人魚の里と赤い悪魔 12
暖かいものに包まれている気がする。
「ゼルダよ。ゼルダよ。」
遠くで誰かが私を呼んでいる。
「ゼルダよ。志半ばで命を落としてしまったお前にもう一度チャンスを与えよう。」
え、何、このデジャブ感。
確か湖に潜って、大蛇と戦って、毒を受けて・・・あれ?
どうやらここは神様の神殿らしい。って、あれ、このパターン前にもなかった?
「今度こそ男の夢ハーレムを完成させるのじゃ。」
ああ結局ハーレムを完成させる前に死んでしまったのか・・・。そう思っていると目の前の景色が変わる。
そこには裸の弥生、サラサ、ファウナ、しのぶ、アリスタがいる。
あれ? 俺ってハーレムすでに完成させてるんじゃない?
「ゼロ様。」
「ゼロ。」
「ご主人様。」
「御館様。」
「ゼロちゃん。」
裸の美女たちに抱きしめられる。え、ちょっと、え、なにこれ夢?
突然、全員の顔がロキの顔に変わる。
いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
ちょっとなにこの夢!?
神様助けて、ヘルプ・ミイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!
と、そこで目が覚める。どうやらお約束の夢オチらしい。
目を開けるとそこにはテントの天井が見える。どうやら死んではいないようだ。しかし、体を動かそうとしても力が入らない。弥生は『術』を使っていないのか、はたまた手遅れなのか、体は回復していないようだ。
何とか回りを見渡すが、どうやら近くには誰もいないようだ。
『大蛇』は間違いなく葬ったはずだし、テントの中に寝かされているところを見ると、どうやら騒動は収拾したはずだ。ただ、回りは静寂に包まれている。仲間は無事だろうか? まさか弥生の身に何かあって治療が出来ていないということはないだろうか? サラサは? ファウナは? しのぶは? ルークは? くそっ、情報が欲しい。
あれから何日たったのだろう? テントの天井に当たる光の量を見る限り、どうやら昼のようだがこの静けさは一体どういうことだろう? 考えれば考えるほど不安が襲ってくる。
このままじっとしていられない。私は意を決して動かない体を無理矢理引きずって、テントの外に這い出る。
湖は何事もなかったかのように静まり返っているが、やはり人魚族の姿はどこにもない。私が『大蛇』を倒したのは夢だったのだろうか? 焦りと絶望が襲ってくる。
「ゼロ様、何をしてるんですか!?」
驚いた弥生の声が聞こえる。
「ゼロ、動いちゃダメだよ、毒が体に残ってるんだから。」
「ど・く? じゃ・あ・ゆ・め・じゃ・な・か・っ・た・ん・だ・な? 『だ・い・じゃ』は・た・お・せ・た・ん・だ・な?」
体の自由が聞かないため上手くしゃべれないが言いたいことは伝わったはずだ。
「はい、ご主人様の活躍により『大蛇』は駆逐されました。」
「そ・う・か・よ・か・っ・た。に・ん・ぎょ・ぞ・く・の・ひ・と・た・ち・は?」
「現在、葬儀を執り行って喪に服しております、御館様。」
「な・ん・に・ん・・・。」
『何人亡くなった?』そう聞こうとして、そこでまた私は意識を失った。
次に目を覚ましたとき、隣にはルークが寝ていた。どうやら仲間は全員無事らしい。沢山人が死んだなか不謹慎だが正直ホットした。
どうやら今は夜中のようで、テントは暗闇に包まれている。
「お目覚めになられましたか?」
弥生が優しく尋ねてくる。
「あ・あ。」
「ゼロ様、無理に喋らないでください。まだ毒が体に残っています。どうやらわたくしの『回復の術』も『毒』には効果がないようで、お治しする事が出来ませんでした。申し訳ありません。」
弥生の目から涙がこぼれる。
「き・に・す・る・な。」
そう言って、頭をポンポンsする。
「気にはします。私だけじゃなく、サラサもファウナもしのぶもルークも、この3日間、どんな思いで過ごしたと思ってるんですか!!ゼロ様はもう少しご自分のお体を大切にする戦い方を覚えてくださいませ。」
ああ、あれから3日間経ったんだな。『体を大切にする戦い方』、魔王と戦った時すらこんな風に死にかけたりしなかったんだけど、どうやら『攻める』戦いと『守る』戦いは勝手が違うらしい。
「な・ん・に・ん・し・ん・だ?」
起きてからずっと気になっていた質問をする。弥生は躊躇いながらもその数を口にする。
「およそ300人でございます。」
「そ・う・か。」
300人。決して少ない数字ではないだろう。何より悔やまれるのがその中に戦士ではない人々、特に子どもが混ざっていることだ。
「さぁ、ゼロ様、今はお薬をお飲みになってお休みになってくださいませ。アリスタが用意してくれた薬です。」
そう言うと弥生は真っ赤な液体を取り出した。見るからに気持ち悪い。薬どころか毒に近い気がする。そもそも薬って、毒の種類も解析できていないのにどうやって解毒剤を作ったのだろう? そう言えばアリスタが『内緒の力』で毒はなんとか出来るって言ってたけど、それはこの『力』と関係があるのだろうか?
「さ、早くお飲みになってくださいませ。」
私は覚悟を決めて一気に飲み込む。見た目とは違いまろやかな甘味を感じる美味しい飲み物だった。飲んだ後は体がポカポカし出し、少し楽になるのを感じる。『薬』というのはどうやら本当のようだ。私はそのまま再び眠りに落ちていった。
その後数日間は薬を飲んで寝ての繰り返しだった。起きている時に聞いた話では私を結界の中から救いだしてくれたのはファウナで、矢を水中で操り私の腕に刺して水面まで運んでくれたらしい。その時すでに私は虫の息だったらしく弥生が『術』を使用したが腕の傷以外にはあまり効果がなかったらしい。その様子を見たアリスタが例の『内緒の力』で私の体に回っていた毒の効果を薄めてくれたお陰で一命をとりとめたらしい。これでこの短期間にアリスタには2度命を救われた事となった。
今では普通に話せて歩けるまで回復した私は仲間からこっぴどく怒られた。まぁ、怒られたとは言ってもみんな泣きながら怒るものだから怒られているのか怒っているのかわからない変な状況が生まれたのだが・・・。
大切な人が命を投げ出して『何かを救おうとする』事が起きたら、その行為が如何に素晴らしく正義感に溢れた行動でも私も怒るだろう。だって、その『何か』より『その人』の方が大切なんだから・・・。と。言っても今回の私の行動は正義感とかではなく、『自分に笑顔をくれたみんなが死ぬのが嫌だ』っていう自己満足的な気持ちではあったんだけど・・・。
事件を思い出し、気持ちが沈んでいく。
結局大勢が死んでしまった。
私がロキの作戦を見誤ったばかりに・・・。
私が近隣への被害を気にしたばかりに・・・。
私が弱かったばかりに・・・。
300人の笑顔はもう帰ってこない。
後悔と自責の念が頭の中をぐるぐるしておかしくなりそうだ。
あれから1週間が経った。あれから私はまだ人魚族の人たちと顔を会わせていない。みんな水中で喪に服しているからだという。
私は彼らに会わせる顔がない。正直会うのが怖い。どんなに謝ろうが許して貰えないんじゃないかと思うと怖くてたまらない。たとえ、許してくれたとしても亡くなったか人達は戻らない。
『ああ、私はどうして生き延びてしまったのだろう?』
そう思いながら、今日も私は眠りに落ちていくのであった。




