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案件8「腹が減ってはダンジョン攻略は出来ぬ3」

「まぁ、見分けしかつかないほど美化された私の絵とか、ユウガオについてはどうでもいいのよ」


 中身のことがバレた時、俺の容姿を一度説明したきりだったはずなのだが……。


 それはこっちにおいといて。


「私を見張っていたのは、賢者の差し金よね?」


 魔王討伐に参加した三人の仲間のうち、最も俺の行動を理解していなかったのは賢者だった。


「確かに賢者様には頼まれたッスけど、ここにいるのは二人とも、自分の意思ッスよ」


 アサガオが答えた。


 俺は訪う。


「どうして? 貴方達兄妹なら、盗賊も間者もせずに済む暮らしができるのよ?」


「えー、私らのできることなんて盗みと諜報だけじゃないッスか?」


 どうやらアサガオの脳味噌は思った以上に腐ってしまっているようだ。


「あんたら、もう少し自分の力について覚えておきなさいよ……」


 この世界は、持つ者と持たざる者で分けられている。


「えーと、私だと水の“マテリアル”ッスね。兄者だと“魔エネルギー”と風の“マテリアル”ッスね」


「そうね。それだけあれば、金持ちにこそなれなくても優遇して貰えるのよ」


「“マテリアル”を持っているというだけでも、一般人より優れているという単純な考えッスか」


「“マジックチャーム”さえあれば何かと便利だし。“魔エネルギー”も持っているならチャームさえ要らなくなるわ」


 なお、元から“魔エネルギー”を扱えるか、“マテリアル”を使えるか、と言ったことは多少なりとも遺伝子が関わるようだ。


 しかし、いずれも100パーセント遺伝するわけでもない。こればかりは、グリーンネストの遺伝子工学が進歩しないことには分からないだろう。


「魔法が使える家族がいるだけでも、下層民よりも良い暮らしができるわけ」


「はいッス。それは理解したッスけど――」


 俺にこんなことまで説明させておいて、まだ何かわからないことでもあるのだろうか。


「――勇者様は忘れたッスか? 何て言って私達を仲間にしたのか、プフフッ」


 アサガオよりかは記憶力があると自負していますが。


「覚えてるわよ……」


 覚えていて、彼ら兄妹に合わせる顔がないから困っているのだ。


「魔王退治が終わるまで付き合いなさい、よ」「ッス」


 勇者ちゃんと同じ年の少女に、その青春を犠牲にさせている俺は最低だな。


 目を伏せて、もう一度アサガオの笑顔を見る頃には、ユウガオまで戻ってきていた。


「そうでござる。我ら兄妹、一度ずつ勇者殿に命を救われた身。お付き合いするでござる」


「いつまで続くか分からない近道ッスけど、ね」


 一緒に歩いてくれると言っているのだから、お言葉に甘えるとしよう。


「ヨボヨボのおばあちゃんになってから文句言っても遅いわよ?」


 本当に嫌になってしまうぐらい、俺の肩には色々なものが乗っかっている。


 つくづく、勇者という『気質』には生き方を狂わされる。


 しかし、今はそんなことより重要なことがあった。


「さて、そろそろ上がらないとのぼせちゃうわ」


「じゃあ服を乾かすッス。『ウォーティング』!」


「『ウインド・バースト』!」


「『フレイム・ショット』」


 アサガオの“マジックチャーム”付きの指輪が光って、“魔エネルギー”の流れが彼女に刻まれた水の“マテリアル”を活性化させただろう。


 水がアサガオの手へと収束していく。大半は脱水されたものの、まだ湿り気が残っている。


 そこに跳ね回る風をユウガオが巻き起こす。


 さらに、どこからか放たれた火球と合わさり熱風を生みだす。


「ブロスっ?」


「フルコースの仕上げにフランベしてやろうと思ったんだけどなぁ」


 世話役にダンジョンマスターご本人が登場とは、また贅沢なおもてなしである。


 というのも、ブロスは探索者を捕まえてはこうして接待しているのだ。


「ディナーができたんでしょう? 悪いけど、もう二人分追加して貰えるかしら?」


「上の口は素直じゃないッスね。本当はすっごく気の良い魔族なんッスけどねぇ」


「ご相伴にあずからせていただくでござる」


 こうして、私達は呆れた顔のブロスに案内されて密林を抜ける。たどり着いたのは、清流を望む拓けた高台だ。


 風が心地よく、湯上りの体を程良く冷ましてくれた。


「このダンジョンに、こんな場所があったのね。最初に来た時はロクに探索もできなかったということかしら」


 土の“マテリアル”ダンジョンの次くらいの難易度だが、巡回魔族の数だけは半端なかったからなぁ……。


「わー、このスープ美味しいッス!」


 感慨に更けている俺など放って、アサガオが既にテーブルの上に用意された料理に手をつけ始めていた。


 はしたない娘ねぇ。


「私にも食べさせなさいよ!」


 俺の分まで食べられかねないと、慌てて椅子に腰掛ける。


 後は美味しい料理に舌鼓(したづつみ)を打つはずだった。


「シャキッと歯切れの良い野菜に、甘さと酸味のバランスが取れたソースを掛けたサラダね!」


「新鮮で瑞々しいのに、決して味がボケることがないッス! こっちの“アモットの実”と合わせて“キュテテ葉っぱ”を食べると、酸っぱさが柔らかくなるッスよ?」


「素材の味を、チラッ。殺すことなく、チラッ。目と耳も楽しませてくれる、チラッ。前菜でござるな、チラッ」


 アサガオにフォークを口へ運んでもらうこともあまり気にならなくなった。


 ただ、ユウガオの目に俺やアサガオがどう映っているのか、想像に難くない。


「どうした黒装束のコゾウ、もう食べないのか?」


 ブロスが問う。


「ごちそうさまでござる……」


 身も心もお腹いっぱいになったユウガオが答える。


「兄者がもう食べないなら、私が貰って上げるッス」


 はしたない子ねぇ。


「そんなにガッツクほどのことかぁ?」


 ブロッサムという乙女っぽい名前の通り、ブロスの作る料理は素晴らしい。


 食い意地が出てしまうのはいたし方のないこと。


「薬草より安い食糧はッスね……」


「あれは、食べ物じゃないわよ」


 食べ物のほとんどがダンジョンの財宝となって久しい昨今でも、人は質を求めなければ飢えることなく生活できている。


「味もなければ、旨味もない」


「最悪、満足感すらないッス」


「必要最低限の栄養補給をするだけの物質ね」


 俺達の言いたいことをブロスも理解してくれたようで、溜め息を一つと同時にカートから次の料理を配膳する。


 すかさず食らい付く。


「おい、勇者。口元に肉の欠片がついてるぞ」


 ヒョイッとブロスの手が伸びる。


「チョッ! そんなの自分で……とれないわ。その、せめて、拭うとかにしてよ……」


 わざわざ、取った破片を食べなくても良いだろうに。ただ介助されるよりも、恋人みたいで恥ずかしいじゃないか。


「黒装束の娘っ子じゃ食べさせ方が乱暴で食材が勿体無ぇ。俺が食べさせてやるよ」


「遠慮するわ、もうっ……。アサガオ、次ちょうだ……うん?」


 余計恥ずかしいブロスの提案を蹴る。


「ごちそうさまッス……」


 もうヤダ、この兄妹!

 食糧アイテムがなぜか薬草とかより高額な理由。

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