表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/26

零度真央 #10〜楠太陽〜


 魔王の力が要らないほどに心強い仲間と共に俺たちは三階へと続く中央階段を駆け上った。そして、その先に待っていたのは。


「楠太陽」


「名乗った記憶は無いが、良いだろう。俺は本気のお前と戦えるのを待ち望んでいた」


 楠太陽からは偽天使の様な雰囲気は感じられなかった。彼から感じられるのは人間の邪悪な狂気だけだった。


「真央」


 冷利は腕時計を見つめて俺の名前を呟いた。


「あぁ、分かっている」


 冷利が俺に見せている腕時計を見ると、俺がタイムリミットと指定した午後十一時まで残り三十分を切っていた。


「楓の所に行くには俺を倒す他ないよな?」


「真央、さっきみたいにゴーレムを作り出して切り抜けましょう」


「冷利、残念だがそれは不可能だ」


 いつもの校舎ならば可能だが、今の校舎は一階も二階も激しい戦闘で至る所が壊れている。その上、今の俺の力は不安定であり、その状態でどの程度の大きさで生まれるかわからないゴーレムを生み出してしまったら校舎が崩壊する恐れがある。


 一階にいる生徒教員たちや、二階の偽天使もとい生徒会役員の四人、そして冷利と博の身の安全を守るためにもゴーレムを生み出すことは出来なかった。


「さぁ、戦おうじゃないか」


「わかった、相手を「相手をしてやる。この俺が」」


 俺の言葉を遮り、俺の前に立ち、楠太陽に堂々と啖呵を切ったのはいつも自分の言葉を遮られ、自分の前に立たれ、自分より先に啖呵を切られている博だった。


「博、お前には無理だ」


「おう、任せろ。って、無理じゃないからな。俺だって人間相手なら戦える」


 本人はそう言っているが、不安を拭いきれなかった……と言うより不安が全く拭えなかった俺は魔王より強いのではないかと魔王である俺自身の中で話題になっている冷利に確認した。


 とても真剣な表情で冷利は首を縦に振った。それが楠太陽に十分対抗できると言っているのか、はたまた足手まといながらも楠太陽を足止めするくらいなら出来ると言いたいのか俺には判断できなかったが、少なくとも楠太陽を任せても問題が無いとお墨付きをもらっているようではあった。


「ひ弱そうな男だな。お前が俺の相手をするのか?」


「あまり、舐めないで貰おうか」


 博はそう言ったものの、楠太陽は博に対しとても舐めた口調で


「ハンデをやる。俺は素手、お前はどんな道具を使っても良い。剣でも銃でも何でも」


 そう言った。言ってしまったのだが、この時、俺と楠太陽はまだ知らなかった。


「何でも? 今、そう言ったな?」


「あぁ、何で来ようと俺は負けない」


 ニヤリと背筋に嫌な気が走る笑みを浮かべる楠太陽に対し、博も同じような笑みを返した。


「冷利!」


 いつもの博では感じ取れない緊張感を纏った声で冷利を呼ぶと冷利はねじり鉢巻きしか入っていない鞄から何かを取り出し、博に投げた。


「サンキュ」


 博が受け取ったのは言うまでも無くねじり鉢巻きだった。確かにねじり鉢巻きしか入っていない鞄から取り出したのだからねじり鉢巻き以外にないだろう。


「お前、舐めているのか?」


 流石にこればかりは楠太陽に同意するしかなかった。


「何でも良いと言ったのは他でもないあんた自身だ。文句を言われる筋合いはない」


 博はそう言うとねじり鉢巻きを下から押し出すようにしてパッケージから取り出して口に運ぶことなく右手に握った。そのねじり鉢巻きの色は灰色と、どのように着色されているのか分からないが銀色をしていた。


 ねじり鉢巻きを手にした博は何故かとても恐ろしく感じた。それはどうやら楠太陽も感じているようだった。


「二人とも、俺に任せて先に行け」


 心強いながらも何故か負けてしまいそうな魔法がかけられたその言葉を背に俺と冷利は東校舎奥にある生徒会室に向けて駆けだした。








 真央と冷利が駆けだしたのを合図に博と太陽も動き、互いの距離を詰めた。


「甘く見てんじゃねぇぞ、この雑魚が」


 太陽は博の五十センチ前まで歩み寄ると体の軸を地面に突き刺したかのように安定させ、博の眼球目掛けて正拳突きを放った。


 この攻撃で博がのけ反ることは無く、代わりに拳を振るった太陽が殴った右拳を左手で抑えて博から距離を取った。


「咄嗟にその菓子で眼球を守ったのは見事だと思ったのと同時にバカだと思ったが、お前、それに何を仕組みやがった?」


 太陽の悔しそうな声色での質問に博は笑顔で答えた。


「俺は何もしていない。だってこれは、正真正銘間違いなく正規品だ」


 信じられないが、博の言葉に嘘偽りは無かった。


 博の手の中にある灰色と銀色のツートンカラーのねじり鉢巻きは『コンクリートアンド鋼鉄味』という味で博が幾度となく口の中にねじ込まれたシャンプーアンドリンス味並みに誰が好んで買うのか分からない『誰得シリーズ』として二ヶ月前に発売されていたのだが、軽さの割に固すぎて食べることが出来ないというクレームが続出し僅か一週間で発売停止となっていた。


「これは重機でなくては壊せないらしいけど、その拳は平気か?」


「同情など必要ない」


 右の拳から手を離した太陽は敵であろうと関係なく同情し、近づいて来た博のみぞおちを蹴り飛ばした。


 太陽の二度目の攻撃を防ぐことが出来なかった博は口から赤いものを撒き散らし、およそ三メートル蹴り飛ばされた。


「痛ってぇ。って、どうした?」


 太陽の顔には見るに堪えない博の吐き出した真っ赤な吐しゃ物が張り付いており、太陽はとても声にはならない悲鳴を上げながら悶えていた。


「なんか口の中が辛い。ということはもしかして?」


 博の脳内にはつい数分前に四体の偽天使を一撃で倒すほど強力な真っ赤なねじり鉢巻きが浮かんだ。


「えっと、こんな形で勝つのは気に入らないけど恨むなら吉良を恨んでくれ」


 博は悶え苦しむ太陽にそう告げ、真央と冷利に合流するため東校舎へと向かった。


「ま、待て。まだ、勝負は」


 戦う気力は残っている太陽だったが、太陽の身体は激痛に耐えられず冷たく冷え切った廊下に倒れた。




 倒れた太陽の心臓部から真っ黒な天使が悶えるように現れた。真っ黒な天使は足元から徐々に赤く染まり始め、全身が赤く染まると天使は爆散した。


 同じ現象が二階でも起こっていた。


新年明けましておめでとうございます。

年明け最初の更新はキリのいい真央編10話です。

書いていて思ったのですが、私は随分とねじり鉢巻に執着しているようでここから先の話にはほとんど登場します。

どこかのお菓子会社のお偉い様が見ていましたら是非デスソースアンドマシュマロ味を開発してみてください。


本年もよろしくお願いします。

東堂燈

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ