案件52「別に強くない1」
ガラムさんからの報告を聞いて、俺達は急ぎガーデンロードへと向かった。
入り口は以前と同じ、下層民側の壁である。
アサガオに変装させてもらっていなければ、関所の時点で足止めを食らっていたかもしれない。
「なんとか入れたわね……」
「そうですね。見張りも、かなりピリピリしている様子ですし」
刺すような視線は、勇者だと疑われているからではないと信じたい。
目立たないよう人混みに紛れて進み、目的地である勇者ちゃんの家にたどり着く。
当然、その間にも戦争云々の情報を集めることも忘れない。
「そろそろ、こっちくるのやめようかね」
「姿は見えないけど、スノードロップの奴らが囲んでるって話だぜ」
「いつ攻めて来るのか、怖くて仕方がないな。ガーデンロードはどうするって?」
「さてね。いろいろと、腕の立つ探索者達を呼び集めてるって話は聞くけど」
「噂の勇者とやらはどうなんだい? 魔王にこそ負けたって話だけど、実力は確かなんだろ?」
「王国も血眼になって探してるみたいだな。もし見つかったら、百人力なんだけどな」
「おい、変な女がニヤニヤこっちを見てるから行こうぜ……」
探索者の男達がそんなことを話しているのを聞くことができた。
あの国王様が慌てふためいてると思うと、少し愉快だった。もし反省して頭を下げに来るのなら、手伝ってやらなくもない。
しかし、その気は、状況を知って一気に消え失せる。
「……いませんね。お父様とお母様」
「えぇ、もう先に避難しちゃったのかしら?」
いつもなら寂れた扉から入っていくのだが、今回は客という体で店側から入ろうとした。
けれども、お店は開いておらず、さらに家側の扉も施錠されていた。
父親が行商に出ており、母親がただ家を開けているという可能性もあった。少し家の周りを回っていたら、近所の人に話しかけられる。
「あんた達、アルピナムさんとこの知り合いかい? 二人とも、大変な状況みたいだよ」
“蒸気輪”屋のオジサンでした。
どうやら勇者ちゃんやその仲間達だって気づいていないみたいだ。アサガオ様様だな。
「王様んとこの兵士が、保護するってやってきたんだよ。でも、それを黒装束の奴が連れ去っちまったって」
「……」「……」「……」
俺とエントラとアサガオは、それを聞いて顔を手で覆った。
ユウガオが戻ってきていないため、こっちへ来ているかと思った。それは間違いではなかったみたいだ。
王国に楯突いているとは思わなかったが。
「そ、そう。留守なんですね。ありがとうございます」
声音を変えつつお礼を言ったら、俺達はその場を離れた。
まず、俺としては国王の考えがわからず混乱してしまっている。
一度は捨てた勇者ちゃんの家族を、いまさら保護しようなんてどういう風の吹き回しだ?
いや、もはや心変わりと言っても良い。
「国王の兵士を退けて、間者の兄さんが逃げたのは確かでしょう。後の影響を顧みずに、ということは相当切羽詰まっていたはずです」
ここで、思考を整理するのを手伝ってくれるのはエントラ。
「どうしてユウガオがガーデンロード兵に敵対するのよ? 私の敵を増やすことなんて、わざわざするような性格じゃないでしょうし」
まさかな想像が脳裏をよぎってしまう。
当然、アサガオがフォローを入れてくれる。
気持ちと声を抑えようとしつつも、俺の肩に置かれた手から感情が溢れ出てくる。
「『保護』自体が嘘だったんじゃないッスか? 私同様、勇者様に仇なすつもりはないッス……ッ」
「い……!」
手で振り払えない俺にとって、かなりきつい攻撃だ。
「姐さん!」
「……」
エントラが止めてくれなければ、ガラスの肩が出来上がるところだったかもしれない。
少し周囲の気を引いてしまったものの、路地裏なので喧嘩とでも思ってくれたみたいだ。
「本当にそんなこと思ってるわけないじゃない。落ち着いて」
「悪かったッス……」
アサガオが落ち着いたところで、俺達は町を去ることにした。
長居しても見つかる可能性が大きいだけだ。特に、王国兵が何をやろうとしているのかわからない以上は余計に。
それなのに、奴はそこにいた。
町を囲う壁を抜けたところになんと、ブロスが佇んでいたのである。
ポインセティスの時とは違い、フードで姿を隠しているだけマシかもしれない。
だが、俺はそれを無視して『レビテーション』で移動する。当然だるぉ?
ブロスも少し戸惑った様子だが、直ぐに『ニトロブースト』で追いかけてきた。
人目につかなくなったところで降り立つと、漸くブロスに怒鳴る時間ができる。
「なぁーにやってんのっ!」
戦争まで一触即発ってときに、迂闊に姿を晒すダンジョンマスターがいるか!
「お、おう……落ち着けよ勇者。あの神官野郎に乗せられて飛び出しちまったのはお前だろ?」
「へ?」
一瞬何のことやらと思ったら、そういうことか……。
ガラムさんのことを安易に信用して、こんなところへ来たことを心配してくれたのだ。
それを聞いて、他の二人も迂闊だったと言いたげな顔をする。
「そ、そっかぁ……ごめん。私は一度手合わせしてるから、人を騙したりしないってわかったのよね」
一応、油断していたことは謝っておく。
お礼を言うのは何か違う気がした。




