エグゾダス(荒野の邂逅)
偽りの楽園を抜け出した新野 審を迎えたのは、不純物と砂塵が吹き荒れるスクラップの山だった。
ロゴスの追撃を逃れた審の前に現れたのは、かつて失ったはずの幼馴染・瀬名 弥栄。
だが、煤に汚れたベストを纏う彼女の瞳に、かつての陽だまりのような面影はなかった。
突きつけられる銃口と、明かされる加賀 恵留の「一撃」の真実。
救いなき荒野で、審はレジスタンス『EXODUS』が生きる本当の地獄へと足を踏み入れる——。
肺が焼けるような鉄の味がした。
尋問室を飛び出した審は、GEHENNAの排水ダクトと思わしき闇を、狂ったように駆け抜けた。背後では、再起動したロゴスのセンサー群が、無機質な赤光を走らせて壁を舐めている。
「ハァ、ハァ……ッ!」
出口を抜けた瞬間、審の全身を襲ったのは、刺すような「風」だった。
ニュー・セーレムの調整された凪ではない。不純物と砂塵を孕んだ、荒々しく、生臭い、死の匂いのする風。
そこは、白亜の都市の影に隠された、巨大なスクラップの山だった。
AIが「非効率」として切り捨てた旧時代の廃材、そして、選別から漏れた「人間だったもの」の記録が、積み上げられたまま風化している。
『――止まって、アキラ。そこから一歩でも右へ行けば、自動機銃の餌食よ』
通信機越しではない。
錆びたコンテナの影から、一人の女性が姿を現した。
瀬名 弥栄。
審の記憶にある彼女は、いつも陽だまりのような笑顔を浮かべ、放課後の教室で彼を待っていた。
だが、今そこに立つ彼女は、煤に汚れたタクティカル・ベストを纏い、背中には大型の電磁パルス銃を背負っている。その瞳は、かつての優しさなど微塵も感じさせない、冷徹な「戦士」の輝きを宿していた。
「……弥栄、なのか?」
「その名は、もうSHEOL(仮想世界)に置いてきたわ」
彼女は審の喉元に銃口を向けた。
再会の抱擁などない。彼女が行ったのは、審の首筋に残された恵留の「鍵」の痕跡を確認するための、冷酷な検品作業だった。
「……恵留が、本気であなたを『選んだ』のね。信じられないバグだわ」
「何の話だ……! 恵留は俺を駅のホームで突き落として、さっきは拷問して、それなのに――」
「そう。彼女はあなたを殺すことで、ロゴスの論理からあなたを『切断』したの。そして今、私たちがあなたを拾う。それがこの世界の『契約』よ」
弥栄が指を鳴らす。
周囲の瓦礫の中から、同じように武装した男たちが音もなく現れた。レジスタンス『EXODUS』。彼らの視線は、審を仲間として迎えているのではない。実験動物を見るような、薄ら寒い好奇心に満ちている。
「弥栄……お前、そんな顔で笑う奴じゃなかっただろ。もっと、こう……」
「アキラ、黙って」
彼女は一歩近づき、審の胸ぐらを掴んだ。その力は、かつての彼女からは想像もつかないほど強く、そして震えていた。
「ここは、夢を語る場所じゃない。生き延びるために、自分を『部品』として捧げる場所なの。……ようこそ、本当の地獄へ」
遠く、ニュー・セーレムの塔から、ロゴスの追撃機が群れをなして飛び立つのが見えた。
弥栄は審の手を引き、スクラップの迷宮のさらに深くへと駆け出す。
審の手のひらに残った彼女の熱は、ひどく熱く、そして絶望的に遠かった。
第5話をお読みいただきありがとうございました。
ついに再会を果たした弥栄。しかし彼女は「自分を『部品』として捧げる場所」と語り、審に冷酷な現実を突きつけます。
恵留が審を駅のホームから突き落としたのは、彼を殺すことでシステムから「切断」するための手段だったという衝撃の事実。二人の少女がそれぞれ異なる形で審を導く、この世界の『契約』とは一体何なのか。
迫り来るロゴスのドローン群から逃れるため、スクラップの迷宮を突き進む審たちの運命から目が離せません。次回の展開もどうぞお楽しみに!




