物語No.69『奈落魔宵救出作戦/弐』
薄暗い工場の中にネクロは潜む。
様々な機械が置かれた工場には、槍が幾つもの風穴をつくっている。
「そろそろ出てきたらどうだ」
五蝶は槍を構えながらそう叫ぶ。
だが一向にネクロは出てこない。
工場は三階建ての高さがあり、広さは百畳は余裕である。
工場の二階三階に当たる場には階段があり、吹き抜けになっている。
五蝶は身を潜めているであろう一階に槍を放ち続けていた。
(愛六と夏恋は既に迎撃の体勢ができている。あとは俺が誘き寄せるだけだが……)
五蝶は焦っていた。
建物を破壊することで視界が広くなるのは良い。だがこのまま槍を投げ続ければ魔力がどんどん減っていく。
(仕方ない。大技で決める)
五蝶は今まで以上に槍に魔力を込め、暴風を風に纏わせた。
その魔力の大きさにネクロは気づいた。
(ようやく来たか)
ネクロは闇の中に笑みを置く。
「風よ。
疾走する風よ。
この一撃に思いを乗せて。
今こそ敵を撃て。
『風花』」
爆発的な風を纏い、槍が放たれる。
五蝶が槍を放った次の瞬間、槍の真横を通ったネクロが飛び上がり、五蝶に迫る。
ネクロは風を纏っていた。
(お前ら、どうせ一国からの薄い情報しか持っていないんだろ。だったら俺が洗脳魔法しか使えないと思い込んでいる。だが違うんだな。魔法家には横の繋がりも重要。そもそも戦闘系じゃない魔法家は魔法十家には選ばれにくい。だからこそ、歴代魔法十家はそういった魔法家とも関わりを持ち、その家の魔法を伝授してもらうことで友好関係を持った)
「残念ながら、お前らの負けだ」
ホスチョウ家の天衣魔法。
それは自分が受けた魔法を纏うことができる受け身の魔法。
ネクロは五蝶の風圧を纏い、風のままに空中を飛行し、五蝶のすぐそばまで接近する。
五蝶は槍を投てきしたため、手もとに槍はなく、無防備だった。
そこをネクロは狙っていた。
完全な隙。
間もなくネクロの手が届く。
──が、突如ネクロの周囲に小さな水玉が幾つも生成される。
「な……っ!?」
直後、水玉は勢いよく膨れ上がり、ネクロを四方八方から水圧が襲う。
咄嗟に全身を魔力で覆ったが、ネクロは体勢を崩し、五蝶に触れる前に落下する。
落下した五蝶へ、頭を包み込めるほどの水玉が落下する。
即座に風に乗って撤退し、物陰に隠れるネクロ。
(こいつら、この暗い中で俺の位置を正確に捉えやがった。魔力感知……いや、これはヒーリング家の……)
思考する間にも、槍は五蝶の手もとに戻っていた。
「貫け。
『嵐槍』」
風を纏った槍が短い詠唱とともに放たれる。
(急いだな。詠唱が短い分威力はお粗末)
槍はネクロの居た場所を破壊するが、ネクロは全身を魔力で覆い、浅い傷で済ませた。
「ちっ。仕留め損なった」
「この風は貰うぜ」
ネクロは口角を上げ、槍の風を全身に纏う。
「スピード勝負だ。ノロマども」
ネクロは魔力感知により、常時三人の位置を感知していた。
ネクロの魔力感知は一定範囲内の魔力を感じ取る。
また、人によって魔力には特有の振動があり、それを感知して人を識別していた。
つまり一定範囲内にいればネクロには感知される。
「さあ、まずは邪魔なヒーリング家からだ」
ネクロは魔力感知で、夏恋が常時三階に当たる階段にいたことは把握している。
風を纏って飛び上がり、夏恋がいる場所へ向かう。
「やっぱり居場所がバレてる。魔力感知って言うんだっけ」
夏恋はすぐそばにネクロが迫っても一切動じない。
ネクロは夏恋の戦意喪失と受け取り、すぐさま彼女の頭へ手を伸ばす。
その時の夏恋は、薄暗い中はっきりとは見えなかったが、笑っているように見えた。
「終わりだぜ」
「残念だけど、恋する乙女は最強なんだぞ♡」
夏恋の背後、そこから手が伸びる。
(三本腕……!? いや、違う!)
ネクロは魔力で敵を捉える。
目で見ているわけではない。
だからこそ、夏恋の背後にいる愛六に気付かなかった。
(おかしい。もう一つ魔力感知に引っ掛かっているのは一体……)
愛六は水玉を常時工場内に浮かせており、その魔力をネクロは愛六と誤認していた。
「良かったよ。一国が魔力感知について教えてくれなかったら、欺けなかった」
愛六は右手をネクロに伸ばす。
愛六の手はネクロに触れる。
(銀ちゃんが全身に流れる魔力を感じさせてくれたから、私は一段階強くなれた。穂琉三が強くなっていくように、私も一段階進化しているんだ)
愛六は自身の全身を流れる魔力を感じた。
だからこそ、大まかに全身を流れる水のイメージも湧いた。
これはそんな彼女の編み出した技。
「『青薔薇』」
ネクロの全身の水が外部へ放出される。
(ぐっ……これは……)
ネクロから放出された水は、ネクロの背中で薔薇を描く。
「これが私の新境地」
ネクロの全身を纏う風は霧散し、喉の渇きに苦しみながらネクロは落下した。
「この勝負、私たちの勝ちだ」




