物語No.67『救い』
「あと三日だ。奈落魔宵、大人しくしておけよ」
金髪の男が言う。
私は逃げるつもりなんてない、
だって私は幸せだ。
きっと今頃、黒廻さんは喜んでくれているはずだ。
だから、悔いはないんだ。
「…………」
思い出すな。
大丈夫。
きっと彼にとって、私はそれほど重要な存在なんかじゃないんだから。
だから……、大丈夫だよ。
思い出すな思い出すな。
忘れろ忘れろ忘れろ。
「……………………」
違う。
私はこれで良かったんだ。
だって私が望んでいたものは……
私は彼の母親を見て思ったんだ。
私も母親に愛されたい。
もっと母親に思いを注いでもらいたかった。
これでいい。
これでいいんだ。
──本当に?
当たり前でしょ。
だって黒廻さんはこれで喜んでくれるんだから。
もう私は覚悟を決めたんだ。
だからお願い。
これ以上思い出さないで。
──思い出したくないの?
それは……
──あなたが本当にしたかったことは何?
私は……
──奈落魔宵が最も幸せを感じていたのはいつ?
そんなの……決まってるよ……。
「何だ?」
金髪の男が扉を見る。
青髪の男も何かに気付いたように扉を見た。
部屋は暗く、廃墟の一室。
その中で、まるで何か気配を感じたように二人は扉を見ている。
私は……
「この魔力、そうか。お前か」
二人の男は気配を感じた。
やがて扉が吹き飛ばされ、稲妻が室内に侵入する。
「マジかよ」
部屋中に電気が霧散し、壁や床には亀裂が走る。
幸いにも稲妻は金髪の男が生成した黄金の盾に阻まれ、防がれた。
「いつまでも飼い犬になっていればいいものを。ご主人に逆らうのか。百」
再度稲妻が室内へ放たれる。
今度は扉と床から。
「二方向から!?」
扉から来た稲妻は黄金の盾で防いだが、もう一方の稲妻は床を砕き、天井をも砕き、部屋を崩壊させた。
「どういうつもりだ?」
青髪の男は崩壊する瓦礫を足場にし、私のもとまで駆け寄ろうとする。
「とりあえず奈落魔宵を拘束して離脱する。洗脳魔法で逃げられないようにしておくから、その隙に──」
青髪の男が私のもとへとたどり着く寸前、暴風を纏った槍が一直線に放たれる。
槍は私を拘束していた柱を破壊し、そのまま青髪の男へ向かう。
青髪の男は槍の直撃によって壊れる床を落下し、下層まで落ちる。
「油断しやがって。魔力感知を最大にまで広げておかないからそうなる」
金髪の男は青髪の男へ文句を言いつつ、私のもとへ向かう。
だが金髪の男の周囲に小さな水の玉が十個ほど出現する。
水の玉は直後に勢い良く膨れ上がり、金髪の男へ衝撃を与えた。
「水を螺旋状に膨らませて衝撃を与えるつもりだろうが、魔力で全身を覆えばお粗末な威力」
金髪の男は水の威力を最小限に抑えて私のもとまであと一歩。
そこへ──
私の背後から熱を感じた。
燃えるような熱い思いを感じた。
その正体は螺旋状に燃える拳へ力を込めて、勢い良く金髪の男へ振るった。
「『火拳螺』」
燃える拳は男を吹き飛ばした。
そして私と彼は再会した。
先ほどの槍によって柱は砕かれ、鎖からも解放された。
私の前には彼がいる。
彼は振り返り、私を見る。
「奈落さん、助けに来たよ」
不思議と私の目からは涙が溢れた。
「どうして……来たの?」
「約束したでしょ。一緒に強くなろうって。もしここで奈落さんがいなくなったら、一緒じゃなくなっちゃう。そんなの、嫌だから」
ああ、どうして……気付かなかったんだろう。すぐそこにある幸せに。
そうだ。
私は……彼のそばにいる時が幸せだったんだ。
私の願いは、彼のそばにいたい。
私を否定せず受け入れてくれた彼のそばで生きたい。
お母さん、私はようやく生きたいと思える場所を見つけたよ。
「ありがとう。日向くん。私を救ってくれて」




