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零度真央 #11〜終戦〜

 コツ、コツと生徒会室に続く廊下に二人の足音が響いていた。その音は生徒会室の中で待つ二人の耳にも届いていた。


「来たようだ」


「みたいですね」


 魔王は生徒会室の目の前までやって来たようで足音はコツッと短くなり響くと、生徒会室の扉がゆっくりと開かれた。


「よく来たね、零度真央君っ?」


 ゆっくりと開かれた扉から生徒会室に飛び込んできたのは人間でも魔王でもなく一本の棒菓子だった。


 思いもよらぬ不意打ちにテンも優も驚きを隠すことは出来ず、優は咄嗟にその棒菓子のパッケージをテンから授かった純白の剣で斬り裂いてしまった。


 優の剣技は人間業とは思えぬほど早く、その速さは切り裂いた棒菓子とはとても相性が悪かった。


「まさか、煙幕?」


 棒菓子のパッケージが斬られると中から赤い粉末が舞い上がった。その煙幕は優の剣技で一瞬のうちに生徒会室中に舞い上がり、真っ赤な煙幕は優とテンの視覚と嗅覚、そして味覚に焼けるような刺激を与えた。


「敵は魔王だぞ、不意打ちの備えくらいしておくべきじゃないのか?」


 生徒会室の扉を思い切り開け、自分たちに被害が及ばぬように真っ赤な煙幕を吹き飛ばし生徒会室に入って来た魔王はそう言うと、煙幕と一緒に舞い上がったパッケージの切れ端を掴んだ。そのパッケージにはねじり鉢巻きデスソースアンドマシュマロ味と書かれていた。


「それにしても、使い勝手の良い菓子だな」


「食べ物で遊ぶなんて悪魔。いえ、魔王ね」


「食べ物で天使を撃退した冷利にだけは言われたくない」


 痛みに悶える二人の前でそんなことを話していると、視覚を失ったテンは聴覚だけを頼りに氷の弓矢を放ってきた。


「魔王如きが僕に歯向かうなど許さん。優、やれ」


 テンがそう命じると不思議な事に優の視覚、嗅覚、味覚の痛みは一瞬にして和らぎ、身体の奥から力が湧き上がって来ていた。


「まずは、その女だ」


「楓会長、この子は」


「その女は魔王の手下、構うことは無いやれ」


「わかり、ました」


 優の言葉にテンは邪悪な笑みを浮かべ喜び、真央は大きなため息を吐いて呆れ絶望した。


「ごめんなさい」


 優は純白の剣を両手で強く握り腰と水平に構え冷利に向かい走りその剣を振り上げ、そして振り下ろした。


 優の手には剣越しに人間の腕を斬る生々しい感覚が流れて来た。同時に周囲に真っ赤な液体が飛び散った。


「全く、謝るくらいなら剣を振るな。このバカ」


 優の剣を受けていたのは冷利ではなく真央の左腕だった。優の剣を受けた右腕は手首より先が生徒会室の床に落ちた。


「こうなったら女は後回しだ。まずは、魔王をやってしまえ」


「分かりました」


「おい、一応姉弟だろ? 少しは思い留まるだろ。まぁいい、右腕もくれてやる」


 真央は覚悟を決め、右腕を優に差し出した。それに応えるように優は剣を再び頭上に振り上げ、真央の右腕目掛けて思い切り振り下ろした。


「ダメだ」


 剣は真央の右腕に到達する直前で異物に阻まれ根元から折れた。そして、真央は安心と呆れの二つの意味が含まれた乾いた笑いを零した。


「どこまで使い勝手が良いんだ、この棒菓子は」


「そんな呑気な事言っている場合か?」


「真央、あなたは今、博が助けに来なければ死んでいたのよ」


「死ぬ? 何を言っている?」


 涙目になりながらそう言う冷利と博に対し、真央はとぼけた様な口調でそう言った。


「俺は魔王としての力を取り戻した。この程度の攻撃では死んだりするはずが無いだろう」


 真央はそう言うと、手首より先が斬り落とされた左腕を見せた。すると、その切り落とされた傷口からは服から手を通したかのように手首が飛び出してきた。


「さて、賢い優は武器が折れてもまだ戦うか?」


「何で、お菓子で剣が折れるの?」


 優は馬鹿みたいに大声でそう叫びながら折れた剣の持ち手と、目の前に立つ博が手にする傷一つないねじり鉢巻きコンクリートアンド鋼鉄味を見比べた。


「そんなこと知るか。どうせ不良品でも渡されたとかだろ。お前は騙されやすいバカだからな。いや、それを言うならテンも同じだな。今の今まで優が自分の術にかけられていると思い込んでいるみたいだからな」


「思い込んでいる? そんな筈がある訳無いだろう」


「そう思うならかけた呪文と対になる呪文を唱えてみたらどうだ?」


「そんな馬鹿な事がある訳無い」


 そう言いながらもテンは敵であるはずの真央の言葉を僅かに疑いながらも信じ、優にかけた『禁忌魔法エンジェリー・ウィスプァー』と対になる呪文『禁忌魔法デヴィル・ウィスプァー』を唱えた。


 テンの正面に魔法陣が出現しその魔法陣から真っ白な悪魔が現れた。真っ白な悪魔は魔法陣から飛び出ると真っ直ぐ優のもとに向かい、優の体内に両手を突っ込んだ。


「何? 何なの? や、止めて、くすぐったい」


 真っ白な悪魔は何度も何度も優の体内をまさぐった。しかし、優の体内から真っ黒な天使が出てくることは無かった。


「う、嘘だろ?」


「残念だな、でも禁忌魔法が勇者に効かないことくらいうちのサキュバスがとっくの昔に実証済みなんだよ」


 真央の堂々とした発言の後、優の体内をまさぐっていた真っ白な天使は内側から爆発し真っ白な体毛を散らして消滅した。


「勇者、貴様は最初から僕を、私の事を騙していたのかぁ!」


「いや、優は誰にも騙されていない。自分自身でお前を信じていただけだ。なんて言ったってうちの姉はバカだからな。俺が魔王の力を取り戻したことでこの世界を征服するとか虚言を吐いてまんまと騙されたとかそんなところだろ?」


「真央、違ったの?」


「違うに決まっているだろう。こんな素晴らしい世界を侵略すると罰が当たる」


 真央の言葉に冷利と博、そして何故か夕までもが涙を流しそうになっていた。そんな中でテンだけは怒りをあらわにした。


「良い話をしているようだが、貴様らは何も気づいていないみたいだな。勇者も魔王もこの世界から戻ることは出来ない。そして、この世界で消えゆく運命さだめだ」


「気付いていないのはお互い様だろ? こっちはたった今バカに説明を終えたところだ。これが何を意味するか分かるだろう?」


「形勢逆転か? 笑わせてくれるな。私に人間と魔族如きが勝る訳が無い」


 テンは自分の勝利を確信してしまったのだろう。天風楓だった時の性格や風貌などは一切忘れ大きく口を広げ笑った。


「これとこれ、使えるな」


「何を、している?」


「俺たちはここで天界人のお前に負けてこの世界で散る。それがお前の脚本だったな? だから、最後に悪あがきでもしてやろうと思ってな」


 真央の手の中にはテンが優に渡した純白ながらも不良品の剣だったものとその剣を受けても尚傷一つ付いていないねじり鉢巻きコンクリートアンド鋼鉄味があった。


「スキル発動『精製』」


「スキルだと?」


「魔王は一から物を作る能力に長けている。これ位の事が出来てもおかしくないだろう?」


 そう言い、真央は手の中で人間界と天界二つの世界で作られた素材を魔界の力で一つの剣としてまとめ上げた。


「魔族は魔なる剣以外武器に名を付けることなどない。この剣の名は優が名付けろ」


「えっと、それならカッコいい名前にしないとだよね。決めた『双剣希望剣』なんてどう?」


「ダサい」


 真央はとてもストレートにそう告げた。


「ダサい上に剣が重複しています」


 冷利は真央の感想に加えて自分の感想を告げた。


「双剣と言っているのに一本だけしかありませんよね? 剣が重複しているという意味では双剣ですがぁふっ」


 博は根本的な所を突っ込み、自分のネーミングセンスが欠けていることに気付いた優と、自分の感想をバカにされたような気分になった冷利からそれぞれ一発ずつ拳を文字通り顔に突っ込まれた。


「茶番は終わったか?」


「わざわざ待っていてくれたのか? 初っ端から不意打ちを仕掛けた俺がバカみたいだな」


「格下相手に不意打ちをするほど私も愚かではない」


「そうか、でも俺たちは格下だからお前より愚かだ。優!」


 真央がそう叫んだ時には既に優は自ら名付けた剣『双剣希望剣』を手にテンに向かい生徒会室を駆けていた。


「愚か者が、たった一人で何が出来る」


「一人じゃない」


 そう叫ぶ優の背後から赤と銀色の棒菓子が飛んできた。それは紛れもなくこの戦いで幾度となく使われたねじり鉢巻きデスソースアンドマシュマロ味とコンクリートアンド鋼鉄味だった。


「スキル発動『精製』」


 真央のスキルは優の背後から放たれた二種類のねじり鉢巻きと優の着用している純白の鎧を素材に生成された。


「デスゴーレムだ。触れると死ぬような刺激に襲われるぞ」


「そのような虚言を誰が信じるか」


 テンは真央の言葉など信じず、デスゴーレムという鎧を身に纏った優の一撃を真正面から受けて立った。


「うがぁぁぁ」


 優の一撃はテンの身体を貫いた。それでもテンは自らの負けを認めず最後の最後まで攻撃を受け切った。本当に最後まで。


「本物のバカが」


 つい真央の口からそんな毒舌が吐かれるほどテンが最後に取った行動は呆れるほど馬鹿なものだった。


「身体が、身体が燃えるように熱い。やめろ、魔王、勇者、貴様ら何をした。愚かな下等生物共、創造主である私を助けろ」


「言ったはずだ、食べ物で天使を撃退したと。天使はデスソースに弱いらしいな。帰ったら早速デスソースの生成をすることにしよう」


「良いのか? 私を倒せば貴様らは元の世界に帰ることは出来ないぞ」


 テンにとってそれは自分の命が危うくなった時に使い形勢を逆転できる切り札だった。しかし、テンにとって最後の希望はとても簡単に踏みにじられた。


「この校舎は禁忌魔法の使い過ぎで俺が入った時点でこの空間の時間感覚が歪み切っていた。あと一度禁忌魔法が使われたら時空そのものが歪み別世界に通じてしまうほど。そしてその一回は俺の口車に乗ったお前が使ってくれた。感謝している」


「何だと?」


 テンは最後に最大級の怒りをあらわにしたが、その怒りを発散させることが出来ぬまま創造主テンは爆散した。


「アンタは長く生き過ぎた。世代を交代するのも悪くはないはずだ」


 真央は手向けの言葉として消えゆくテンにそう告げた。白く消えゆく姿はその場に居た四人の記憶の中に永遠と刻まれた。




午後十時五十七分 終戦


今回で真央編は最終回となります。が、本編はもう少しだけ続きますのでご愛読よろしくお願いします。


そして今回もねじり鉢巻が活躍しております。最早ねじり鉢巻が後半戦の主役と言っても過言ではないと思います。

この物語がゲーム化したら確実にチートアイテムになるでしょう。

注意 ゲーム化の予定はありません。


次回ですが、次回は今回のというよりは冷利と博の世界の後日談をお送りしたいと思います。

久々に短い話になっています。


最終回まで今回を含め残り3回になりましたが、最後まで応援よろしくお願いします。


東堂燈

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