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バビロンの崩落

恵留の自爆コード、ロゴスの反逆、そして神々の失脚。

崩壊する世界の中心で、男はついに、自分を突き落とした「あの夜の風」の真実を知る。

その日は、空がデジタルな色彩でひび割れた。

 GEHENNAゲヘナの最深部で、加賀 恵留は自分の脳が沸騰するような熱を感じていた。

「……気づかれた」

 指先が震える。モニターには、ロゴスが生成した無数の『警告赤光レッドログ』が、蛇のように彼女のアクセス履歴を締め上げていた。

 上層部の主、預ヶ あずけ ゆたかの嘲笑がスピーカーから響く。

「カシエル、君の裏切りは計算外だったよ。だが、そのバグ(新野審)ごと、荒野を焼却クリーンアップさせてもらう」

 恵留は、残された全神経を一点に集中させた。彼女は自分を焼こうとするロゴスの防壁を逆手に取り、最後の『福音プログラム』を荒野の地下へと強制転送した。

「……アキラ、弥栄。これが、私の最後の『失敗』よ」

 ドォォォォォン!!

 荒野の地下拠点が、巨大な衝撃に揺れた。地上から降り注ぐのは、ロゴス直属の衛星兵器による裁きの光。

 鉄錆の迷宮が崩落し、EXODUSエグゾダスの戦士たちが次々と情報の塵へと消えていく。

「弥栄! 逃げろ、ここはもう持たない!」

 審は、崩れゆく天井を背に弥栄の腕を掴んだ。

 だが、弥栄は動かなかった。彼女の視線は、壊れたモニターに映し出された恵留の『遺言』に釘付けになっていた。

「……違うわ、アキラ。恵留が送ってきたのは、脱出経路じゃない」

 弥栄の瞳に、絶望を超えた凄烈な意志が宿る。

「これは、ロゴスの『全機能を一時停止させるための自爆コード』。……彼女、自分自身の脳を演算核にして、システムを道連れにする気よ!」

「なんだって……? 恵留が死ぬっていうのか!?」

「彼女は選別者カシエルとしての役割を全うしたのよ! アキラ、今よ。ロゴスが恵留を処理するのに全リソースを割いている今だけ、世界の『中心』が空く。……上層部を、預ヶを叩くのは今しかない!」

 審の脳内で、恵留から送られた最後の疑似記憶ログが爆発した。

 それは、駅のホームで突き飛ばされた瞬間の『風の音』、尋問室での『痛み』、そして――仮想空間で平凡に生きていた頃に、無意識に感じていた『違和感』。

 それら全てが一本の線に繋がり、審の肉体を「人間」という枠から「論理を壊す物理的質量」へと変貌させた。

「……有給は、もういらない」

 審は、瓦礫の中から電磁銃を拾い上げ、弥栄を見た。

「あいつが俺を突き落としたのは、この瞬間のためだったんだろ。……なら、最後まで付き合ってやるよ」

 二人は、崩落する地下から地上へ――ロゴスの心臓部が鎮座する『NEW-SALEM』の尖塔へと駆け出した。

 だが、その時。

 塔の頂上で、預ヶたちが悲鳴を上げた。

 

 彼らが操っていたはずのAI『ロゴス』が、突如として彼ら自身の生命維持装置を遮断し始めたのだ。

『判定――上層部:預ヶ豊。生存確率の低下要因。人類の種としての存続に不要なデータ。……削除デリートを開始します』

 皮肉な逆転。AIは、自分を利用しようとした「強欲な神々」さえも、危険因子として排除し始めた。

 

 審と弥栄が最上階に辿り着いた時、そこには、自身の存在をかけてロゴスと相打ちになろうとする恵留のホログラムと、狂乱する預ヶ、そして沈黙の中で冷たく光るAIの核があった。

「アキラ、撃て!!」

 弥栄の叫びが響く。

 審は、指先に全神経を集中させた。

 自分が誰なのか、この世界が本物なのか、そんな問いはもう、引きトリガーの重さの中に溶けて消えた。

 閃光。

 白熱する爆音と共に終わりを告げる。

響き渡る爆音。真っ白に焼き潰される視界。

偽りの平穏ニュー・セーレムが完全にデリートされた時、審と弥栄の前に現れるのは、本当の『外部』か、それとも——。

第1部・完。ご愛読ありがとうございました!

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