案件75「この兄妹は・・・6」
まさか、この兄妹が敗北することがあろうとは。
2分でタイムアップ、強制イベントが襲ってくる! しかもバッドエンドだ!
「どうする、諦めるか? いや、諦めろ。肝心な武器が使えず、接近戦も不可能」
確かに、これはパキラの言う通り二人だけでの勝利を諦めるべきだ。
俺は出ていくために立ち上がろうとするも、それより先にアサガオの声が通る。
「まだッス!」
まさかの続投宣言だった。
風と水の“マテリアル”の魔法だけでなんとかできるほど、パキラという敵は弱くない。明らかに、“ジェリダラース”という武器は小技なんて払いのけられるだけのポテンシャルがある。
この状況から、兄妹のみで勝ち筋があるとでも言うのだろうか。
「アタリの見込みがないだけで、賭けから降りるほど弱くはないッス」
それ、絶望的だよね?
出店の当たがない紐クジを引き続けるくらいの、どうしようもない馬鹿だ。
「全く、どうするかわからんでござるが」
兄はさらに大馬鹿だった。絶望に更に、倍プッシュってレベルじゃねぇベットをしやがるユウガオ。
「じゃあ、私が隙を作るッスから。あれをぶちかまして欲しいッス」
「お、あれをでござるか。まぁ、確かにこの状況なら一撃で決めた方が良いでござる」
何か二人でコソコソ相談を始めて、それに落ち着いたみたいだった。
リーサはこの会話の答えを知っているようで、感心と関心を込めた視線を向けている。
「まさか、私と魔王様以外に使える奴が居たとはな」
「リーサさん?」
当然、俺には理解が及ばないので解説をお願いする。
「あぁ、それはだな。いや、ここは見ている方が面白いんじゃないか?」
「そう?」
ニヤニヤと笑いながら言うものだから、凄く気になってしまった。
おぉ、焦らす、焦らす。
視線を戻せば、アサガオはパキラの隙を作るために素手で牽制を始めていた。ユウガオは、いつでも例の何かを使えるよう待機している。
「無駄な足掻きだよ……と言いたいところだけど、まさかアレが使えるのか?」
うわっ、パキラまで何か気づいているようだよ!
俺だけ一人取り残されたような感じがして、ひとりぼっち気分に焦燥感を覚える。
「それはぁっ、食らってみてからのお楽しみッス!」
アサガオは正面から攻めた、そう見せかけて飛び跳ね後ろへ回り込んだ。
「チッ、ちょこまかと!」
「よっとッス!」
横薙ぎに振り抜かれた“ジェリダラース”を、アサガオはヒョイッと側転宙返りで回避した。返しの斬撃が来る前に一発与えれば、動きを止めるぐらいのダメージはあるだろう。
しかし、ここでパキラの動きに異変があった。足で地面を抉る勢いで、残る360度を一気に回転しきったのである。
「はぁっ!?」
この予想外の強襲を、アサガオはイナバウアーでなんとか回避した。
ここで一安心させてくれないのがパキラという敵だった。
「ぐっふぁ~っ!」
「ひっ!」
槍が通り過ぎるところを無理やり止めて逆回転。わざと倒れてやり過ごした。叩きつけるように振り下ろしたのを、転がって間合いをとる。
立ち上がったところに、突きの連撃が容赦なく襲いかかる。
まるでブレーキの壊れた機関車のような、ただ的確に致命傷を狙って繰り出される槍撃だ。
「あさっ!」「駄目ッス!」
ユウガオが助けに入ろうとするも、アサガオは一言のもとで制止させた。
気持ちはわからんでもないが、ここは手を出さないのが正解だと思う。狙う位置が正確過ぎるがために、どこを攻撃してくるのかがわかるのである。
たぶん、このスピードアップが時間制限のある攻撃だからだ。
そして、どうすれば攻撃を止められるかもわかっていた。
「取った!」
「ぐっ、がっ!」
僅かに見せた無理な体勢の回避に、パキラはここぞとばかりに致命刺突を生み出した。それが誘い込まれた攻撃とも知らずに。
「……ニヤリッス」
「しまっ!」
浮かべた笑顔を見て気づいたところで、既に脇腹を抉った槍は掴まれてしまっていた。
アサガオの脇腹は半月の傷が残り、生み出された冷気が流血を押し留めている。だが、傷口の壊死具合から見てもそれほど長く捕らえ続けられない。
「撃てッス!」
パキラの腕まで掴み取り、ユウガオに指図した。
自分ごと、その魔法で倒せと。
「っ……!」
当然というか、もはや予定調和というか、攻撃できなかった。ユウガオに、例え死ぬわけではないと言え、妹を攻撃することなどできないのだ。
そのため力を失った手から槍が離れてしまい、更には遠くに振り払われる。
「だぁっ!」
転がることで体が無駄に捻られ、横腹の傷の痛みを訴えた。
口からは血の泡を吹きそれほど長く無いことを教えてくれた。
「アサガオ、大丈夫でござるか!?」
「……」
ユウガオの呼びかける声を聞いたアサガオは、歯を食いしばって腕を横に振った。
見る者が見れば、それはヘタレた兄に大して怒りをぶつける表情とジェスチャーに見えたかもしれない。クソッタレの馬鹿野郎のドヘタレと、汗と涙で顔を滲ませているように見えたことだろう。
笑ってやがる……。




