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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.67『救い』

「あと三日だ。奈落魔宵、大人しくしておけよ」


 金髪の男が言う。


 私は逃げるつもりなんてない、


 だって私は幸せだ。

 きっと今頃、黒廻さんは喜んでくれているはずだ。

 だから、悔いはないんだ。


「…………」


 思い出すな。

 大丈夫。

 きっと彼にとって、私はそれほど重要な存在なんかじゃないんだから。


 だから……、大丈夫だよ。


 思い出すな思い出すな。

 忘れろ忘れろ忘れろ。


「……………………」


 違う。


 私はこれで良かったんだ。

 だって私が望んでいたものは……


 私は彼の母親を見て思ったんだ。

 私も母親に愛されたい。

 もっと母親に思いを注いでもらいたかった。


 これでいい。

 これでいいんだ。


 ──本当に?


 当たり前でしょ。

 だって黒廻さんはこれで喜んでくれるんだから。


 もう私は覚悟を決めたんだ。

 だからお願い。

 これ以上思い出さないで。


 ──思い出したくないの?


 それは……


 ──あなたが本当にしたかったことは何?


 私は……


 ──奈落魔宵が最も幸せを感じていたのはいつ?


 そんなの……決まってるよ……。



「何だ?」


 金髪の男が扉を見る。

 青髪の男も何かに気付いたように扉を見た。


 部屋は暗く、廃墟の一室。

 その中で、まるで何か気配を感じたように二人は扉を見ている。



 私は……



「この魔力、そうか。お前か」


 二人の男は気配を感じた。


 やがて扉が吹き飛ばされ、稲妻が室内に侵入する。


「マジかよ」


 部屋中に電気が霧散し、壁や床には亀裂が走る。

 幸いにも稲妻は金髪の男が生成した黄金の盾に阻まれ、防がれた。


「いつまでも飼い犬になっていればいいものを。ご主人に逆らうのか。百」


 再度稲妻が室内へ放たれる。

 今度は扉と床から。


「二方向から!?」


 扉から来た稲妻は黄金の盾で防いだが、もう一方の稲妻は床を砕き、天井をも砕き、部屋を崩壊させた。


「どういうつもりだ?」


 青髪の男は崩壊する瓦礫を足場にし、私のもとまで駆け寄ろうとする。


「とりあえず奈落魔宵を拘束して離脱する。洗脳魔法で逃げられないようにしておくから、その隙に──」


 青髪の男が私のもとへとたどり着く寸前、暴風を纏った槍が一直線に放たれる。

 槍は私を拘束していた柱を破壊し、そのまま青髪の男へ向かう。

 青髪の男は槍の直撃によって壊れる床を落下し、下層まで落ちる。


「油断しやがって。魔力感知を最大にまで広げておかないからそうなる」


 金髪の男は青髪の男へ文句を言いつつ、私のもとへ向かう。


 だが金髪の男の周囲に小さな水の玉が十個ほど出現する。

 水の玉は直後に勢い良く膨れ上がり、金髪の男へ衝撃を与えた。


「水を螺旋状に膨らませて衝撃を与えるつもりだろうが、魔力で全身を覆えばお粗末な威力」


 金髪の男は水の威力を最小限に抑えて私のもとまであと一歩。

 そこへ──


 私の背後から熱を感じた。

 燃えるような熱い思いを感じた。


 その正体は螺旋状に燃える拳へ力を込めて、勢い良く金髪の男へ振るった。


「『火拳螺(カグラ)』」


 燃える拳は男を吹き飛ばした。


 そして私と彼は再会した。

 先ほどの槍によって柱は砕かれ、鎖からも解放された。


 私の前には彼がいる。

 彼は振り返り、私を見る。


「奈落さん、助けに来たよ」


 不思議と私の目からは涙が溢れた。


「どうして……来たの?」


「約束したでしょ。一緒に強くなろうって。もしここで奈落さんがいなくなったら、一緒じゃなくなっちゃう。そんなの、嫌だから」


 ああ、どうして……気付かなかったんだろう。すぐそこにある幸せに。


 そうだ。


 私は……彼のそばにいる時が幸せだったんだ。


 私の願いは、彼のそばにいたい。

 私を否定せず受け入れてくれた彼のそばで生きたい。


 お母さん、私はようやく生きたいと思える場所を見つけたよ。


「ありがとう。日向くん。私を救ってくれて」

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