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一人一人に物語を  作者: 総督琉
第一章3『花園で眠る君に』編
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物語No.39『敗北』

 異世界との接続が行われてから三十分。

 愛六は次々とモンスターを倒し、扉へと近づいていた。


「『水槽の君』」


 モンスターの顔に水玉を被せ、そのまま溺死させる。

 だが知性の高いモンスターは愛六の攻撃の意図を察知し、水玉から回避行動をとる。

 その場合にも、愛六は対応する術を身につけた。

 自分を起点に半径六メートル以内、


「『斑』」


 ビー玉サイズの小さな水玉を出現させることができる。当然それで溺死させることはできない。

 だが愛六の攻撃は終わらない。

 水玉を膨れ上がらせ、


「『水槽の君』」


 一気に相手の顔を包み込む。

 不意の攻撃にモンスターは混乱し、水玉から逃れられず絶命する。

 この術を身につけたことで、今まで倒せなかったモンスターともある程度渡り合えるようにはなった。

 それでも勝てないモンスターはいる。

 まだ愛六は発展段階。

 当然それは穂琉三も五蝶も同じ。


「八百比丘尼、二人は大丈夫そう?」


 愛六は水玉に向けて問いかける。


「今〈森の悪魔(フォレスト・デビル)〉に遭遇したところ。間もなく交戦するよ」


「分かった。扉を閉じたらすぐにそっちに向かう」


 愛六は鍵を扉に差し込み、


「──接続(コネクト)オフ。」


 鍵を回すと、扉は渦を巻いて消失する。それと同時にその扉から出てきたモンスターが光の柱に貫かれる。


「よし。稲荷、もう一つの扉の場所に案内して」


「分かったのだ」


 稲荷に導かれ、愛六はもう一つの扉を目指す。

 道中、愛六の周囲を浮遊する水玉から声がする。


「大変だ。このままじゃ二人が死ぬ」


 八百比丘尼が慌てて叫ぶ。

 愛六は一瞬動揺するも、一呼吸おき、冷静さを保つ。


「八百比丘尼、私はあと一分ほどで扉につく。そっちは今すぐに助けが必要な感じ?」


「あ……駄目だ」


 冷静に問いかけた愛六だったが、八百比丘尼の諦めたような声を聞き、戦慄が走る。


「まさか……、もう……」


 愛六は扉まで着いたが、扉から異世界に入ったとしてもそこから十五分ほど距離がある。

 稲荷は扉の外で待機し、愛六は倒れているモンスターを辿って必死に走る。


「間に合ってくれ」


 愛六は八百比丘尼からの連絡が途絶え、最悪の想定をする。

 既に穂琉三は──

 最悪の想定をかき消すように頭を振って、今はただ二人のもとへ急ぐ。


「……えっ!?」


 水玉から声がする。

 八百比丘尼の声。

 愛六は冷静さもなく、叫ぶ。


「穂琉三は? まだ生きているのか?」


 心を乱した愛六は、襲いかかってくるモンスターと交戦することもなく一心不乱に走っていた。

 八百比丘尼からの返答を待つこと数秒。


「何この火力……!?」


 八百比丘尼が驚いたように呟く。

 火、という言葉を聞き、愛六は希望を持つ。

 まだ穂琉三は生きている。

 だが窮地であることは確かだろう。

 とにかく全力疾走し、十二分で穂琉三のいる場所に到着した。

 疾走する愛六が見たのは、周囲の木々を燃やすほどの火炎を全身に纏った穂琉三だった。


「ミナカ、これは……」


「はい。月一限定、魔力制限の解除をヒルコが行ったようです……」


 かつてミナカも、愛六が窮地の際に神妹にかけられた制限を解除したことがある。

 一ヶ月に一度限りだが、自身の魔力を最大限行使できる一発逆転の手。


「でもあんな火力……穂琉三は無事なの?」


 穂琉三は立っているのがやっとなのか、棒立ちで一切動くことない。

 だが全身が燃えているため、周囲には燃えた木々が落ちている。


「穂琉三、もう近くにモンスターはいない。これ以上はあなたの身が危険」


 愛六の呼び掛けに穂琉三は一切答えない。

 答えないのではなく、答えられない。いや、愛六の声すらも穂琉三には届いていない。

 やがて炎は消える。

 側にいたヒルコが消したようだ。

 愛六は直ぐ様穂琉三に駆け寄る。


「穂琉三!」


 倒れかける穂琉三を支えるために抱きつく。


「穂琉三……」


 抱きついて初めて気づいた。

 穂琉三はとっくに意識を失っていた。

 全身を燃やし、身体のところどころに火傷を負ったようだ。ヒルコは対火属性魔法により、火への耐性も増加させていたが、それ以上に火力が必要だった。

 木々によって死を迫られた間際、穂琉三はヒルコに言っていた。

 月一限定の魔力制限を解除し、穂琉三自身を灼熱の炎で包んでくれと。

 結果、木々は寄りつかなくなり、森の悪魔(フォレスト・デビル)も姿を消した。朝花とともに。


「愛六様、これ以上ここにいるのは危険です。二人を抱えて今すぐ学園に戻り、この扉を閉めましょう」


「そうだね」


 周囲を見渡し、モンスターが近づいていたことを察知する。

 愛六は穂琉三と五蝶二人をなんとか抱え、扉へ走る。時折襲いかかってくる虫型のモンスターを水玉で倒しつつ、扉までたどり着いた。

 すぐに扉を閉じ、ミナカは瞬時に鍵に変化する。

 鍵をかけようとしたところで、扉は突然消失する。


「え……っ!?」


 愛六は驚き、ミナカを精霊の姿に戻した。


「鍵もかけず扉が消えたが……どういうことだ!?」


「扉には意思がある。扉が閉じてさえいれば、その意思によって扉を消すことができる」


 当たり前のようにいる神妹境娘が愛六の疑問に答えた。


「朝花は……もう、救えないのか……?」


 地面に横たわる五蝶。

 彼は神妹へ手を伸ばし、土を掴む。


「鍵をかけたら二度と扉が現れることはないが、鍵は掛かていない」


「じゃあまだ……」


「ただ、この学園に現れることはないだろう。五蝶嵐の学園に現れなくなったのは五蝶嵐を恐れたから。そしてこの学園にも五蝶嵐が来る可能性ができてしまった。もうどこに現れるか、分からないな」


 神妹は淡々と言葉にする。

 掴みかけた唯一の希望を掴みきれなかった。

 五蝶は顔を土で汚しながら、声を上げて泣いた。

 自分の弱さを憎みながら。

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