40 棒は魅力的
「3章が始まるわ」
ピッ……ブウゥン
狂信者のダンジョンから飛び出した後、俺とキュクは北へと飛んだ。
キュクが言うには狂信者のダンジョンは帝国と神教国の国境付近にあったらしい。帝国とか神教国とかどこだよ……。
狂信者のダンジョンから飛び立ち、今後どうするかと思っていると目の前に文字が浮かんだ。
【Mission 北の帝国より這い出る者を始末しろ】
ゲームか!!
【北の帝国内部のどこかに侵略者がいるぞ。そいつを見つけてぶっ殺しちゃえ▼】
これ多分あいつだな……こんなこと出来る知り合い他に知らないし……。
【多分ダンジョン内とかに居る筈だ。人間ごとまとめて吹っ飛ばせ!!▼】
文字の後の▼いらねぇだろ……。完全にゲーム感覚だな……。
それにしても人間を助けろとかじゃ無いのか……。まぁ助ける気も無いけど。
「これはいいミッションですね」
ミッションに良いも悪いも無いよ?多分。
キュクはウンウンと頷いている。
「それでは帝国を滅ぼしに行きましょうか」
目的が違う!?
とりあえずダンジョンを探すにしても一度町で色々な情報を得たい。今の俺たちは何も知らなさすぎるからだ……。
幸いにも【ひとセット】や【ミミックセット】もあるいざとなれば進化を繰り返せば何か役に立つ進化が出る筈だ。
俺たちは帝国から少し離れた森で一旦着陸すると進化能力の把握に勤めた。
中に入るにも俺のこの姿では入るのも難しいだろう。
繰り返し練習すること三日、初めは俺の体から人の腕や体がうぞうぞと涌き出るだけだったのが何とか形を保てるようになった。
あとはこれを長時間維持することである。
人間をやめて体の感覚が変わったからなのか人の体の感覚がよく分からない。
もっとも前世が人だったかも分からないのだが……。
練習を始めて1週間やっと人の体で活動を完全に出来るようになった。
時折キュクが場所を移動する為、今は川原で練習している。
川縁に手をつき水を覗き込んでみると白い白い肌の黒髪黒目の少年がそこにはいた。
年は8歳ほどで顔は適度に整った童顔系のイケメンだ。もっとも崩して作る方が難しいのだが……。
イメージで姿が変わる以上左右の形をわずかに変えた顔は中々イメージするのが難しいのだ。一流のミミックなどになると宝箱の苔やカビまで再現するらしい。
彼らの化けることに対する情熱は見習えそうに無い。
「ロプス様今日の訓練を始めましょう」
「ああ」
だが、何より嬉しいのは普通に喋れるようになったことだ。
人の姿に慣れてくると声帯も上手く真似られるようになった。
俺はキュクと向かい合って立つ。
「それでは行きます」
キュクは拳を握り構える。足を肩幅程度開き右足を前へ、そしてほんの少し重心を落とす。
キュクは踏み込むと同時に俺の頭へと中段蹴りを放つ、俺はそれを左手で受け足を掴みながら右に倒れるようにして抱き込む。
キュクは瞬時に足の方向を変え地面へと叩きつける。
俺は間一髪足を離しキュクの右手へ移動すると抜き手を放った。
キュクは肘でそれを捌くと俺の顔へと裏拳を振るう。
俺は体を反らし躱そうとしてキュクにアイアンクローを食らう。
「ぬおおおおぉぉぉ」
「中々良くなっています」
キュクに吊り上げられたが直ぐに降ろされた。
それからも何度も拳を交え避け、打つ練習をした。人の姿で戦うことに意味など無いが人の姿を慣らすためと単純な戦闘訓練である。
人化ができるようになってからそれを続けているが一切キュクに勝てない何故こんなに強いのか……。あれか?限界突破か?俺にも無いだろうか?
「いえ、それは関係ないかと……単純にロプス様が体に慣れていないだけです」
「まぁ人の感覚には違和感みたいなのがあるな……」
「私もまだ力を扱い切れていないようなのを痛感しています」
キュクはシュンとしたように言っているが扱いきれない力でボコボコにされる俺とは……いや、よそう。
キュクは俺の一部なのだからキュクの手柄は俺の手柄ということだ……気にしたら負けである。
「そろそろ人の姿や擬態も安定してきたし帝国の方へ行くか?」
「そうですねそろそろ問題無いでしょう」
【ミミックセット】の【擬態】これは種族や姿を変えるミミックの特性だ。
俺は人の姿に【ひとセット】で全身を変え種族名称を人に変える練習をした。
これによって簡単な鑑定スキルなら防ぐことが出来るようになった。
「まぁ急ぐ旅でもないし適当に歩いて行くか」
「わかりました」
ー◇ー
森を抜け街道へ出て俺たちは歩いて帝国の首都を目指すことにした。
ここからならば3日もあるけば帝国の首都である帝都『ヴァンルディア』に着く筈である。
俺は適度に身なりの良さそうな子供服を着ている。シンプルなシャツとズボンでありながら肌触りが良い。
色は藍色である。俺が人化した時にキュクが取り出して着せてくれたのだ。出所は怖いので聞きたくない。
色とかで大体予想がつくし……。
「平和だなー」
森には時折モンスターらしき影が見えるがこちらの姿を見た途端素早く逃げて行くので戦闘にならない。
「外のモンスターはダンジョンの者と違い意思が強いですから」
キュクは背中に背負った大きなリュックサックをガチャリと揺らしながら答えた。
「そういえばダンジョンのモンスターと何か違うのか?」
俺は地面に落ちていた木の棒を拾い適当に振りながら歩く。キュクは棒をジッと見ている。
欲しいのか?
「ダンジョンのモンスターはダンジョンマスター……が魔力で生産した即席モンスターと外から入って来たモンスターがいます」
ダンジョンマスターって言うの面倒になったな……。俺も面倒だけど……。
「外のモンスターやダンマスが自ら呼び出したモンスターは意思を持ちますが魔方陣などを設置し勝手に呼び出すようにしたモンスターなどは意思が弱いのです」
「つまりダンジョンのモンスターは殆ど魔方陣なんかで呼ばれた意思の弱いモンスターだと……」
「そうです。ロプス様も毎日モンスターを呼び出せと言われたら面倒でしょう?」
確かに毎日やるのは面倒だな……。
「ところでキュク」
「なんでしょう」
「これいる?」
「ください」
俺は楽しそうに枝を振りながら歩くキュクと街道を進んで行った。
ー◇ー
そして俺たちは遂に辿り着いた。
巨大な街門と外壁、街道には街へ入る為に並ぶ商人や冒険者で溢れる帝国の首都、帝都バンルディアへと。
「人多いなー」
「そうですね。滅べばいいのに」
キュクが何か黒いことを言っている。
「そうだ、はぐれないように手でも繋ぐか」
「ーー!!……わかりました!!」
キュクは俺を抱き上げた。俺の体は8歳程度とは言え身長は110cmほど……力のある大人なら抱えられる程度の重さである。
大きなバッグを背負ったメイドが抱えて歩くものじゃないと思うが……。
「迷子になっては危険です」
「まぁいっか」
俺はダラーンとキュクに抱かれ列に並んで順番を待っていた。
そんな時である。
「獣人風情が偉そうなんだよ」
どうやらテンプレが始まったらしい。俺たちがそちらへ向くと頭に三角の耳を持ちしゅるんとした尻尾の猫の獣人が倒れていた。
その猫の獣人を庇うように同じ灰色の耳をした猫の獣人の少女が男と睨み合っている。どうやら目の前の貴族らしき男と揉めているようだった。
貴族の男はいかにも高そうな服を着た青年だった。
「おい……あれ、シルブン家の奴だぜ」
「まじかよ。あの獣人も可哀想にな」
周囲の人達がぼそぼそと話している。
「シルブン家のボンボンって言うとアレだろ?純人間至上主義者」
「そうそう前も獣人を切ってたな」
「その癖、権力と金を持ってるからな……」
貴族の男はどうやら人間以外の者が嫌いらしい……牛乳とか飲まないのだろうか?
「差別かー世知辛いなー」
「そのようですね」
俺たちはぼんやりとそれらを眺めていた。
「私たちが何をしたって言うの!?」
「ふん、お前達は臭い。ああ、臭い臭い獣の臭いがするわ」
「なっ!!」
貴族の男は鼻を摘まみ不快を露にした顔をする。
「だったらさっさと街へ入れば良いでしょ!」
「ふん私が言っているのは貴様らが街へ入るなど不快だと言っている」
「あんたには関係ないじゃない!それに妹をいきなり突き飛ばすなんてどういうつもり!」
倒れている猫の獣人は妹らしい。
「ふん、僕の近くへ来て物を盗もうとしたからだ」
「そんなことしてない!ただ横を通っただけじゃない!?」
「どうだかな。貴様ら亜人は手癖が悪い」
周囲には少女達以外にも獣人や小人と言った者がいたためその者達が殺気だった目で男を見た。
どうやら亜人というのはかなりの侮辱らしい。
「なんだ貴様らその目は?僕はシルブン家の者だぞ?」
男が周囲を見るとそれまで少女を見ていた者達は直ぐに目を反らした。
そこまで力があるのかシルブン家……。
「ふん、まぁだが許してやってもいい」
「……?」
急に方向転換したことを言い出した男に少女も困惑していた。
「貴様らが僕の奴隷になるならな」
「ーー!!な……ふざけるな!!!」
少女は激怒し男の頬を叩いた。男はニヤリと笑った。
「殴ったな?これで正当防衛だ」
男は剣を抜き放った。
「……!」
少女は剣を見て怯えた顔をし後ずさった。少女は周囲へ視線を飛ばし助けて欲しそうに見ていた。
だが、皆視線を反らし下を向いていた。
少女の視線が俺たちを一瞬捕らえたので俺は適当に手を振っておいた。
少女は絶望したような表情をしていた。
「死ね」
少女の目に涙が浮かび剣が迫る。少女が目を閉じた時だった。
カァーン
と高い音をさせ剣を受け止めた者がいた。
「何のつもりだ?」
「…………」
それは少年だった。足を震えさせ掛けたメガネを少しずり落としながらも男の剣を手に持った槍で受け止めていた。
「あ……あなたのやり方は間違ってる」
「何だと?」
貴族の男は自分へと歯向かう少年を睨み殺気を放っている。
少年は震え今にも崩れそうな足を必死に支えて男の視線を受け止めていた。
「色んな考えがあるのは分かる。でも殺しちゃ……駄目だ!」
「ふん屑が僕に逆らうな」
男は槍から剣を離すと少年へと切り込もうとした。そんな男の腕を掴む者がいた。
「おい、これ以上俺のダチに手ぇ出すんじゃねぇよ」
ソフトモヒカンの少年が男の手を掴み止めていた。その背後から巨漢の少年やその少年達と同じ服を着た者達がぞろぞろと騒ぎを聞き付け集まって来た。
それを見て貴族の男はフンッと鼻を鳴らすと手を振り払い剣を納めた。
「貴様ら、後悔するぞ」
「僕はここで知らない振りをする方がきっと何倍も後悔するから……」
貴族の男は踵を返し自分の馬車や従者の方へと戻って行った。
「イッケメーン」
「テンプレですね」
少年は猫の獣人にお礼を言われ頭を下げられている。
周囲の少年少女も同じような白い服を着ていた。同じ服を着た集団ということは学生か軍人とかだろうか?
俺たちは面倒に巻き込まれない内にさっさと門を潜った。
これが俺たちと召喚者達のファーストコンタクトだった。
それは言葉を交わすことも無いすれ違いだったがこの時すでに世界を巻き込むうねりは始まっていたのだ。




