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それぞれの思惑 5

会場は凄惨な現場に静まり返っている。


ええと、一応、観客の皆さんに『男だと思ってました』って、言い訳した方がいいかな? いや、それだと男なら良いのかって男女平等主義の人に突っ込まれそうだし・・・。


よし、とりあえず、控え室に帰ってから対策を練ろう。幸いまだ観客はあまりのことにフリーズしたままだし。


そろーり、そろりと控え室へ繋がる通路に向かう。あと数メートル。


その時、コツン・・・と、客席から飲みかけのものが入った容器が投げ入れられる。


「悪魔。」


誰かがポツリと呟いた。そに呟きが徐々に広がりをみせる。


「女の敵」

「クズ。」

「死ね。」


呟きが徐々に大きくなり罵声に変わるのにそう時間はかからなかった。私に向かいありとあらゆるものが投げ入れられる。普通こんな時に止めるはずの警備兵ですら何かを投げつけてくる。心中はお察しします。私は急いで通路に逃げ込みやり過ごした。が、この後の試合どうしよう・・・。やっぱり、バックレるのが一番ですかね?通路を歩きながら考えていると前から怖い鬼が近づいてくる。そして、後ろからは怒れる竜人が。ああ、バックレる前に負傷欠場になるかも。私は首根っこを捕まれ、控え室に連行される。


「ゼロ様ぁ、何か言いたいことあるんじゃありませんか?」


恐怖の弥生スマイルで問いただされる。


「はい、信じていただけるかわからないのですが、実はファウナ選手のことを男だと勘違いしておりまして。」


「ふーん、で、ゼロは男なら脱がしてやろうと思ったの?」


サラサは相変わらず私の性癖を疑ってくる。


「いえ、始めは降参させようと努力をしていたんですが、ファウナ選手があまりにも頑固な上に、レフェリーストップも期待できない状況で、更に私は気絶させる技術を持っていないし、殺すわけにもいかず、他に方法が・・・。」


「それで、何で脱がすって言う選択肢になるのでございましょうか? 腕を折るなり、爪をはぐなり方法はいくらでもあると思うのでございますが。」


弥生がさらりと恐ろしいことを言う。サラサも若干引きぎみなのが伝わってくる。


「すみません。おっしゃる通りでございます。以後、気を付けます。」


こう言う時は逆らわずに謝った方が良い。うちの嫁もそうだった。


「わかって頂けて嬉しいです。では、お仕置きしますね。」


あれっ?『ごめんなさい、もうしません。』で終わりじゃないの? ちょっと、弥生さん?目がヤバイんですけど。ねぇ? サラサさんもドン引きしてますし、冗談はそれぐらいで終わりにした方が・・・。


いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


5分後、部屋にはお嫁にいけない体になった私と、スッキリした弥生と、放心しているサラサがいた。


「次はこんなものでは許しませんからね。」


この台詞は数日前に聞いたのと全く同じものだ。大抵この台詞は抑止力を持たず、次、同じようなことをしても『こんなもの』で許してくれて、殆どが、また同じ台詞を言われて許してもらえる『なあなあの法則』と言うものの上で成り立っている。しかし、弥生にはその法則が適用されず、『約束は約束の法則』が適用されるらしい。つまり、次、変なことをするとお嫁にいけないどころか、生死に関わると言うことだ。


「はい、もうしません。」


私は不可抗力という言い訳すら出来ない窮地に立っていることに気付いた。


「よろしい。では、わたくしとサラサ様はこれで失礼します。残りの試合も頑張ってくださいね。」


「はい。全力を尽くします。」


弥生はにっこり笑って去ろうとするが、方針状態のサラサは動けない。


「サラサ様、あまりお邪魔になっても、悪いと思うので失礼しましょう。」


「はい、弥生様。」


2人の力関係が決まった瞬間だ。サラサは恐る恐る弥生の後についていく。頑張れ、サラサ。


それから数分後。


トントンとドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ。」


一応、警戒してドアから少し離れて相手が入ってくるのを待つ。先程の件でいつ誰が控え室に襲撃に来てもおかしくない。


「失礼します。」


入ってきたのは栗色の髪の毛をなびかせ、豊満な胸を持ったケンタウロス、ファウナだ。先程の復讐にきた・・・といわけでは無さそうだ。武器も所持している様子はない。


「ファウナさん、先程は失礼しました。失礼ながら、ファウナさんが女性だとは露知らず、あの様な行為に出てしまいまして・・・。」


「あの様なとは、どの様な行為でしょうか。」


ファウナが淡々と尋ねる。


「いえ、あの、大勢の観客の前で、その、裸にして、あの・・・。」


「はうっ。」


ファウナは顔を真っ赤にし・・・・・・・・・・・・恍惚の表情を浮かべた。


「へ?」


私は嫌な予感がした。いや、むしろ嫌な予感しかしない。


「ご主様。私はご主人様のお陰で真の自分に目覚めることが出来ました。正義というくそみたいな概念にとらわれ、凝り固まった私の価値観はご主人様のご褒・・・無慈悲で素晴らしい攻撃によって、くだけ散りました。ここにいるのはもう真面目さと強さだけが取り柄だったファウナではなく、生まれ変わり、エロさとイヤらしい体を備えたご主人様専用のNEWファウナでございます。さぁ、ご自由にお使いくださいませ。」


もしもし、警察ですか? 目の前に変な女性がいます、助けてください。


「ええと、ファウナさん。その、貴方の気持ちと性癖は置いておいて、何で俺がファウナさんのご主人様になるのかな?」


「何をおっしゃいますか、戦いの最中ご主人様はこうおっしゃいました。『お前も俺に負けたらきちんと言うことを聞け!! 』と。私はご主人様に敗北し、身も心もご主人様のものになりました。」


えっと、言ったかなぁ、そんな事・・・。あ、言ったわ。でも確かあの時は・・・。


「ファウナさん。それはちょっとした誤解がはいってるよ。俺が言いたかったのは、俺に対しての噂に間違いがあるから、試合が終わったらゆっくり説明するから観客もファウナさんもきちんと話を聞いてね。って意味だったと思うんだけど・・・。」


「そうでしたか。ではご主人様。きちんとお話しください。一生懸命聞かせていただきます。」


うん、こいつ、たぶん、何にもわかっていない。


とりあえず、説明してみよう。ひょっとしたらわかってくれるかもしれない。私は風俗事件の説明を事細かにする。


「なるほど、ご主人様にはもと嫁と2人の新妻がいて、もと嫁は浮気に堪えられずに離婚したが、新妻は浮気に寛容でお仕置きだけで許してくださる、と。つまり、ご主人様が言いたいのはこう言うことですね。『今さら妻が増えたところで気にしないさ。お前も俺の嫁になれっ』、と!! はい、喜んで。」


私は説得を諦めて部屋を出た。


部屋の中から恐ろしい声が聞こえる。


「ぐふふふ、無視プラス放置プレイとはこの上ないご褒美・・・。」


私は逃げるようにその場を離れた。



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