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人魚の里と赤い悪魔 2

「では、申し訳ございませが私の話を聞いてください。」


ジュゴンは相変わらず丁寧な姿勢を崩さない。これは駆け引きでなく純粋な救援要請であったのかも知れない。


「実は人魚族の里は今『赤い悪魔』に襲われて混乱の最中にあります。」


「『赤い悪魔』ですか?」


レスターが尋ねる。


「ええ、奴等は今までも度々我が里に不意に現れては私たちの食料である魚を大量に虐殺して去っていくということを繰り返していたのですが、今回はいよいよ我が国民にも被害が出てしまいまして・・・。」


「ご冥福をお祈りします。それで『赤い悪魔』とは名前から察するに魔族の様ですが、一体どのようなやつなのでしょうか?」


「地上の皆様に分かりやすい言葉で述べさせていただくと『霧』みたいな奴でして、こちらからの一切の攻撃を受け付けません。それだけでなく大きさや形がその時々で違い、水流を使って体を攻撃すると水と一緒に姿を変え、時には体を分断することに成功するのですが、それでも死ぬ気配がありません。その様な状況なので『魔族』と特定することも他の種族であると特定出来ません。敢えて言うなら『赤い悪魔』が単一の種族である可能性すらあります。」


話を聞く限り妖怪や化け物に近い感じだが、『巫女』を擁するこの不思議な世界ではそう言った不思議の世界の住人たちも存在するのだろうか? ただ、ひとつだけ気になる点がある。


「ジュゴンさん。口を挟ませて頂いて申し訳ないんだが、その『赤い悪魔』が国民を攻撃したと仰っていたが、こちらからの攻撃は当たらないのに。向こうからの攻撃は当たるのですか?」


「それがよくはわからないのです。私たちは幼い頃から先人に『赤い悪魔』と戦うときでも近づいてはいけないと教えられて育ってきました。しかし今回は命を命を落とした者たちは『赤い悪魔』に触れられてしまったのです。一人は里の若者で、『赤い悪魔』を排除すると宣言し、周りの制止を振り切り単身で近接戦闘に赴いた者。残りの2名は『赤い悪魔』に飲み込まれ、意識を失ってしまっていた若者を助けに向かった勇敢な戦士たちです。」


「触るだけで命を奪う能力、もしくは『術』を使う可能性があるということですか?」


「可能性ということなら、あります。しかし、少なくともここ100年は近接戦闘を避け、遠距離からの『術』もしくは武器の投擲で戦っていたため、実際のところ奴がどの様な手段で我々に危害を加えているかわからないのです。特に私が生まれてからここ50年は『赤い悪魔』が現れるとまず私と同じような『水陸変化型』の術が使えるものはすぐに地上に移って様子を見、その他の国民は出来るだけ赤い悪魔から距離をとって水の結界を張り奴の侵入を防ぐという対応をとってきたので『赤い悪魔』に挑むと言う選択肢を選んだこと自体が異例なことだったのです。」


「失礼な質問になってしまいますが、もし、それで被害が抑えられるなら、これからも手を出さない方法と言う解決策もあるような気がするのですが、それでは問題の解決にはならないのでしょうか?」


「まさにそこが問題でして・・・。実はその事件のあと、『赤い悪魔』が現れる頻度が急激に増えたのです。今までは1年に1度、多いときでも2度だったのですが、今回はすでに5度現れています。ここまで頻度が高くなってしまうと食料の確保などの問題が出てきてしまって・・・。攻撃されたことに怒ったと言う見方多数ですが、長老様や巫女様はこの意見に懐疑的で、他の考えがお有りの様です。」


単純に考えるなら、攻撃に怒ったと考えるのが筋かもしれないが、なぜ、そのまま里ではなく魚を攻撃のターゲットにするのだろう? そしてなぜ攻撃し続けずに一旦退いて、また現れる必要があるのだろう? 活動制限時間でもあるのかもしれないが、何かが引っ掛かる。


「そうですか。私も気になるところはありますが、やはり推測の行きを出ませんので、一度、実物を見に行かないと駄目なようですね。」


「おお、ゼロ殿。では?」


「ええ、人魚族の里にお邪魔させていただきます。」


レスターは満足そうに頷いているが、この感じだとジュゴンに嵌められて一仕事することになってもやるのは私だから関係ないとか思っていたっぽい。つまり、私がジュゴンとレスターに嵌められた形になってしまったのかもしれない。まぁ、それでも本物の人魚に会えるなら、問題の解決に尽力してもいいと思えるから不思議だ。やはりファンタジー世界に人魚は必要だ。そして目の前の二足歩行のおっさんを私は絶対に人魚と認めない!!


「では、ゼロ殿、お願いできますか?」


いけしゃあしゃあとレスターが尋ねてくる。


「よろしくお願いします。ゼロ殿。いくら『赤い悪魔』でも巨人族の里を数人で滅ぼした巨人キラー一行の皆様には敵いますまい。」


「いやいや、ジュゴンさん。巨人族が滅んだのはあくまで内戦だから!! その、勝手な勘違いを事実として広めるような発言はやめてください。」


「失礼しました。あくまで滅んだのは内戦ですね。以後肝に命じておきます。」


こいつ絶対信じてない。はぁ、こうやって事実ではない事柄が真実として広まっていくんだろうなぁ・・・。


「じゃあ、そう言うことでどうせすぐに向かうんだろうから、準備して来ますよ。」


半ばやけくそ気味だが、『準備』だけは欠かせない。一礼し、その場を退席すると一目散に私は食堂に向かう。豪華な寝床が無理ならせめて食事だけでも楽しんでいかないと割りに合わない。


美味しい食事を堪能し、お腹が一杯になったところで私たちは人魚族の里へ向かうこととなった。メンバーはジュゴンを道案内とし、私、弥生、サラサ、しのぶ、ルーク、それと・・・えっとあと一人、あれ、ヤバい、最近名前呼んでないからど忘れしてしまった。


「ハウっ。何故かご主人様の愛を強く感じる!!」


そう、このテレパシー能力付き変態ケンタウロスだ。


このメンバーで人魚族の里に向かう。川を下るかと思いきや、意外に陸路で向かうこととなった。森のなかを人魚・・・いや、認めてはいないけど、人魚と言い張るおっさんと、進むのはなんだか違和感が強い。まず、走ること出来る人魚なんて聞いたことがない。勿論、地球に人魚はいないのであくまで勝手に人間が作り上げたイメージだけどここまで違うともう彼を人魚として認めることは出来ない。絶対に想像通りの人魚を見つけてやる!!


竜人族の里を出て数日後、私たちは無事に人魚族の里に辿り着いた。

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