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案件55「別に強くない4」

 アサガオの訊いに対する返事は、極めてシンプルだ。


「関わるつもりはないわ。向こうが来るにしても、これまでと変わらないわね」


 毅然(きぜん)とした態度で示すこと、それが一番大事である。


 降りかかる火の粉は払い、やりたいようにやらせて貰う。あわよくば、助けられる範囲の人は助けたい。


 性懲りもなく『勇者』なんだろうなぁ、俺も勇者ちゃんも。


「わかったッス」


 アサガオは答えた。


 あっさりと納得したのは少し拍子抜けするが、単なる方針の確認だったのだろうか。


「後は、兄者が見つかることを祈るばかりッスね。事実がわかるはずッス!」


 鼻息を荒くしているあたり、結構ユウガオのことを心配してるみたいだ。


 仮に王国兵とことを構えていたとしても、兄を売らずに済むのが嬉しいのである。


 当たり前か。


「しかし、まだ連絡がこないということは……」


「ちょっ……待つッスよっ」


 だが、エントラが不穏なことを言いだしたため、アサガオの顔が強張ってしまった。


 まぁ、俺もそれらを心配はしていたんだが。


「まず、兄者がそこらの兵士にやられるわけないッス!」


「そうは言っていませんし、考えたくもありません。が、勇者様のご両親を逃がすために囮を努めたという可能性はあります」


 アサガオの言う通り、ユウガオが容易く捕まるとは考え難い。反面、エントラの予想を否定するだけの材料もない状態だ。


 囚われただけなら良い。最悪の展開を想像したくはないが、こうも連絡がこないと不安になる。


「うーん、二人を連れてるなら逃げるのだけで精一杯かしら。もう数日、様子を見てみましょう。きっと、追手をおちょくるのに夢中で連絡を忘れてるだけよ」


 俺は、嫌な思考を振り払うように提案する。


「それが良いでしょう」


「そうッス、兄者は殺して死ぬようなタマじゃないッス!」


 話題を保留にして、土の“マテリアル”ダンジョンへと戻ることにした。


 後数時間を黙って歩くのもいかがなものかと思ったが、他にも話題がないのも考えものだ。


「勇者様、まだ“トウィースペトト”が残ってるッスよ」


 再び歩き出して一時間で、アサガオがモゴモゴと言ってくる。


 沈黙に耐えかねたのかと思ったら、まさか芋を食べていただけだった。


「俺はもう帰るからな。残りはそっちで片付けてくれや」


 ブロスが別れ際の餞別(せんべつ)として、三つの“トウィースペトト”を置いていこうとしていた。


 エントラを見ると、さすがに首を横に振る。俺はというと、少なからず詰め込めないことはない。


「仕方ないわね。二つくらいはファラエに置いておくとして、もう一つくらいなら食べてあげる」


 変に太ったまま、勇者ちゃんに体を返したら怒られるかもしれないんだが。


 大丈夫、勇者ちゃんの体は喜んでる!


 そう正当化して、俺は芋を詰め込んだ。


「ホクホク、好きッスね?」


「好きよ」


 アサガオが当たり前のことを聞くので、ちょっと自棄になって答えてやった。


「ネットリも好きッスよね?」


「すっきっ」


「ブロッサムのことも好きッスか?」


「しゅきぃっ……えっ?」


 ハメられた!?


 振り返れば、なんか顔を赤くしたブロスが決まりの悪そうな顔をしている。元から赤かったか!


「い、今のは言葉の(あや)というか……! 勢いで言わされただけで!」


「ゆ、勇者が良いなら、今夜くらいは大丈夫だ、ぞっ」


 聞いちゃいないっ!


 毎度の如く、アサガオは余計なことをしでかす。何がしたいのかがわかるから、余計に怒りのやり場に困る。


「とりあえず、今のは無し! 良いっ? 無し、よっ! こんな形でなんて、断固として無効!」


「そ、そうです! あんなものは告白ではありません!」


 無理やりその場を流そうとする。ほぼ個人の都合で、エントラも慌てて味方をしてくれる。


 今はブロスも戸惑っているが、否定せずに置いておくと『飼われること』を認めたことになりそうだ。


「でもでも、何も思ってないならそんな否定のしかたはしないッスよねぇ~」


「盗賊の姐さん! さすがに、それ以上は僕も怒りますよ!」


 完全に場を引っ掻き回して、アサガオはエントラから逃走を開始した。当然ながら俺も、お茶を濁すために追いかけ始める。


 そのまま、青春の学生よろしく沈む夕日の中を走っていった。


 夜の(とばり)が降りた頃、俺達は漸く土の“マテリアル”ダンジョンに到着した。


「おかえりなさい。それで……どう、だったんだい?」


 こんな時間にも関わらず、ファラエが待っていてくれた。


「ふぅ……ただいま。待たせたみたいでごめんね」


 息を整えて、少しくらいの労いをかける。


 心配してくれるのは嬉しいが、良い報告が上げられないのが大変申し訳ない。


「エントラ君や盗賊ちゃんの様子を見るに、(かんば)しいとは言えないみたい、かな?」


「あぁ~……」


 先にダンジョンへと入っていったであろう二人の表情から、結果を察したようだ。


 人の機微に敏感過ぎるというのも考えものかもしれない。


「中に入りましょう。順を追って説明するわ」


 答えて、俺もダンジョンの奥へと向かう。


 ユウガオからの連絡がないことを確認して、詳細とこれからのことを話し合った。

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