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自由の代償と束縛 5

その夜私が寝入っていると急にバタバタと足音が聞こえ始める。正確な時間はわからないが、早朝と言うにはあまりに早過ぎるため、きっと深夜12時を回ったのだろうと推測する。階段を降りてきたのは完全武装したケンタウロス族の戦士たちおよそ10名程度だ。きっと、約束の10日だからという理由で私が12時を回った瞬間に動き出す可能性を考慮したのだろう。


「警告です。これよりあなたに対して24時間の監視体制を敷かせて頂きます。牢獄の外に一歩でも出た場合は攻撃対象となり、あなたを排除する許可が降りています。どうか、大人しくしていてください。」


隊長と思われる青年が話しかけてくる。


「あのさ、気合い入れるのはいいけど、こんな真夜中に人のこと叩き起こさなくたっていいと思いませんか? それに24時間体制って言ったって、そんな大人数で俺一人を閉じ込めるために監視してたら、そっちだって労力が掛かりすぎでしょ? どうせ朝まで動く気はないから、監視しないって訳にはいかないだろうけど、少し人数減らして静かにしてもらってていいですか?」


顔を見合わせる兵士たち。


「そう言うわけにはいきません。人数を減らしてあなたに脱走でもされたら、それこそ私たちの立場がありません。あなたが本当に朝まで動く気がなくても、ここで監視させていただきます。」


「そう? じゃあ、せめて静かにしてて。それから確認だけど、牢屋から一歩でも出なければ攻撃はしてこないんですね?」


寝てていきなり矢が飛んでくる可能性があるなら流石におちおち寝てられない。


「ええ、お約束します。私たちケンタウロス族は約束は違えません。」


何だか私たちと出会う前のファウナを見ているようだ。元来ケンタウロス族は物凄く真面目なんだろう。まぁ、そうでなければ大昔の約束を今でも従順に守ろうとはしていないだろうが・・・。


「助かる。じゃあ、おやすみなさい。」


疑惑の目はまだ向けられたままだが私はそんなプレッシャーに負けずに眠りに落ちる。


Zzzzzzzzzzzz。


朝起きると、今度はうんざりしたような視線が刺さっていた。まるで、『よくこの状態で寝ることが出来るな?』と、言っているようだ。


「おはようございます。さて、早速だけど質問させてください。」


場の空気が張りつめる。


「朝ごはんって、今日も出ます?」


『何言ってるんだこいつ?』の視線が痛い。しかし、これは私にとっては死活問題だ。何せ、今日の昼ぐらいまではエリート生活を続けられるかが掛かっている。


「私たちの見立てでは早朝にゼロ殿が行動を起こすと読んでいたので、たぶんお食事はないでしょう。」


「そうですか。」


真面目なのは良いことだが、見立てとかを敵にばらしちゃ駄目だろう。もしくはそれ自体ブラフかばらしてもいいと思えるぐらいの策があるか・・・。


「では、見張りの交代の時間は何時ですか?」


「流石にそれは教えかねます。」


まぁ、そんなに欲張っちゃダメだよね。とりあえず『教えない』ってことは見張りが交代制なのは間違いない。そして、それはそう遠くないはずだ。何せ、ここを照らしている灯りが少しその力を失い始めているからだ。地下の牢獄は壁を破られたり天井を壊されたりする心配がない代わりに、見張りを含め灯りを絶やさないようにしないといけないという欠点がある。


と、言うことで、そろそろかな?


「えっと、トイレ行くんで、監視もほどほどにお願いします。」


私は部屋の片隅にあるトイレに移動し、素早く用事を済ます。


「痛っ。」


バランスを崩し、トイレのところにあった灯りにぶつかり、灯りの『核』を便器に落としてしまう。


「あ~あ。すみません、トイレの灯りを落としてしまったので、新しい『核』を頂けますか?」


「私たちの『核』も余裕がありません。新しい見張りが来るときに、受け取ってください。」


「わかりました。」


私の牢屋を照らしているのは、後は寝床の上にある『核』のみだ。


「じゃあ、そう言うことで・・・もう一眠りします。」


狐につままれたような顔をした兵士たちだったが、すぐに気を引きしめなおす。きっと、精鋭部隊なのだろう。いい覚悟だ。


「そうそう、一つだけ確認だけど、本当にこの牢屋を一歩でも出ない限り攻撃はしないんだよね? それ以外の攻撃は約束を違えることだよね?」


「はい、その通りです。」


「じゃあ、こういうことしてもいいわけだよね?」


そう言って私は牢屋の柵を蹴って壊してみせた。何人かの兵士が慌てて弓を引く。


「あれ? まだ一歩も出てませんが、攻撃対象ですか?」


隊長は困った顔をして、


「いいえ、違いますが・・・。」


「ですよね。ではおやすみなさい。」


再び寝床に戻り、目を閉じる私。数分後、カツンカツンと音がしてきた。新しい見張りが来たのだろう。


その一瞬を待っていた。私という『驚異』を見張るということは精神力をかなり削るはず。自分の任務がもう少しで終わりだと思えば、どんな精鋭でも一瞬、気は緩む。新しい見張りも、私の姿を見るまでは、警戒心を最大にはしていないはずだ。


私は兵士に気づかれないように片目を薄く開け、灯りの位置を確認する。上から来る足音が大きくなる。


ガバっ。


私は勢いよく起き上がり灯りの『核』を手にし、それを地上への入り口の方向へ投げつける。これで、兵士の方からは私の姿は全く見えない。私は暗闇でもよく見えるように閉じておいた両目を開ける。


「構わん、射て!!」


隊長の声が響き渡る。


嘘つきとは言うまい。彼も約束よりも任務を優先した結果だろう。


しかし、矢が放たれる頃には私は牢屋を出てく、灯りを持っている兵士に突撃していた。全ての『核』を一瞬で回収し、それを牢屋の中に投げつける、破壊された核はその光を失い、暗闇が辺りを支配する。しかし、暗闇に慣らした私の目は、騒動の音を聞き上から慌てて降りてくる交代の兵士たちの灯りをとらえる。


「来るな!!」


隊長が叫んだときには時すでに遅し、私は上の兵士の灯り目掛けて飛びかかり、ひとつ以外の灯りを破壊する。


残りひとつはもちろん私の手にある。不意をつかれた兵士たちは下の兵と違い、弓を射ることすら出来ずに私を見失ってしまう。


私はそのまま地上に出る。が、私は立ち止まらない。何故ならその後の展開が予想できるからだ。


予想通り、矢の雨が私が地上に出た出口に降り注ぐ。そのうちの何本かは私を追ってくる。私はファウナとの戦いで一定距離を過ぎれば誘導能力が切れるのを知っているので追ってくる矢を無視して目的地へと突っ切る。


『目的地』


昨日までは何処を目指せばいいのかわからなかったが、ファーネスとの会話ではっきりした。


『宮殿』である。ファーネスが散りばめたヒントに嘘がないなら、ファウナは間違いなくそこにいる。

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