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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章4『魔法十家と黒い薔薇』編
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物語No.56『少女は闇の中』

 異世界との戦いを終えた奈落は穂琉三と別れ、一人闇夜の道を歩く。

 彼女が向かった場所はとある家。

 そこは「keep out」と文字が刻まれた黄色いテープが敷かれている。

 彼女は気にせず中へ入る。

 リビングには火が浮かんでおり、火によって照らされた部屋のソファーには空の缶ビールとともに女性が寝転んでいた。


「ん? あー、帰ってきたのね。ったく、相変わらずお土産もないのね」


 背中まで垂らした黒髪をかきむしり、部屋の入り口に立つ奈落へイラつきを隠さずに視線を向ける。

 彼女は黒廻家当主、黒廻冥。


「……お金…………」


「はあ。面倒くさいわね。そんなの悪魔に命令して手に入れられるでしょ」


 黒廻は奈落へ舌打ちをし、机に置かれた缶ビールに手を伸ばす。

 奈落は虚ろな瞳で黒廻を見る。


「何見てんのよ」


「…………」


「誰が道端に吐き捨てられた味のしないガムみたいなあんたを拾ってやったと思ってんの」


 黒廻は立ち上がる。


「非力な弱虫に力を与えたのは誰か分かってる? あんたみたいな根暗はね、どうせ何やったって上手くいかないんだから、私に従ってればいいのよ」


 黒廻は奈落に詰め寄り、威圧的な目を向ける。


「でも……」


 反論しようとした奈落の頬に衝撃が走る。


「お礼も言わずに逆らうの? 今のガキは本当に頭の使えない奴ばっかね」


 奈落は頬を押さえる。

 頬は痛む。

 だがそれ以上に、痛み場所があった。

 そこに手は届かない。


「はああ。最近は神妹のせいで閻魔宮や十星騎士団から目をつけられているっていうのに。もし次私が疑われるようなことがあればあんたがさっさと名乗り出て捕まってよね。無意味なあんたにはそれくらいしかできないんだから」


 黒廻はビールをイッキ飲みし、空っぽになった缶ビールを投げ捨てた。

 缶は転がり、奈落の足下に転がった。


「一応言っとくけど、あんたのせいでこっちは大迷惑よ。だからあんたが事件の主犯だと名乗り出るまで、飯は自分で調達しなさい。当然寝床もね」


 黒廻は吐き捨てるように言った。

 その目は奈落を見ていない。

 家を出ていく奈落を横目にして、黒廻は自身のストレスが多少発散されたのを感じた。


「できればさっさと名乗り出てくれないかな。それ以外に価値ないのよね」


 その部屋には悪意がこだまする。



 部屋を去った奈落は、暗い夜道をふらふらと歩いていた。

 その目には闇が広がっている。

 次第に空腹感は増していき、眠気も限界値を超え、間もなく神社近くの森で気絶した。


 眠る彼女を黒い靄が囲む。

 しばらくして靄は消えた。


 目を覚ますと、既に日は昇っていた。

 奈落はしばらく周囲を見渡し、自分が夜中に徘徊して気絶したのだと察した。


「そっか……」


 奈落は木にもたれて座り、朝日を見上げる。


「嫌なくらい眩しい太陽だ」


 奈落は諦めを込めた目で朝日を見る。

 やがて太陽の眩しさに目を逸らす。


「見つめることもできないや」


 一時間ほど森で彼女はぼーっとしていた。

 ふと立ち上がり、街をふらっと歩き始めた。

 やがて自動販売機を見つけると、両手を合わせて祈るようなポーズをし、悪魔を出現させた。


 今回彼女が出現させた悪魔は〈鼠の悪魔(ラット・デビル)〉。

 小さい鼠の悪魔が出現した。

 彼女は鼠の悪魔に自動販売機の下を漁るよう指示し、それにより鼠の悪魔は百円玉を発見し、転がして奈落の足下に置いた。


「ありがとう」


 奈落は百円玉を拾い、ため息をこぼす。


「はあ。私はなんて卑劣な人間なんだ」


 その後も奈落は自動販売機を見つけては下に落ちたお金を漁った。

 おかげで千円近くのお金を稼ぎ、そのお金で奈落は銭湯に行った。


「今日は日向くんに魔力の使い方を教えるんだっけ。せっかくのプライベートなんだし、可愛い服を着ていたかったけど……」


 彼女は風呂上がり、タオルで全身を拭き、昨日から着ている制服に袖を通した。

 土で汚れた制服は〈洗濯の悪魔(ランドリー・デビル)〉の能力で綺麗にした。

 黒を基調とした制服。


 奈落は時計に目を向ける。


「もう十二時か。学校、またサボっちゃったな」


「良いじゃねえか。どうせ友達いないんだし。学校行っても惨めな思いするだけだぜ」


 ひとりごとを呟いた奈落の後ろには、黒の光球が浮かんでいた。


「また勝手に出てきちゃったの」


「俺を思い通りにできると思うな」


「まあミタマは悪魔だからね。そりゃあ私なんかじゃ束縛できないよね」


「当たり前だ。俺は悪魔の中でも上位の存在。最強の悪魔様だからな。敬えよ」


 黒の光球は傲慢な態度で奈落と接する。


「ってかよ、お前って未だに上位悪魔の召喚をしていないが、何か理由でもあるのか」


「……え?」


「……あ?」


 二人とも首をかしげ、困惑し合う。


「なるほど。どうやらお前、魔力の使い方は教わっていても、黙示録の魔術については詳しく教えてもらっていないようだな」


「そういえば……。私が教えられた悪魔は全部で十八だけ」


「しかも全部が上位悪魔の劣化コピー。そんな低級しか召喚できないんじゃこの先も生き残れるか不安だな」


「よく分かんないよ」


 奈落はうつ向きがちに答える。


「じゃあお前のために最低限のことは教えてやるよ。まず黙示録の魔術ってのは九十九体の悪魔を召喚するためのもの。だが悪魔本体を呼び出すことは難しい。だが基本的に本体の劣化コピーならいつでも無制限に産み出せる。それが今までお前が行ってきたレベルだ」


「必ず呼び出せるっていう利点はあるけど、弱いっていう欠点もあるんだ」


「だからこそ本体を呼び出す必要がある。本体は通常よりも複雑な手順を使って召喚できるが、必ず応じてくれるとは限らない。たとえ応じたとしても、そこで悪魔に実力を認めさせ、自分に有利な契約を勝ち取る必要がある」


「契約って確か……」


「ああ、悪魔は契約をもとに動く。だが強い者に惹かれる悪魔なら、契約の代価を軽いものにしたり、無条件で従わせることもできる。あくまでも従わせる者がより強ければの話だが」


「ってか悪魔って強い人が好きなの?」


「基本的に、悪魔ってのは強い奴にしか従わない。そうじゃない奴もいるが、強い悪魔ってのは基本的に強い奴に従うのさ」


「じゃあどのみち私じゃ無理じゃん」


「できなくはないだろ。お前は魔力操作が優れている。それ次第では強い悪魔だって従えることができる」


「そっか……」


 奈落はぼーっと考える。

 ミタマは黙って奈落のそばで浮遊する。


「うん。そうだね。そうしよう」


 奈落は悪魔本体と契約を行うことを決めた。


「あ、でも……」


「どうした?」


 不意に固まる奈落を見て、ミタマは問いかける。


「その悪魔の召喚の複雑な手順が書かれた本ってさ、多分黒廻さんの今いる家にあるんだよね」


「マジか。そういえば追い出されてたんだっけ」


 奈落は悩む。


「でもあの人、夜中なら寝てるよね。じゃあ大丈夫かな」


 奈落はしばらく小声でボソボソと呟き、黒廻冥のいる家から本を盗む作戦を考えた。


「あの家には黒廻さんが悪魔を張り巡らせているけど、悪魔には悪魔を」


 奈落の目は真っ黒に染まった。


「私は黒廻さんに少しだけ反逆を試みる」

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