに胡椒。挽かれて粉になってる物はたくさんある。たぶん、粉を挽く道具はそこそこいいものが開発されてるんじゃないかな。
そしたら、後は液体だけ通して粉は通さないような、目の細かいフィルターに粉を入れて湯を注げばいい。
現代でこそ紙製が主流だが、元来、そしてガチ勢の間では現代でも布製のフィルターが使われているから、それでいい。フィルターの用意も問題ない。
となると難しそうなのは、コーヒーの栽培と種子を取り出すところだな。
まあ、そりゃそうか。見事に現代でも個人レベルではできないところだ。
はい。考察終わり。
これで入学までの約四年半のうち十数分が過ぎた。
はあ。
暇。
次回、四年半後!(早)
学院編!