人魚の里と赤い悪魔 11
私の位置からは水中の戦いが見えなかった為、私は丘に登ることにした。今のところ負傷者や死者は出ていないが、状況は極めて厳しい。こちらからは攻撃できない相手が襲ってくる場合、攻撃は避けるかいなすかしかない。人魚の泳ぐスピードの速さと結界の局所的な使い方で上手いことやってはいるが、結局倒す方法がない限りいずれ体力が切れて捕まってしまうだろう。
倒す方法がないとは言っているが、本当はないことはない。海に流れ出る下流に『赤潮』と同じように流してしまえばいいのだ。しかし、それは海を汚染するという結果を招くもので、近隣の里などで魚や貝や海藻を食べる習慣がある場合は甚大な被害をもたらすことになるだろう。近隣だけでなく、食物連鎖などによりどこまで被害が拡大するかわからない危険性を含む。人魚族の里を救うためとは言え、極力それは避けたいというのが本音だ。
「ゼロ。アリスタから伝言で、毒を広範囲に広がる前なら『内緒の力』で浄化出来るから、もし可能ならぶっ飛ばしちゃってってさ。」
サラサが丘を駆け登ってきてメッセージを伝える。それが本当なら有り難いことこの上ないが、それならばなぜ人魚族の戦士たちは攻撃しないで逃げることしかしていないのであろうか? しかも内緒の力って言っちゃ駄目なやつなんじゃないの?
「サラサ、それって、戦士の人たちには伝わっているのか?」
「うん、今さっき伝えたみたいだよ。」
それならばなぜ最初からその作戦をたてなかったのだろうか? 疑問が頭の中を駆け巡るが、その事を考えるのは後回しだ。私は水中の戦いを目を凝らして見る。
なるほど、確かに戦い方が変わり、攻撃を仕掛けるようになったようだ。しかし、大蛇の鱗が硬すぎるようで全く傷を追わせることが出来ない。
体力の限界が近づいてきた為か攻撃に転じた為か、一人、また一人と大蛇の毒牙にかかるものが出てくる。
くそっ、何か手立てはないか? 一生懸命頭を回転させる。せめて地上戦に持ち込めれば・・・。
ん? あった。この方法なら、間違いなく奴を倒せる!!
私は丘を駆け降り近くにいた兵士に作戦を伝える。
「わかしました。直ちに皆に伝えます。」
そう言って、兵士が湖に潜って数分。私の足元には結界で出来た足場が完成した。後はこの道を辿って大蛇の近くまで行き、水流の『術』で空中に打ち上げられる『大蛇』を一刀両断にするだけだ。チャンスは一度きり。一刀を外せば湖に落ちた私は『大蛇』の餌食になってしまうだろう。
戦闘が行われているであろう地点のほぼ真上まで来た私はその時の為に精神を集中する。
1分が経ち、2分が経つ。大蛇はまだ打ち上げられない。そのスピードの為か泳ぐ力の所為か予定通りにはいかないようだ。その間にも湖には戦士の死体が浮き上がってくる。
3分、4分、5分。まだ、大蛇は上がってこない。その時、
「蛇が避難所の結界を攻撃し始めたぞ。みんな結界を守れ!!」
と、言う、とんでもない声が聞こえてきた。どうやら作戦は何も意味をなさなかったようだ。
私も無我夢中で湖に飛び込む。
結界の前に私が着いたときにはすでに回りは戦士の血の海で、結界に亀裂が入っていた。私も戦士たちと一緒にその前に立ちはだかる。迫り来る大蛇に剣を振るうが、水の中ではやはり鱗を切り裂くほどの力が出せない。逆に『大蛇』の体当たりで結界に打ち付けられてしまう。その衝撃で口から空気が漏れてしまう。『大蛇』は私には目もくれず結界の破壊に集中している。再び私は大蛇の前に立ちはだかるが結果は同じだった。ただ、ひとつ違ったことは結界が破壊されてしまったということだ。
バリンっ
結界が崩壊すると共に大蛇の蹂躙が始まる。逃げ惑う人魚族の人々。必死に攻撃する戦士たち。私も『大蛇』を追いかけるが、追い付くことが出来ない。
息が苦しい。一度地上に出て息を吸わねば・・・。
そう思った瞬間。私は『大蛇』の攻撃を受け湖底に叩きつけられてしまう。空気が口から漏れ、頭がボーッとし始め体の力が抜ける。
段々目を開けていることもできなくなり、私は湖底に沈んだ。
『このままここで死ぬなら、せめてあの『大蛇』だけでも道連れにして、私に笑顔をくれた人魚族の人たちだけでも救いたかった。』
そう思った瞬間、私の中に力が戻った。苦しくない? 何故か水中でも息が出きる。 目を開けるとそこには私を抱きしめキスをしていたアリスタがいた。
「詳しい説明はあとでします。お願いです、あの化け物を倒してください。」
私はその言葉を聞くと、お礼すら言わずに『大蛇』を探す。体が軽い。まるで地上にいるときのように力が溢れる。『魚になった気分』とでも言えばいいのか、今の私は確実に『大蛇』より速い。
視界に敵を捉える。
私は大きな声で周りの戦士たちに命令する。
「私が『大蛇』を斬ったら、私ごと結界で閉じ込めろ‼」
反論は一切させない強い口調と意思を込めた言葉にみんな頷く。
『大蛇』は本能的に危険が迫っているの気付いて逃走を計るが、私の刃がそれを許さない。その瞬間、結界が私たちを包み込む。手負いの『大蛇』が結界を壊して毒を撒き散らすのを防ぐため、『大蛇』を何回も何回も斬り付け続ける。結果、私は毒に冒され意識を再び失うこととなった。
薄れゆく意識の中で私は思う。
『最後にみんなを守れてよかった・・・。』と。




