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共鳴 #6

 マホが三時間とかからずに走り抜けてきた道を戻るまでに魔王と他称されているサキュバスと元魔王討伐隊の三人は半日の時間を費やしていた。


「太陽は昇って来ていないみたいだけど、もうすぐ夜明けみたいですね」


 リョウは空気の流れと僅かな空気の香りを感じ取りそう言った。


 天使との壮絶とは言わないまでも大規模な戦いが行われた森を抜けてから王国は見えていたが、そこから王国まではもう少し距離が残されていた。


 これから戦わなくてはいけないというのにサキュバス以外の三人には疲れの色が見えていて一時間で六キロメートル程しか進んでいなかった。


「人間と言うのは不便ね」


「サキュバス、癒しの魔法を唱えてくれない?」


「ダメ」


 サキュバスは二つ返事でマホにそう返した。しかしそれは決してサキュバスの人間に対する嫌がらせなどではなかった。


「マホだって魔法使いなのだから知っているでしょう? 癒しの魔法はただの幻惑魔法、疲れを魔法の力で誤魔化しているに過ぎない。魔法の効力が切れれば魔法がかけられていた間の疲れも重くのしかかる。今ここで使ってしまえば王国に戦いを挑むという時に魔法の力が解けてしまうのは目に見えているからもう少しだけ我慢して。王国に着いたら最大限の癒しの魔法を唱えてあげるから」


 サキュバスはそう言うと、マホの背中を優しく叩いて微笑んだ。その笑顔はとても人間と敵対する魔界の王のものとは思えないほど優しく温かいものだった。


 サキュバスたちはその後も二時間歩き続け、王国の西門前に辿り着いた。


「どう? 身体の調子は」


「おかげさまで」


「はい、さっきまでの疲れが嘘みたいです」


「ならよかった」


 サキュバスの魔法で疲れを一時的に誤魔化したマホ達は気持ちを高ぶらせ、西門をくぐろうとした。


「待ちなさい」


 マホ達を引き留めたのは西門の警備を行う王国直属の兵士だった。


「何でしょうか? 私たちはこの王国のものですが」


「そんなことは知っている。だが」


 兵士は懐から笛を取り出すとそれを口に咥え、夜が明けて間もないというのにもかかわらず迷惑なほど甲高い笛の音を響かせた。


 笛の音が響いてから僅か十秒でマホ達は三十人ほどの兵士に囲まれた。


「魔法使いナルミ・マホ、僧侶キサキ・リョウ、そして格闘家、指名手配中の三人がのこのこと国に戻って来るとは」


「国王様の話では森で五百を超える兵士に襲われていたはず。それを切り抜けるとは流石は亡き勇者の仲間だな」


「だからと言って、指名手配犯を国の中に入れるわけには行かない」


 マホ達を囲む兵士たちは対人間用の鋭利な槍を手にし、マホ、リョウ、格闘家の三人の命を狙っていた。


 そんな中で誰にも見向きをされていなかった魔王サキュバスが口を、正確には握りしめていた拳を開いた。


「兵士の相手はもう十分」


 怒りの色が見受けられる低い声でそう言うサキュバスが開いた手の中には真っ黒な杖が握られていて、周りを囲んでいた三十人の兵士は一人残らず氷塊の中に閉じ込められてしまっていた。


「さぁ、行こうか」


 先ほどの魔王と呼ばれるにふさわしい低い声をどこに捨ててしまったのか、魔王であるはずのサキュバスは人間の女子高生のように弾んだ声にその声にふさわしい笑顔を添えてそう言った。


「全く、勝手な事を」


「どうせ敵対しているのだから同じことでしょ?」


「そうだけど」


 そう言いながらもマホたちは氷塊の間をすり抜けて当たり前のように西門をくぐり抜けていくサキュバスを追って西門をくぐった。








「国王様、報告いたします。指名手配していた魔法使いナルミ・マホとその仲間の二人が謎の魔法使いの少女を仲間に加え、王国内に進入いたしました」


「全く。あちらの世界といい、こちらの世界といい私に歯向かうとどうなるか身をもって知らせてやろう。王国中の兵士に伝えよ、魔法使いナルミ・マホ一同を客人として迎えると」


「か、かしこまりました」


 国王の命令は国王に仕える兵士によって国中の兵士に伝えられた。








 マホ達が王国中央に堂々とそびえ立つ王国城へ向かっていると、再び対人間用の槍を持った兵士に取り囲まれた。


「邪魔」


 サキュバスは幾度となく現れる兵士に腹が立っているようで、現れただけで戦闘態勢に入っていない兵士の一人を氷塊に閉じ込めた。


「次にこうなりたい人は?」


 マホも話し合うのは無理だと判断したのか魔法陣から真っ白な杖を呼び出して、兵士を脅すように杖を向けそう言った。


 その脅しが効いたのか、兵士たちは槍を自分の背に隠しながら背筋を正しマホ達に敬礼をして言った。


「ナルミ・マホ様一同にご報告いたします。国王様はナルミ・マホ様一同を客人として迎えるとの事、ご案内いたします」


 兵士はそう言うとマホ達を取り囲み城へ歩み出したが、マホ達は歩み進めずその場に留まった。


「どう、致しました?」


「客人を迎え入れるというのに」


「武器を手にしているのはあまり良くないと思いますけど」


 マホとサキュバスは周囲の兵士に杖を向けそう言った。


「それは失礼いたしました。皆、武器を置け」


 一人の兵士の命令でマホ達を囲む全兵士が武器をその場に置いた。


「これで納得して頂けますでしょうか?」


「まぁ、良いんじゃない?」


 サキュバスは笑顔でそう言うと杖で地面を二度叩いた。すると、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がり兵士の持っていた槍だけが地面の中に沈んだ。


「それでは、参りましょう」


 サキュバスを指名手配犯と行動を共にする未知の魔法使いと見ている兵士たちはサキュバスと言う人物に若干の疑問を抱きながらもサキュバスを含めた四人を城内へ案内した。




「よく来たね、君たち」


 マホ達が案内された場に国王の姿は無く、国王の声はシルク生地のカーテンの奥から聞こえた。


「国王、私たちは貴方の正体を掴んでいます」


「ふっ、そうか。君たち、下がりたまえ」


 国王がそう言うと、王室と呼ばれるその部屋から兵士たちが静かに退室した。最後の兵士が王室から出て王室と廊下を隔てる扉を閉ざすとシルクのカーテンが開かれた。


「さて、君たちは既に私の正体について掴んでいるのだろう?」


 シルクのカーテンで閉ざされていたその空間からは黒い羽が舞い上がり、王室を黒く染め上げた。


「創造主、テン。魔王様と」


「ユウちゃんを返して」


「ほう、これは驚いた。まさか、二人が生きていると気付いていたとは。しかし、残念な事にその二人はこの世界に戻ってくることは出来ない。現魔王サキュバスと魔法使いナルミ・マホの持つ二つの剣が混じり合う時に起こる奇跡の力を持ってしても」


 そう告げたテンは大きく声を張り上げて笑い、サキュバスとマホは怒りに燃えた。


 二人の怒りを表すようにサキュバスの背にある魔なる剣とマホの背にある聖なる剣は再び共鳴を始めた。


共鳴編最終回です。


最終回だと言うのに妙な終わり方で申し訳ありません。もしも、共鳴編だけをお読みの方がいたならばこの機会に本編を読んで頂ければと思います。

お気付きの方もいるでしょう。共鳴の実質的な最終回は本編で行います。


という事で気分を切り替えて次回ですが、本編の最終戦です。

個人的な事を言うと、丸一日缶詰になって書き上げました。

ご期待に添えないかもしれませんが最後の最後まで温かい目で見ていただきたいと思います。

それではまた次回の後書きでお会いしましょう。


東堂燈

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