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Echoes of the "HERICALSPIRAL"  作者: Dizzy
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【異界の閑話:それらはドグマに縛られない】

 それはただ一片の祈り。

直前に起きた理解できない攻撃は男を全て消し去ったはずだった。


――これでいいのだ


男はそうして消失してしまうことを願っていた。

数多くの命を奪い。

数多の罪を重ねた生だった。

必要だと読み解いた事は全て成してきた結果、そこには男自身が許すことの出来ない罪が積み上がっていた。


 最後の楽園を完成させた男は、その楽園にたどり着くことを己に赦さなかった。

最も苦しめた者達の手で葬られる事を望み、それを叶えたはずだった。

この男から始まった円環の端にあった、ただ一つの呪文はこの男にもまた作用する。


――決して消えることはない


そう願った呪文が円を描いたのだ。

そこに奇跡が有ったのか男のほんの一片がその地にたどりついてしまう。

かつて数多の星々を巡り楽園を求めた男は、そのうちの一つに吸い寄せられるように落ちた。

ここではないと、見限った星の一つだった。


 一片しか無い想いがふわりと地に落ちる。

吹き散らされ消えるだけの欠片が意味を持った。




 都市部を離れた砂漠の奥地に、近年あった地震によりとある遺跡が表出した。

平均高度1600mの枯れ川の谷が無数に枝分かれした奥地。

そこに現れた地層は太古のもの。

たびたび不思議な遺構が見つかり、謎めいた時代の遺跡だった。


 その新しい遺跡に調査隊が送られる。

実績のある考古学の教授に率いられていた。

代表でもある教授は思索にふけりつつ、全体を眺めている。

(周りの地層は数億年前と思われるのに……こういった遺跡では新品同様の機械が見つかる……どういった技術なのだ)

この時代の遺構からは、現代でも解明できない技術を持って作られ、規格化された工業製品が発掘される。

場合によっては作動させることが出来るものすら見つかるのだ。

(機械そのものも謎だが……この建物……何故腐食も損壊もしない……地層にはかなりの風化が見えるのに)

調べるほどに謎の増えていく遺跡群だった。


 国立大の専門家を複数含む調査メンバーには、年若い学生の作業員も含まれている。

この時代の遺跡に多く見られる、謎の物質で出来た家具は腐食せず形を残している事が多い。

特にこうした砂漠で見つかるものは、程度の良いものが多く資料として価値が高かった。

「教授?!このデバイス生きていますよ?!」

若い作業服の男が薄暗い谷の底で声を上げた。

陰々と響くのは静寂を破る不作法への抗議の声か。

地下2000mの谷底で見つかったそのデバイスには、この世界には無いはずの因子が迷い込んでいた。


―― nekad nepazudīs


若者は太古のデバイスに浮かんだ文字列に興味を持った。

彼等の言語ではないが、この遺跡に多く見られるものと見えた。

「なんて書いてあるのかな?」

若者のもつ自前のデバイスには画像から文字列を拾い、言語モジュールで推論まで含めた翻訳をするツールを仕込んであった。

参照するのはまだまだ研究中だが、この遺跡時代の言語データだ。


「まて?!そのまま触るでないぞ!」

老いてなお気迫のこもる声は、浅慮を止めた。


――ピピッ


若者が向けた記録装置から霊子(ノエマ)波が浴びせられる。

写真を撮っておこうと、通常の常識に従っただけだった。

「このタワケが!!」

ごちっと子どものように怒られ不満そうにする若い作業員。

「な、なんです教授?!記録を取っただけですよ?」

不満そうにする若者に構わず、教授と呼ばれた老人は地面にあった小さなマルチデバイスを観察した。

この遺跡ではそれほど珍しいものではない。

この時代の地下遺跡には、よく見るタイプのデバイスだ。

手のひらに収まる程度の板と見えて、一面が情報表示部にして入力デバイスになるもの。

過去の文明では普及していたものだろう。

「このタイプのデバイスは霊子波に反応するものもあるのだ‥‥その記録装置は霊子波を放つものであろう?本来こういった遺跡には使ってはならんのだ‥‥」

若者は始めての発掘作業中に見つけた遺物を、自分の個人的な機器で記録したかったのだ。

「この時代の遺跡はまだまだ未知の遺構が多いのだ‥‥あらゆる霊子機器にリンクしているという説まであるのだぞ?」

苦々しい声とともに大型の記録装置を持ち出す老人。


カシィ‥‥


メカニカルなシャッター音を響かせる教授の記録装置が、かすかに文字をうかべる遺物に向けられる。

それは光学的記録に特化した、特別な記録装置だ。

その細やかな気遣いは、ほんの少しだけ遅かったのだ。

静かに気付かれること無く。

変化は染み入っていた。

この3日後に、砂漠は魔境に姿を変えたのだった。



 爆発的に世界へ波及した霊子異常の爆発事故は、後にその事件によって世に起こった変化を示し、その遺跡は「カンブリアン・ルイン」と呼ばれるようになった。

谷底の遺跡として調査を進めていた遺跡から、過去の遺物たちが産声を上げたのだ。

現代では失われたナノマシンと言われる過去の技術により、あらゆる生物と機械に影響を与えた霊子的変化のアウトブレイク。

そうしてこの星は再(・)び(・)滅びたのだった。

 





※この最後の閑話は【ヘリカルスパイラル】ではなく、【グルーピーシンキング】へ引き継がれた想いの一片です。

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