物語No.36『近づく足音』
五蝶嵐の出した条件によって、僕と愛六はこれまで閉じ続けてきた扉の先へ行くことになった。
「五蝶、なぜ扉の先に行きたい? 扉の先に何がある?」
扉の先に広がるのはモンスターの生息する異世界。
平穏な異世界ならまだしも、危険だらけの異世界だ。
たとえ異世界へ行きたいだけなのだとしても、死ぬようなものだ。
「俺は一人で戦っていたわけじゃない。パートナーがいた」
「今は見えないが、百花学園にでもいるのか?」
「いや、モンスターに拐われて異世界に消えた」
拐われた?
僕と愛六は疑問を抱きつつ、その話の残酷さを悟る。
もし愛六が危険だらけの異世界に消えたとなれば、僕も異世界へ追いかけただろう。
「だから俺は異世界に行って、あいつを取り戻す」
五蝶の願いは分かった。
だが──
愛六は少し言いづらそうにしながらも、渋々口を開く。
「拐われた……と言うが、生きている保証はあるのか」
つまり、本当は拐われたのではなく喰われたのではないか。
生きていると思いたいからこそ、五蝶が幻想を抱いているだけなのかもしれない。
モンスターの狂暴性を知っていれば、拐うという行為をするとは思えない。拐う以前に殺すだろう。
「生きている。そう俺たちのサポーターが言っていた」
「サポーターか」
愛六の視線は、木の後ろにずっと隠れている稲荷へ向けられている。
「あなたのところのサポーターは生死を知ることができるってこと?」
「そうだ。サポーターによると、あいつは生きている」
稲荷も不思議な能力を使えるし、稲荷のようなサポーターが百花学園にもいるのなら、五蝶の発言にも信憑性はある。
いや、疑うまでもなく事実だろう。
五蝶の真剣な眼差しを見ていれば分かる。
「でもさ、扉の先が必ずしも同じ異世界に繋がっているわけじゃないと思う」
僕はこれまでのモンスターとの戦いを振り返り、扉の先が一様に同じ世界ではなかったことを指摘する。
「確かに。それについてあなたのサポーターは何か言った?」
「今、俺たちの学園に扉は出現しない。それは俺のパートナーが、朝花が連れ去られてからずっとだ。サポーターが言うには、別の場所にその扉が移動した、ということらしい」
「そういえば今日、扉の気配が二つした。すぐに消えたから気のせいかと思ったけど……」
稲荷が尻尾を振りながら声を張り上げる。
そういえば戦闘中、稲荷は鼻を鳴らしながら違和感を抱いているようだった。
「その扉は俺が近づいたら消えやがった。これまでもそうだ。扉に近づいたらなぜか消える」
僕と愛六も経験したことのない事象。
まるで扉が──
「扉は意思を持っている」
僕らの会話を聞いていたのか、神妹が気付けば側にいた。
瞬間移動のように、ただ驚く間もなく、まるでそこにいたのが自然であるかのように。
「扉に意思? どういうことだ」
「そもそも、扉がこの世界に出現するのは異世界がこの世界を侵略しようとしているから。つまり扉がこの世界に出現すること自体に意思がある」
神妹は全てを知っているような口調で話す。
「扉に意思があるか、それとも扉を操る者に意思があるかは置いておいて、君は意思ある者に拒まれている。だから君以外の人物の協力が必要不可欠、だと思ったから日向と瀧戸の二人に接触した」
神妹は全てを見抜いている。
今言った内容が全て当たっていたのか、五蝶はただ頷く。
「全て俺のサポーターにも言われたが、多分その通りなんだろうな」
「ねえ神妹、その扉は明日、この学園に出現すると思う?」
全てを知っている。
そんな疑いのある彼女に愛六は問う。
だが彼女は答えを濁すだろう。
「間違いなく明日、この学園にその扉が現れる」
「意外だな。教えてくれるのか」
「事前に通告していましたよ。明日、十三日、あなたたち二人では勝てない敵が現れると」
その助言が今の五蝶の話と繋がってくるのか。
だとすれば、この状況は神妹の描いた通りの展開なのだろう。
本当に彼女は全てを、未来さえも知っているのかもしれない。
「では明日、またこの場所で。くれぐれも、死に場所を間違えないように」
その言葉を残して神妹は去った。
珍しいようにも感じた彼女からの今の言葉。
まるで誰かが死ぬような、そんな予感を感じさせるような。
僕は胸騒ぎがしていた。
十三日、誰かが死ぬ。




