零度真央 #9〜四人の天使〜
ねじり鉢巻:本来の零度優、真央姉弟の世界で昔から売られている棒菓子。
『いちごアンドミルク味』のように2種類の味を1本で楽しむことが出来るが、中には『シャンプーアンドリンス味』のように食品とは思えないような味もある。
『コンクリートアンド鋼鉄味』のねじり鉢巻で人が撲殺されたという都市伝説もある。
激しい戦闘が行われているのか轟音が鳴り響く一階に比べて二階は俺たち三人の足音以外の音は全く聞こえてこなかった。
「零度、どうかしたのか?」
俺が博を見つめる視線に気が付いたのか、敵の本拠地にいるとは思えないほど緊張感のない口調で聞いてきた。
「博が背負っている鞄には何が入っているのだろうと思ったのでな」
「これか? これはな」
博は歩を止めて背負っていた鞄を床に降ろし、鞄を開いて見せた。
「ねじり鉢巻きだ」
驚くことに、博の持っていた鞄の中には隙間なくこの世界で老若男女問わず長く愛されている棒菓子『ねじり鉢巻き』が詰め込まれていた。
「私が用意したのよ」
「冷利が? 何のために?」
「真央だけに負担を負わせるわけには行かないから、私たちの護身用として」
ただの棒菓子が護身用として扱えるとはとても考えられないが、冷利の目は本気そのものであり冗談を言っているようには見えなかった。
「自分の身を自分で守ると言うなら俺も安心して全力を出せる。冷利の言葉を信じて良いな?」
「信じなくてもすぐに信じることになると思うわよ」
冷利はそう言うと、何もないはずの暗闇を指差した。
「人間?」
だとしたら気配に気が付かない訳が無い。それに、こうして俺たちの目の前に現れているというのに目の前にいる四人の、または四体の何かからは気配を感じ取ることが出来なかった。
「生徒会の四人衆」
冷利は小さな声で俺にそう伝えて来た。生徒会の関係者という事は人間なのだろうが、この四人は人間と呼ぶには随分と不可思議な姿をしていた。
「天使のような羽。なるほど、気配を感じなかったのは人間ではなくなっていたからか」
四人の天使になってしまった人間は何も言わず俺たちに近寄って来た。そして、手のひらをこちらに向けた。
「冷利、博、俺の後ろに隠れろ」
俺が咄嗟に叫ぶと四人の天使共はそれぞれ異なる属性の魔法を唱えて来た。
「ぐあぁっ」
間一髪の所で冷利と博を包み込むように抱いた俺は、背中に魔法の攻撃による衝撃を余すことなく受けた。
「真央!」
「心配するな、この程度」
気にするほどでは無かったはずだったのだが、人間の身体は魔法に対して弱いようでたった一度の攻撃で俺は床に膝を付けていた。
俺が立ち上がれずにいると、四人の天使は俺を囲んできた。
「こいつらの狙いは俺だ、二人は逃げろ」
全身に激痛が走りながらも俺は無理矢理立ち上がり天使たちを一瞬だけ振り払って冷利と博が逃げ出せる隙を作った。
「ウラムノナラ、テンサマヲテキニマワシタオノレヲウラムノダナ」
天使の一人で生徒会役員の猿島と言う少女は心のない口調でそう言った。
「喋れたのか。一つ聞きたい、俺は死んだらどうなる?」
「ワレワレハテンサマにメイジラレタコトダケヲハタスノミ」
猿島と同じく生徒会役員の犬岡と言う少年がそう言い、雉峰と言う少女が続けた。
「キサマガヨミガエッタトシテモ、ワレワレハキサマヲタオスノミ」
最後に生徒会副会長と記憶されている桃園と言う少年が告げた。
「ユイゴンハソレダケカ?」
「遺言は以上だ、一思いにやると良い」
桃、犬、猿、雉と桃太郎一行の様な名の天使たちは俺に向けて白色の魔方陣を展開した。
『ジャスティス・インパクト』
彼らは確かにそう告げ、正義の名を冠する魔法を放った。その魔法は天井と床に二か所ずつ綺麗な円形の穴をあけたが、本来の的であるはずの俺にはかすりさえしていなかった。
「そんなこと「遺言の必要なんてないわ」」
「どうして」
冷利は博を弄る時のような意地悪な笑みを浮かべ、何故か倒れている天使たちの上に堂々と立っていた。
「どうしてと聞かれても、命懸けで私を守ってくれた真央を守りたくなっただけの事よ」
冷利は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら早口でそう言った。
「そ、それにしても天使と言うのは見かけだけで人間とほとんど変わらないみたいね」
「そうか?」
「えぇ。だって、ほら」
冷利はそう言うと、足元に倒れている桃園、猿島、犬岡、雉峰の偽天使と俺に向けて何か言いかけた後、何故か一緒に倒れた博の口元を指差した。
四体の偽天使と一人の人間の口には、赤と限りなく白に近い桃色のツートンカラーのねじり鉢巻きがねじ込まれていた。
「ねじり鉢巻きのデスソースアンドマシュマロ味。言うほど辛くはないと思うけど?」
冷利は懐から『ねじり鉢巻きデスソースアンドマシュマロ味』を取り出し、マシュマロ味が含まれているとは思えないほどデスソースの刺激的な香りがしているのにもかかわらずそれを自分の口に放り込んだ。
「うん、美味しい」
冷利は恍惚とした表情でねじり鉢巻きを一本食べ終え、二本目を取り出していた。
「真央も一本どう?」
「こいつらはこれを食ってこうなっているのだろう?」
「そうね」
視線を足元に降ろすとピクリともしない偽天使と異常なほどピクピクする博が瞳に映り、視線を戻すとマシュマロ味の部分がデスソースに浸食されているねじり鉢巻きを口にくわえる冷利が瞳に映った。
「食べる気など全く起きないにおいがするが、よく平気な顔で食べていられるな」
天使と言う名の化け物と戦っているはずなのだが、本当の化け物は仲間の中にいたらしい。
「起きなさい」
偽天使四人を消火用のホースで拘束した後、冷利は制服のスカートの中から伸びた節減のように白い足で痙攣しながら意識を失いかけている博を蹴り上げた。
「おぉぅ」
ついそんな声が出てしまうほど力強い蹴りで意識を完全に身体から引き離されたのち、痛みが一周回って意識を呼び戻しとても文字に表すことは出来ない悲鳴と共に起き上がった。
「ようやく起きた」
冷利は「そのまま起きなければよかったのに」と続けたが、意識を取り戻してくれてよかったと俺は強く思う。
「博、冷利のおかげで最後の戦いはもうすぐだ。ここまで来たのだから共に戦おう」
痛みで立ち上がることのできない博に手を差し伸べ、博は感謝の言葉と共に立ち上がった。
「ありがとう、真央」
あえて言葉にするつもりはないが、この戦いは冷利が一人いれば済むのではないだろうか?
御影高等学校一階廊下
「グググ、ゴゴゴ」
ゴーレムは操られた人間たちによって瓦礫の山に変わった。予期せぬ敵が倒れたことで、人間の行動限界以上の傷を負った人間たちは本来の敵である真央のもとへ歩んで行った。
その姿はまるで兵士の行進のようであった。
今回は前書きから本編まで、ねじり鉢巻がプッシュされている回です。
ねじり鉢巻は某棒菓子をイメージしているのですが、わかるでしょうか?
本編では冷利が博や天使にねじり鉢巻をねじり込む描写がありますが、大変危険ですので真似しないでください。
あと、絶対にあり得ないとは思いますが、棒状菓子で人を撲殺するのもお止め下さい。
今回で書き溜めていた分を消費してしまったので次回の更新については未定なのですが、次回はいい加減博に頑張ってもらおうと思っています。
さて、それでは今回はこの辺で失礼します。
東堂燈




