一話 異世界転生しましたがコーヒーがないんですけど??
コーヒーが飲みたい。
衝動的なものじゃない。ここ七年ずっとそう思ってる。
んじゃ飲めばいいじゃん、って話だが、そうはいかない。
俺が今いるところには、自動販売機が無かった。
コンビニもない。
喫茶店もない。
飲み屋、食事処の類は流石にあるがメニューにコーヒーがない。
というか、そういう問題じゃ無かった。
――そもそもコーヒーという存在そのものがないらしい。この世界には。
事の始まりは七年前だった。
といっても、何が起きたのかはよくわからない。道を歩いていたら突然、衝撃、を超えたような何か、いや意味不明だが、とにかくそんな感じの何かに襲われた。
で、気がついたら、電気もプラスチックもエンジンもない生活を営んでいるらしい家庭で赤ちゃんになっていた。
何が起きたのかはよくわからない。
ただ、夢でもみているか、場合によっては、現代の物理学では説明できない何かが起きた、とだけ理解した。
そして七年が経った。
最初俺は当然、“自分は夢を見ている説”を提唱し、そのうち覚めるだろう、と気楽に楽しんでいたが、“夢の世界”で数ヶ月が経過した辺りで焦り始め、二年が経った頃には諦めると同時にオムツを卒業した。
“異世界”、俺はこう呼称することにしたが、とりあえず俺は、この異世界の人間として過ごすことにした。
さて。
電気もプラスチックもエンジンもない生活だ。技術という侍女のうやうやしい奉公を当たり前に育ってきた、文明貴族である現代人の俺に、そんな生活が耐えられるのか。
結論から言うと、めっちゃ耐えられた。というか、耐える、と言う意識すらなかった。
まあ、こういうライフスタイルへの過剰な憧れとかもあるだろう。
意外と綺麗だったのもある。ほら、良く言う“中世のパリでは排泄物まみれだった”とか、ああいうのを思い出して戦々恐々としてたんだが、意外と上下水道の整備がかなりちゃんとされていたりして清潔な街だった。
飯もまともだった。つか、美味かった。
中世では貴重なイメージのある塩がしっかりときいていたし、ジャガイモ、トマトのような地球では新大陸由来の作物は当然の如く食事に供され、同じ重さの金と等価だったはずの香辛料がふんだんに使われていた。
だが。一番はやっぱりあれ、いわゆる“魔法”というやつの存在だろう。
よく娯楽作品なんかで科学と対に扱われたりする魔法だが、実際科学技術をある程度代替、いや一部では上回ってさえいた。
というわけでわりと便利で快適だった異世界だが、一つだけ、許せないというか、耐え難い事があった。
それは、この“異世界”に、あろうことかコーヒーだけがまだ存在していないということだ。それも、カカオがあって、フツーにチョコとか食ってるっつうのに、だ。
どーして標高が違うだけで大体産地が共通している作物なのに、コーヒーだけ無いんだ!?
コーヒーくらい無くたっていいじゃん、と言う人もいるだろう。
だが、俺にとっては無くてはならないソウルドリンクだ。どれだけ飲んでるかといえば、多分体積でいえば米より多い。俺が単に米をあんまり食わない、ってのもあるが。
最初の数年はエンジョイ異世界、エンジョイ魔法文明、みたいなノリで何とかごまかしていたが、慣れてだんだん新鮮味が薄れてくると途端に湧き上がってきた。コーヒーへの渇望が。
なので俺は元いた世界に帰るとか、凄腕の剣士になるとか、偉大な魔法使いになるとかいった夢を一旦全て放棄して、コーヒーの発見及びコーヒー抽出技術の再現、を目下の至上命題として己の全てを捧げる決心をした。
十八歳でこちらへやってきた高橋裕紀改め、七歳のリオ・クライヴ少年の一世一代の決断である。
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