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零度真央 #5〜魔王再誕〜

「ただいま」


 無駄にも程があるほど元気な声で帰路に着いた優が帰ってきたのは陽が沈み時計の短い方の針が七を示した時だった。


「随分と遅かったな」


「これからもこれくらいの時間に帰ってくることが多いから」


 いつも以上の元気が溢れ出している優は下手くそなスキップをしながらリビングを突っ切って部屋へと戻り制服から部屋着へと着替えると、リビングに戻って来た。


「真央、夜ご飯は?」


 テーブルの上に何も乗っていない光景を見た優は無駄な元気を弱めることなく聞いてきた。


「準備はしてあるが、その前にお前に見てもらいたいものがある」


 俺はポケットから携帯電話を取り出し、冷利が送ってくれた動画を再生した。


「鳥人族か昼行性のヴァンパイアじゃないの?」


「俺たちの『常識』ならその考えで間違いないだろうな」


 残念ながらこの世界に俺たちの常識は一切通用しない。


「でも。わたし達みたいな例外だっているよ」


「確かに俺たちは例外だが、魔力に関してはどうだ?」


 優は口を閉ざした。この世界に来て以来俺たちの身体から魔力が無くなったことを今思い出したのだろう。


「この動画はどうやら学校内で出回っているらしい。質の悪い悪戯だとは思うが、この動画を見るたび妙な胸騒ぎがする。優のような新参者の相手などして貰えないとは思うが、生徒会で話題にしてくれ」


「わかった」


 俺のような元『優等生』が個人で調べるよりも元『劣等生』の優が所属する生徒会の方が広い視野でこの動画の真実に迫れるだろうという判断からこの動画の件を優に託したのだが、その翌々日に俺の考えは踏みにじられた。




「馬鹿ね」


 放課後、優不在の俺の家にやって来た冷利は俺に屈辱的な言葉を浴びせた。


「なぜ今までこの動画の事が生徒会に知られていなかったか分からないの?」


「生徒会長が優のような劣等生を生徒会役員として迎え入れるほどの無能だからじゃないのか?」


「フフッ」


 冷利はとてもにこやかに笑った。しかしその目は全く笑ってはいなかった。


「まぁ、そう怒るなよ」


「あら? 山東くん居たの」


 三人で教室を出て一緒に来たはずなのに冷利はあからさまに山東の存在を忘れていたかのような演技をした。


「こんな『ゴミ』は無視して本筋に戻すけれど、今までこの動画が生徒会に知られていなかった理由は、生徒の大半が生徒会を不審に思っているからなのよ」


「零度が知らなくても無理はないと思うぞ」


「確かに、今まで生徒会に関わることがなかった零度くんなら天風生徒会長の裏の顔を知らなくてもおかしくは無いわね」


「裏の顔?」


 そう訊き返す俺に冷利は一枚の写真を見せて来た。


「この男」


 見覚えのある男だった。


「知っているのね?」


 俺が呆気なく倒された相手だ。名前は知らない。しかし、金葉未来の彼氏だったらしいこの男は生徒会と、天風楓と繋がっていたのだろう。


「彼は楠太陽。貴方が『劣等生』となるきっかけを作った金葉先輩の恋人で何度か暴力事件を起こしているものの一度も処分を受けていないことから不審に思った新聞部が独自に捜査をしたところ、彼は天風生徒会長と繋がっていて会長権限で指導を免れているわ」


「それを知った学校の大半の生徒は生徒会を不審に思っているって訳だ」


「なるほどな」


 生徒会が嫌われている理由とあの男子生徒の名前、優の『優等生』と言うレッテルが嫌味として扱われていることはよく分かった。




 それに、この状態が何かによく似ていることも。




「冷利、新聞部というのは生徒会の手によって潰されてはいないか?」


「勉強馬鹿だと思っていたけれどよく知っていたわね」


「話の内容から考察しただけの事だ」


 本当は違う。俺の知っている零度真央の知らない過去で同じ事態が起こったことがあるからだ。


「楠太陽と言う存在だけが気になる所だが、まぁ良い。俺はこれから『優等生』のレッテルを取り返す。二人とも手伝ってくれ」


 俺しか知らない過去を繰り返さないために俺は零度真央の姿で魔王へと戻った。


更新の頻度が遅過ぎるか早過ぎるのどちらかになってしまい申し訳ありません。


今回は、少し急ぎ足な話になっています。

と言うのも、『優等生は劣等生』は当初から一年で完結させる予定でした。

なろうで執筆を始めて一月末で一年が経ちますが、その一年目の日を目処に『優等生は劣等生』の最終回を更新出来たらと思っているので今後は怒涛の展開となるかと思いますが、引き続き応援のほどをよろしくお願いします。


東堂燈

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