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それぞれの思惑 4

前回の投稿で100,000字に到達できました。

ここまでこの話を読むために時間を使ってくださった皆さんに心から感謝を。

本当にありがとうございます。

引き続き読んで頂けると幸いです。

「それでは第三試合を始めます、巨人族の拳『トール』vsオーク族の特攻隊長『ムサ』前へ。」


両者が並び立つと、ざわめきが起こる。ムサの身長は多分2メートルを越えている屈強な戦士だ。ただ、そのムサがまるで子どもにしか見えないこの体格の差は絶望感すら漂わせる。ボクシングに階級があるのは条件の平等性を維持し、選手の安全性を守るためである。つまり、同じプロでも階級が違うだけでパンチの威力が段違いだということだ。もちろんそれは地球での話で、ここでは『術』がその差を埋めるかもしれない。とりあえず、私が次の試合で勝ったなら、この試合の勝者と戦うわけだから、きちんと攻略法を考えながら戦いを観察すべきであろう。


「では、試合始め。」


トールが開始位置から動かずにムサを蹴りあげにかかる。ムサはそれを待っていたかの様に横にスライドすると、トールの足目掛けてこん棒を叩きつけた。


しかし、トールはダメージを全く受けた様子はなく、逆にムサは唯一の武器であるこん棒を離してしまった。ムサは信じられないという表情を浮かべて自分の手を見つめている。あの様子では手の骨が砕けたか、最低でも痺れて武器をつかめないと言ったところだろう。今度は逆の足で蹴りあげにくるトール。ムサは間一髪のところでそれを避けるが、恐怖が心を支配し始めているのが顔に顕著に出ている。一撃毎に鈍くなる動き、一発でも攻撃を食らったら終わりという恐怖心と打開策を見出だせない焦りが体のキレを奪う。玉砕覚悟の一撃にかけるか、素直に降参するかしか、道は残っていないように思える。


観客席を一度見たムサは覚悟を決めたようだ。きっと、そこにはオーク族の王族でも見に来ていたのだろう。逃げることも出来ず、打ち倒すことも出来そうにない場合、『戦士』に残された道はただ一つ。全身全霊の一撃を敵に叩き込むことのみ。邪念が消えたムサは右腕に力を溜める。腕の太さが2倍に膨れ上がる。


お構いなしにトールが蹴りあげてくる。


「うおおおおおおおおおおお。」


ムサが雄叫びをあげる。自分の恐怖を打ち消すためか、自分の勇姿を同士に示す為か。


トールの蹴りをかわし、そのままトールの顔を目掛けてジャンプ一番、渾身の右ストレートを撃ち込む。


「ドゴンッ!!」物凄い音と共に土煙が舞い上がる。


暫くの沈黙。


土煙が収まったとき姿を現したのは無傷のトールと地面に叩きつけられたムサの無惨な姿だった。ムサの奮い立たせた勇気も勝ちへの執念も一切合切をトールは文字通り叩き潰したのだった。


「勝者、トール。」


まばらな拍手が彼の強さを物語る。このまま勝ち進めば、決勝はレイスとトールになる。果たしてそのときレイスに打つ手はあるのかと観客は危惧しているのだろう。


大丈夫、私がいます。


心の中で呟き、私も試合に赴く。


「第四試合、ケンタウロス族の黒騎手『ファウナ』vs最悪のスケベ野郎『ゼロ』。両者前へ。」


もう好きに呼んでくれ。私はコロッセオの中央でファウナとにらみ合う。


「では、試合始め。」


開始と同時に距離を取るファウナ。武器は弓矢だが、矢の先は布でカバーした殺傷能力の低い使用になっている。ただ油断はしない。矢を術でコーティングして撃ち込んでくるとか十分ありうる話だ。


挨拶代わりだと言わんばかりに、一射目を撃ち込んでくるファウナ。しかし、全く検討違いの方に撃ち込んだ。


「それは私からのプレゼントですよ。スケベ野郎!!」


え、なにこのムカつくキャラ!!いきなり喧嘩腰でプレゼント?意味わからん。と、思った時、矢が方向転換して私に向かってきた。私は間一髪のところでそれを避けたが、超ビックリした。


「私の術は自動追尾式の攻撃です。最大で操作可能な矢の数は10本。効果範囲は大体このコロッセオの闘技場ぐらいです。操作持続時間は1本につき10分。」


「ほぉ、それは良いことを聞いた。いいのか、そんなネタバラシを先にしちゃって。最初の一撃だって俺に向けて打ってその自動追尾のことを知らなければ食らってたかも知れないぜ。」


クールに返すが内心は心臓ばくばくだった。


「私は正々堂々と戦うことに誇りを持っているんだ。それに心配なんてしなくていい。私が矢を5本同時に放って、敵を討ち漏らしたことは一度もないんだから。」


ファウナはそこから4連続で色々な方向に向かって矢を撃ち込む。なるほど、様々な角度に打つことによって予測しづらい軌道で私をい抜くつもりらしい。正直良い戦術と良い術の組み合わせだが、キャラがムカつくので絶対に口に出しては言ってやらない。むしろギャフンと言わせてから勝ってやる。


とりあえず、いつまでも避けてても意味がないので、お約束その1、壁にさして矢を止める作戦を決行する。まずは、壁際まで後退し、ギリギリのタイミングで避ける!! よし、予定通り壁にささって・・・あれ、突き抜けて私に向かってきた。


「げっ。」


思わず本気のビックリした声が出てしまった。観客はそれを聞いて大盛り上がりだ。コラコラ誰のお陰で巫女様が助かったと思っているんだ?


「ほら、観客は君の負けるところを見たがっているようだよ。」


「うっさい、ボケ。恩知らずの声援なんていらないわ。」


「おやおや、恩知らずなんて口が悪い。彼らは君に恩義をきちんと感じているだろう。しかし、竜人族の巫女様をタブらかし、その体に飽きると風俗で女を漁り、挙げ句の果てにそれを巫女様に咎められると大暴れして店を半壊させた英雄など、誰が望むものか!! 人を非難する前に自分の行いを恥じるんだな!!」


誤解だああああああああああああああああああああああ。


なんか、話に尾ひれはひれがついてますがな、それっ!!


「ちょっ、それ、誰から聞いたの?」


「誰からも何も、里のみんなが言っておったわ。」


「ああ、だから最悪のスケベ野郎ね。納得。いやいや納得してる場合じゃないから。それ、全くのデマだから。」


「何がデマなものか。巫女様が君に夢中なことも、風俗に言ったことも、店を半壊させたことも事実だろう。」


あれ? そう言われるとデマゃない気もしてきた。


「ああ、もう段々面倒くさくなってきた。短気は損気って言うけど、戦いに勝ってから観客にもきちんと説明してやる。とりあえず、お前も俺に負けたらきちんと言うことを聞け!! いいな!!」


「この最悪スケベ野郎がああああああああ!!」


何故か今まで以上に怒りを振り撒き5本の矢を追加するファウナ。計10本、なかなか大迫力の攻撃だ。


ん~、ならばお約束その2、敵の後ろに回り込み、敵の攻撃で自爆させる攻撃。私は再び壁際に移動すると全ての矢が向かって来たのを確認してからファウナの元に走りだした。慌てたファウナは矢を私に向かって撃ち込む。


「誘導弾でなくても攻撃は出来る。」


そう強がるファウナだが、撃ち筋が見えている矢など恐れるに足らない。私はあっけなくその攻撃をよけると、ファウナの背中に飛び乗り、羽交い締めにする。


「無駄だ。」


ファウナは自信満々にそう嘯く。


矢はファウナを避けるようにして私を突き刺さんとして飛んできた。一本避けきれずに肩をかすめていく。ファウナは勝ち誇り、観客を煽り始めた。


「竜人族の諸君、君たちの伝統と誇りを汚した男はご覧の通り私に手も足も出ない。私はケンタウロス族と竜人族の友好のためにまずはこの男の敗北を君たちに捧げたいと思う。」


大歓声が起こり、観客は竜人族とケンタウロス族の友好をうたいだす。


えっ、なにこの展開? 完全に私が悪役じゃないですか? えっ、私そんなに悪いことした? 独身、バツイチ、恋人なしの男が風俗行くってそんなに悪いことですか?


ああ、マジなんだイラついてきたはこいつ。もう、泣いたって許してやらない。この観客の前で赤っ恥かかせてやる。とはいえ、突破口もまだ見つからない。ん? 矢の数が9本しかない。はは~ん、そう言うことか。


私は再び壁際に向かって走り出す。その途中ファウナのが先程撃った転がっている誘導弾ではない普通の矢を拾う。


壁際に移動し終わると私はタイミングをはかる。私の矢は3本。それをファウナに向かって順番に投げつける。ファウナはいとも容易く私の矢を避ける。全ての矢が避けられたとき、一斉にファウナの誘導弾が襲ってきた。私はそれに見向きもしないで、ファウナに向かって走り出す。全ての誘導弾は標的を失い、壁に突き刺さる。ファウナは唖然としてその状況を見ている。


ファウナは気づいていないかも知れないが、奇しくもさっき自らが説明した通り、奴が矢を自在に操れるのはこの闘技場の範囲のみ。つまり、360度全てをカバーするには常に中心にたっていなければならないということ。しかし、ファウナは私が投げた矢を避けるために中心からずれてしまった。そしてそれは、ずれた分だけ誘導弾の操作範囲に穴が出来るということ。私はそれを1本減った矢を見て気付き、この策を思い付いたのだった。


私はファウナにたどり着くと弓をへし折った。


「なっ、1000年樹で出来ている弓をいとも簡単に叩きおるだと。」


ファウナからやっと驚愕の言葉が聞くことが出来た。が、こんなものでは許さない。折った弓の弦でファウナの手を後ろ手に縛る。


「さあ、これで反撃の芽はなくなった。降参したらどうだ?」


「く、卑怯者め。私は悪には屈っさない。」


こいつは何で私をこんなに悪に仕立てあげたいのだろう? そんなに悪にしたいなら悪になってやろうじゃないか。


「そうか、降参しないか。ではっ。」


私はファウナの黒い鎧を破壊し出す。まずは四肢の装飾からだ。


「く、やめろっ。今すぐやめないと。」


「やめないとどうなるんだ? やめてほしければ降参しなっ。」


「降参はしない、正義は必ず勝つ。」


やっぱり、こいつ面倒くさいから嫌だ。


「おい、レスター。勝負はついているだろう。試合を止めろ。」


頑固なファウナを説得するのは諦め、レスターに助けを求める。


「残念ながら、レフェリーストップにするにはファウナ殿のダメージが、少なすぎます。」


どうしてこうも臨機応変さが足らないんだろう。決着は降参、気絶、レフェリーストップ、そして、死亡したのみ、降参はしそうにない。レフェリーストップも無理、死亡は嫌だし、すると気絶かぁ。でも気絶はルークの時でひどい目にあってるしなぁ。もう少し降参の線で頑張るか。


「ファウナさん、あんまり意地張ってると、今より地獄見るよ。」


「何度も言わせるな。今、私を解放するなら君が降参することを許そう。」


こいつどこまで上から目線なんだ。もう、いいや。本気で恥かかしてやろう。私は装飾だけでなく、鎧本体、そして、服を破っていく。


「やめろっ。やめてぇ、いやぁあああああああああ。」


ほぉ、良い声で泣くようになったじゃないか、でも許さない。


「参った。参りました。もうやめてください。ゼロ様、私は貴方の下僕です。」


「そこまで、勝者、ゼロ。」


虚しい。途中までは良い戦いだったのに、結局ひんむいて降参とは・・・。はぁ、ちょっとやり過ぎたか。一応勝ったし、謝っておくか。


「すまなかったなファウナ。でも、お前が早く降参しないか・・・ら?」


そこにいたのは最悪のスケベ野郎に素っ裸にひんむかれ涙を流しているケンタウロス族の女性だった。


え、何この展開。これじゃあ、私、本当に外道ですやん!!


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