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零度優 #6〜バカに効く薬〜



 深い眠りの中、優はある夢を見た。


 現在休戦中の宿敵であり、生徒会に入ったところで『劣等生』である自分にはもったいないほどに出来た弟である零度真央との和やかな夕食の時間を過ごしている夢。


「ごほっ、ごほっ」


「どうした? 風邪でもひいたのか?」


 いつもは姉に対しての優しさなど持ち合わせていないかのような毒舌を吐く真央だったが、辛そうな咳をする優に対し優しさがほんの少し感じられる言葉をかけた。


「大丈夫、私は勇者だから」


「そうだな。優はバカだから風邪をひく訳が無いな。でも一応、薬は飲んでおけ。『バカに効く薬は無い』だろうが、病は気からと言うからな」


 優の夢は真央のその言葉を聞いてゆっくりと暗転し、現実世界へと引き戻されて行った。




「こちらの準備は整った。さあ、いつでも相手をしてあげようじゃないか『魔王レイド・マオ』」


 意識を取り戻した優が最初に聞いた言葉は零度優としても、レイド・ユウとしても知らない天風楓の声だった。


「楓さん?」


「何、だと?」


 楓は驚かずにはいられなかった。それもそのはずだ、楓が優に唱えた『禁忌魔法エンジェリー・ウィスパー』はとても弱い洗脳でも本人の意思で解除することは不可能な魔法であり、優に唱えたのは楓の出せる最大限の力であったのだ。


「真央が魔王としての力を取り戻したというのは本当ですか?」


「レイド・ユウ?」


 優の喋り方の僅かな違和感に楓はすぐに気が付いた。


「寝ぼけていることで記憶が混濁しているのか。どうやら『スリープシュガー』を使ったのは正解だったようだな」


 楓は想定外の驚きの反動からだらしのない安堵の表情を見せた。


 しかし、楓の想像する真実と本来の事実は異なっていた。


「(どうして楓さんが真央の正体が魔王だって知っているのか分からないし、どこかで見た様な羽が生えているのか分からないけど、真央が魔王に戻ったって事は、休戦は終わりって事だよね? 楓さんは真央の敵みたいだから私は楓さんを助ければいいんだよね?)」


自問をするだけして答えが一向に出てこない優は楓の思惑に気付くことなく取りあえずという勇者の直感で楓側に就いた。


「ユウさん、君にはここで私と魔王が現れるのを待つとしよう」


「分かりました」


 優はふと窓の外を見た。優がほんの少し眠っていた間に陽は沈み切っていた。しかし、真央が魔王として本来の力を取り戻したと勘違いしている優はその暗闇は完全に覚醒した魔王が作り出した闇だと信じて疑わなかった。


「楓さん、真央が来たらどうするつもりですか?」


「心配する必要は無い」


 そう言う楓はノートパソコンを開き、前々から学校に無断で設置した監視カメラの映像を映し出した。


 その映像には、夜だと言うのに御影高等学校に通うほぼ全ての生徒と教員が廊下や教室に兵士のようにキッチリと整列して並んでいる様子が映し出されていた。


「魔王を倒すためにこれだけの人が」


「人間の力と言うのは勇者に比べるとゴミに等しい。だが、そんなゴミにも足止めぐらいの価値はあるはずだ」


「ゴミ、ですか」


 別世界の人間とはいえ、自分とほとんど変わらない姿をした人間たちを侮辱する楓に優は腹を立てた。


「なぜ怒る必要がある? 彼ら彼女らは能力の差異があるだけで君たち勇者や魔法使いを嫌った。それだけではない人間と言うのは人間同士でも嫌い、憎しみ合う。それはユウさん自身がよく分かっているだろう?」


 優は何も返すことが出来なかった。返そうとは思ったが、楓の言葉は優にとって正論であり論破する言葉を吐き出すことが出来なかった。


「私個人の考えだ、ユウさんが気にすることは無い。不安だと言うのならこれを渡しておこう」


 楓は手のひらを優に晒し、その手のひらに純白の剣を生み出した。


「気晴らし程度にしかならないとは思うが、ユウさんならうまく使いこなしてくれることだろう」


 優はその剣を優しく、丁寧に受け取った。純白の剣は優が持っていた『聖なる剣』を思わせるほど優の手にしっくり来ていた。


「やはりユウさんには剣が良く似合っている」


 楓が不敵に笑うと、純白の剣は怪しく光り優の身体を包み込んだ。


 光に飲まれた優は制服を純白の鎧へと変えられ、勇者としての『レイド・ユウ』に戻った。


「真央、いいや魔王。私はあなたを倒す」


「その意気だ。世界を我が手に」



 『正義』と『悪』二つの心が偶然にもぴったりと噛み合ってしまったことで世界破滅へのカウントダウンを始めてしまった。


最近めっきり寒くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?

私はどちらかと言うと夏の方が好きなので12月は憂鬱でなりません。

前置きはこの辺で、今回は零度優視点の物語としては最後の話になります。

優視点の物語が好みの方には申し訳ないですが、優にはまた別の機会に物語を語ってもらおうと思っています。


次回からは真央視点の物語となり、物語としてはクライマックス序章となる予定です。

1月の最終回に向けこれから割と短い期間で更新する予定ですのでお見逃しなく。


東堂燈

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