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共鳴 #5


「わたしたちは今まで国王様に騙されていて、本当は戦う必要のない心優しき魔界の魔物たちと戦う事を強いられていたという事ですか?」


 僧侶の少女キサキ・リョウの言葉にリョウの仲間であり王国で指名手配されている魔法使いナルミ・マホは小さく頷いた。


「心優しいと言っても魔界と人間界が争いを始めてから長い月日が流れているから人間を恨む魔物も少なくないけどね」


「そればかりはわたしたち人間の所為ですから仕方のない事ですよね」


 リョウの物言いに格闘家の男も頷いた。


「その事は平和になってから誤解を解いて謝ろうよ。それよりも今は王国に急ごう」




 人間界と魔界の境から人間界の方に進むと巨大な大樹が生い茂る森に道は延びていた。


 少なくとも魔界に乗り込むときくらいにしか人が歩くことのないこの道は現在サキュバスと行動している元勇者一行の三人と数人の兵士が歩いただけにしては妙に道がはっきりとしていた。


「マホ、貴女の国の国王と言うのは殺したくなるほど最低な人間のようね」


「本当だよ」


 魔法を得意とする二人は『フォレスト・オープナー』と言う、木々を動かす魔法を同時に詠唱した。


 魔法の効果で生物のように動き出した大樹の陰からは五百を超える兵士が現れた。


「半分だったら余裕だけどこれだけの相手、私一人では難しいな」


 マホはワザとらしく大声でそう呟いた。


「奇遇ね、私も一人でなら半分は余裕よ」


 二人は二コリと笑い、手を繋いだ。その繋ぎ方は標準のものではなく俗に言う恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方だった。


「フローズンシャンデリア」「フレアヴォルケーノ」


 名前も属性も異なる魔法を唱えた二人だったが、二つの異なる魔法は一つの魔法として発動した。


 二つの属性が一つの魔法として発動されるその魔法はこの世界では例のない初めての魔法だった。


 偶然的な必然で発動したその魔法は五百を超える兵士たちを炎のように熱い氷の中に閉じ込めた。


「『禁忌魔法』」


「『デヴィル・ウィスプァー』」


 二人は兵士たちの動きを封じると禁忌魔法で白い悪魔を呼び出し、兵士たちの身体に居付く黒い天使を引き抜かせた。


「これは、随分と大きな天使ですね」


 兵士たちの体内から現れた天使は白い悪魔の四倍ほどの体長であった。真っ黒な天使は兵士の体外に引き抜かれると自分たちを引き抜いた白い悪魔たちを鷲掴みにし、人間にはとても理解できない言語を叫びながら握りつぶした。


「マホ、半分だけ力を貸して」


「じゃあ、サキュバスも半分貸してよ」


「勿論」


 二人の魔法使いは軽く目を瞑り、地面に小さな魔法陣を二つ展開した。


 魔法陣からは悪魔のように真っ白な杖と天使のように真っ黒な杖が現れ、それぞれ真っ白な杖はマホの手に、真っ黒な杖はサキュバスの手に収まった。


「それじゃあ」


「気を取り直して」


 二人が杖を向けると、無数の魔方陣が天使たちを捉えた。


「まずは、凍って」


 マホがそう言うと杖は呪文の詠唱無しに氷属性最強の禁忌魔法『ブリザードメイディン』が発動して天使を氷の棺に閉じ込めた。


「貫け」


 サキュバスが杖をV字に振るいそう言うと、棺の内側から的確に急所を貫く棘が永遠と生え続け、天使たちの身体を貫いた。


 魔物や人間を倒すというのならば十分過ぎる攻撃であることは間違いなかった。しかし、天使を倒すにはまだ力が弱いようで、全体の九割の天使が身体に突き刺さる氷の棘を根元からへし折り、氷の棺を軽々と破壊した。


「天使風情が生意気ですね。次こそ仕留めてあげましょう」


 サキュバスは微笑み視界に映る天使を囲うように杖で円を描いた。サキュバスの絵がいた円は巨大な魔法陣となり、三百数十体の天使を一カ所にまとめた。


「『禁忌魔法ヴォルケイノフェニックス』」


 サキュバスの作り出した魔法陣にマホが呪文を詠唱すると、魔法陣からは黒い炎の翼を持つ不死鳥と白い炎の翼を持つ不死鳥が交互に永遠と生み出され続けて一カ所にまとめられ、自由に動くことが出来ない天使たちを食い燃やしていた。


 天使たちは作業的にその魔法を消し去ろうと試みていたが、不死鳥フェニックスの名を冠する魔法を消し去ることは出来ずに三百数十体の天使は食い燃やされ跡形もなく消えた。


「あとは」


一人ソロで十分」


 二人はつないでいた手を離すと、サキュバスは右に寄った森の中へ、マホは左に寄った森の中へ姿を隠した。




 残っている二四八体の天使の内、一二四体の天使たちは右に寄った森に隠れたサキュバスを追って一方向から森へ飛び込んだ。


「そんな単純な行動大好きだよ」


 一二四体の天使たちが全て右に寄った森の中に入ると、森の中に居たはずのサキュバスは森の外から天使に向けてそう言い呪文を詠唱した。


『キャッスルメイク』


 呪文が詠唱されると右に寄った森が大きな鳥籠の様な樹の城に変化した。樹の城に閉じ込められた天使は内側から城を破壊し脱出を試みていたが、魔法により強化された大樹で出来た樹の城は破壊することが出来なかった。


 力での破壊が無理であると判断した天使は手の中に人間界で野球と言う名で親しまれている娯楽で使われている球体ほどの大きさの黒い焔を作り出し樹の城を燃やしにかかった。


「この大樹に罪は無いから、君たちだけ燃え尽きてくれないかな? 『ジューンレイン』『禁忌魔法エンジェル・フレイム』」


 樹の城に閉じ込められた天使たちの焔は六月の雨の様に降り注ぐ水によってかき消されると禁忌魔法によって自然発火し、ただでさえ黒いその身体をさらに黒く焦がしながら地面へと落下し消滅した。




 左に寄った森へと向かった一二四体の天使は右に向かった天使とは異なり六二方向から森の中へ飛び込み森の中に潜んでいたマホを取り囲んだ。


「まぁ、大体予測通りかな」


 笑顔でそう言うマホの足元に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣からマホを包み込む巨大な蕾が現れた。


「植物魔法改式『ダンシィングローズウィップ』」


 マホを包み込む蕾が真っ赤な一輪の薔薇へ代わり、棘の付いた茎が開花を喜ぶように鼻の周りを時計回りに伸び回りながら周囲の天使に絡みついた。


 茨は絡みついた天使を薔薇の花の真上へと運ぶと最低限の拘束だけを残して茨の拘束から天使を解放した。


 しかし、天使が自らの意思で拘束を解き再びマホに襲い掛かることは出来なかった。


「植物魔法改式『ドレインローズ』」


 天使の力は茨から抜き取られ、その力は薔薇の花へと送られていた。


「植物魔法奥義『ローズブリザード』」


 薔薇の花の中央に立つマホが杖を天高く上げると真っ赤な花びらが天使から抜き取った真っ黒な力に乗せて一二四体の天使に襲い掛かった。


 天使は最後の一瞬まで茨の拘束から解放されることは無く、自らの力で自らの身体を朽ち果てさせることになってしまった。




「「駆除完了」」


 戦いを終えると二人の杖は魔法陣の中に吸い込まれるように消えていった。


 天使を倒した二人は杖同士を軽く当てトモに勝ち取った勝利を分かち合い、リョウと格闘家の男にVサインを送った。と言っても、サキュバスとマホの視線はリョウにのみ送られていたが。


「サキュバス、この森を抜けたらすぐに王国が見える。最後まで気を抜かないで」


「当たり前。ほら、急ごう」


 かつて勇者レイド・ユウの背中を追っていた元魔王討伐隊の魔法使い、僧侶、格闘家の三人は魔王サキュバスの背中を追って国王討伐に向けた最後の一歩を踏み出した。


新年2度目の更新は共鳴の5話です。

共鳴編だけお読みの方は明けましておめでとうございます。

共鳴編は次回が最終回という事でとても駆け足で話が進んでいます。

今回の話では魔法を使ったバトルがメインなのですが何分戦闘描写が苦手なもので、お見苦しいかもしれませんがお付き合いください。


さて、先にも述べたように次回は共鳴編最終回になります。最終回ですが、最終回っぽくは無いです。というか、最終回では無いと言ってもいいです。どのような話になっているのかは、明日の更新でお確かめください。

それでは失礼します。


東堂燈


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