物語No.80『防人』
黒薔薇学園には無数の黒い魚が泳いでいた。
校庭には、魚に喰われたであろう人間の残骸が幾つも転がっていた。
花壇に隠れながら、十一人の少年少女は策を話し合っていた。
「あんな狂暴な魚がどんだけいるって話よ……。この中を突っ切らなきゃ校舎内に入れないってことでしょ」
夏目が不安そうにそう呟く。
「一回私の魔法で攻撃してみる」
愛六はそう言い、魚のすぐそばに水玉を出現させた。
遠隔での魔法発動の際は精霊ミナカの力を借りてはいるが、近距離であれば愛六は自分の力で水玉を出現させることができる。
「溺れはしないか」
魚は水玉に閉じ込められるも、魚が溺死することはなかった。
「じゃあ今度は、」
魚のそばに極小の水玉を出現させ、
「『膨水』」
水玉は勢いよく膨れ上がり、魚を水圧で押した。
「へぇ」
魚は紙が焼け落ちるように消滅した。
「攻撃力はあるみたいだけど、耐久力は少ないみたいだね」
「じゃあボクの魔法で一掃して、その隙に校舎内へ飛び込めばいい。耐久力が少ないのなら、群れで襲いかかられない限り余裕でしょ」
「そうだね。じゃあそれで行こうか」
百の提案に二月が同意する。
他の者たちも頷く。
「『開国』」
王家魔法は開かれる。
「『王雷』」
稲妻が魚の群れを次々と攻撃し、それによって校舎へ続く道が開かれた。
穂琉三が先陣を切って校舎へ駆け込む。
「穂琉三、もっと皆とペースを合わせて」
だが穂琉三に愛六の声は届かない。
今は一秒でも早く奈落を探したいと思っていたからだ。
「『火拳槌』」
穂琉三は自身で拳を燃やすことができていた。
火傷しないような対処は精霊ヒルコが行う。
燃える拳が行く手に立ち塞がる魚を次々と燃やしていく。
穂琉三は一心不乱に校舎へ飛び込み、龍が占拠している体育館を目指して走っていく。
「銀ちゃん、穂琉三は私がサポートする。あとは任せたよ」
愛六はギアを上げて穂琉三を追いかける。
「ねえ、私も単独行動していいかな」
十月撫子が退屈そうに告げる。
「だが危険だ」
「私は周りに人がいると全力出せない。それで死んだら笑えない。じゃあそういうことだから」
そう言って十月は高く飛び上がって屋根の上を走っていった。
徐々に団結が乱れていく。
「とりあえず中に入ったら二手に分かれて首謀者を探す。群れで来られた時、一人じゃ戦えないからね」
二月は下駄箱へ入り、影魚を警戒しつつ作戦を話そうとしていた。
その時、サメ型の影魚が二月らの頭上を通りすぎた。
「……っ!?」
その魚の突進により天井が崩落し、瓦礫が降る。
「『反射鏡』」
二月らを幾つもの円形鏡が囲む。
瓦礫が鏡に触れた瞬間、降ってくるのと同じ威力で反対側へ吹き飛んだ。
瓦礫同士がぶつかり合い、全員が無傷でその場を凌いだ。
「私は戦えはしませんが、守れはします。背中は私に任せてください」
周防がそう言った。
ルミラー家は鏡花魔法の使い手。
その魔法は特殊な魔法効果を持つ鏡を顕現させる魔法。
彼女はその魔法で仲間を守る。
「助かった」
全員は無傷でサメを捉える。
「他の魚とは違うみたい。魔力が強く込められている」
二月はその目でサメに込められた魔力を見る。
「なんだろう。なんか……」
サメに込められた魔力は波を打ち、ゆっくりと増幅していた。




