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物語の歯車はクライマックスへと廻り始める

 ふかふかのベットの温もり。

 朝を告げる目覚まし時計のベル。

 いつものどこく、僕の部屋に勝手に入ってくる姉。

 お母さんの作る味噌汁の匂い。

 たった一日前までの、当たり前の出来事。

 その風景を、僕は頭の中でなぞっていた。


♦♦♦♦♦


雷槌サンダーハンマー


 そんな声が聞こえた。と、思った瞬間、僕の体に強烈な痺れが襲った。

 横たわっていた体が強制的に跳ね上がる。

 髪の毛が逆立ち、目は痛いほどにパッチリと開いた。

 その開いた目に、なにやら光り輝く金槌のようなものを持ったシュラノが映る。


「にゃにゃにをしちゃ。」


 びっくりして、抗議したが舌が上手く回らない。


「やっと目を覚ましたか。

 浩介よ、何故私よりも怪我の軽いお前が、私より起きるのが遅いのだ。」


「ほへ?」


 変な声を出して思い出した。

 僕が気絶していた理由を……


「しょうひへば、はのはとほうなったんだ?

 シュラホほほほうほだってひゅうハロハほとほがひゃってきて……」


「すまん。何を言っているのかさっぱり分からん。」


 シュラノは冷たい目をしてそう言った。


♦♦♦♦♦


「あの後騒ぎを聞きつけた王族警護隊があの屋敷にやってきて、私達を助けてくれたんだ。

 ここは王族警護隊の第四詰め所という場所だ。」


 シュラノは面白くなさそうな口調でそう言った。

 落ち着いてあたりを見てみると、なるほどここはノンシュガー家のコーヒの部屋ではないようだ。

 王族警護隊の第四詰め所と言う場所は、病院のような建物だった。

 僕とシュラノが居る部屋には真っ白なシーツが掛けられたらベットが二つ置いてある。

 僕とシュラノはそれぞれのベットで横になっていたのだ。

 つまり、シュラノはベットで眠っていた僕に、先ほどの攻撃を仕掛けたという事になる。

 ……後で笑わせよう。

 僕がそう決意すると、シュラノがおもむろに口を開いた。


「聞かれる前に言っておくが、王族警護隊があの屋敷で保護したのは、私達を含め三人だけだった。」


「え?なんで?」


 やっと痺れのなくなった口で僕は訊ねた。

 だって、あの部屋には五人の人物が居たはずなのだから


「何故かは分からない。ただ、事実がそうなのだ。

 残念だが、ウーサ・ミミの姿は、あの屋敷には無かったそうだ。」


 シュラノのその言葉に、僕はさっきの言葉より大きな衝撃を受けた。


「ミミが居なかったって?コーヒじゃなくて?

 でも、ミミは動けるような状態じゃ無かったじゃないか。シュラノと一緒に倒れてたんだから。

 それに、ミミが居なかったって事は、僕らと一緒に保護されたのって……」


「ノンシュガー・コーヒだ。」


 ノンシュガー・コーヒ

 ノンシュガー家の主。本来は貴族の最長老でありながら、何者かによって幼女の姿に変えられた。ミミのご主人様。

 そして、あの戦闘の原因。


「コーヒは、今は監獄看護棟という場所で拘束されている。

 もっとも、もう暴れる力も残っていないだろうがな。

 王族警護隊が発見したときには、コーヒは石のようになって動かなかったそうだ。

 私は気になっているのだよ。私の本気でも止めることの出来なかったあのコーヒを、どうやって止めたのか。

 浩介、話してくれないか?あの後、何が起こったのか。」


♦♦♦♦♦


 僕はゆっくりとあの時の事を思い出しながらシュラノに語った。

 シュラノが倒れた後、あの部屋で起こった全てのことを。


「なるほど、浩介の恥苦笑はもうそこまで進化していたのか。」


 僕が話し終えると、シュラノは驚いた表情に成った。

 だけど、話の中心が僕とズレている。


「恥苦笑のことは、今はどうでもいい。

 それに、コーヒが固まったのが恥苦笑の力かどうかは、僕ですら分からないんだ。

 それよりも、僕が気になっているのは、ミラノについてだ。」


 そう、僕はシュラノから聞かなければならない事があった。

 ミラノ・チワーナについてだ。

 コーヒが倒れた後にやってきたアロハ男。自らをシュラノの弟と名乗っていた。


「ミラノって何者なんだ?

 本当にシュラノの弟なのか?

 だとしたら、アイツの言ってたことは……」


 僕をこの世界に喚んだのが、シュラノだとミラノは言った。

 もし、それが本当なら……本当なら……。


「すまない。」


「どうして謝るんだよ。それじゃまるで……」


 ミラノの言っていたことが本当みたいじゃないか。


「私の予測が甘かった。浩介に全てを話すのは、もっと後でいいとたかを括っていた。

 だが、アイツが動き出した今、そんな悠長なことは言えなくなってしまった。

 本当にすまない。」


「だから、何で謝るのさ!

 シュラノは何を隠しているんだよ!

 ちゃんと、話して。僕に分かるように話してくれよ。」


 ベットから立ち上がり、激昂する僕にシュラノは何度も「すまない」と頭を下げた。

 あの高慢なシュラノが、これほど何度も頭を下げるなんて、僕には信じられなかった。


「それじゃあ、やっぱり本当なんだね。

 僕がこの世界に来た理由は、君が呼び寄せたからなんだね?」


 頭をベットに擦り付けて謝るシュラノを見て、怒りの炎が小さくなるのを感じながら、僕は訊ねた。

 シュラノは、下げていた頭を半分くらい持ち上げて、小さく頷いた。


「本当にすまないと思っている。

 なんの関係もなかった浩介を、私の戦いに巻き込んでしまったこと。

 私は、浩介になら殺されても良いと思っている。

 だが、勝手な話今の私は死ぬわけにはいかないのだ。

 あの弟がこの世界を滅ぼすのを止めなければならないのだ。」


 シュラノは頭を下げたまま、顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。

 首筋の血管は青く浮き上がり、鼻息は荒い。

 その姿は、僕が今まで見た中で一番真剣なシュラノの姿だった。


「さっきも言ったよね。ちゃんと話してって。

 シュラノが抱えていること、全部教えてよ。僕に隠していたこと、全部教えてよ。

 今ここで笑い死にたくないのなら、全てを話してもらうよ。

 後のことは、それから考える。」


「浩介、私を許してくれるのか?」


「そうは言ってない。

 決めるんだよ。自分の意志で僕がどうしたいかを。」


 僕はこの世界に来てから、ずっとどうしてこうなったのかを考えていた。

 この世界にやってきたこと。恥苦笑が身についたこと。シュラノやミミそしてコーヒ……ついでにブラブラも、そんな人達に出会ったこと。

 そのすべてが、誰とも分からない僕以外の誰かの意志で決まっていた気がしていた。

 僕の意志の介入できない、すごく不公平な選択だった。


 もう、そんな事は嫌だ。


 僕の進む道は、僕で決める。

 僕のやりたいことは、僕がやる。

 僕が助けたい人は、僕が助ける。

 僕が見たい景色は、僕が見る。


 だから、僕は知りたかった。

 僕の知らない、真実を。











題名の通りです。

40話位で終わる予定です。

それまで全力で書いていくのでどうかお付き合いよろしくお願いします。

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