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鬼と竜と策謀。時々ライオン 1

希望の民は15部族の国に別れていて、鬼族、エルフ族、ダークエルフ族、ドワーフ族、ホビット族、ケンタウロス族、竜人族、猫人族、犬人族、狐人族、うさみみ族、オーク族、人魚族、ハーピー族、巨人族がそれぞれ統治している。各国は100年前に不可侵条約を結びそれ以降戦争や侵略は起きていないそうだ。ただ、人間の侵略や魔族の侵略に対して協力して撃退するということもないそうだ。友好ではなく『敵対しない』と言うだけの仮初めの協定と平和。その微妙なバランスが何とか保たれているというのがルナから話を聞いた私の正直な感想だ。


「つまり、鬼族は四面楚歌の状況だと?」


私がルナに尋ねる。


「希望の民は敵ということではないので、その表現は間違っていると思いますが、孤立しているということは間違いがないと思われます。」


「でも、ルナを拐ったのは誰かわかっていないんだろう?」


「はい、私は夜寝ていて、目が覚めたら奴隷として市場に流されるところでした。」


「ルナ、気になっていたんだがルナは人間の言葉をどこで覚えたんだ?」


「どこ、というのは?」


「いや、鬼族の里で拐われた後、人間の言葉を教えられたりしたのか?」


「いいえ、市場に流されてからゼロ様に買われるまでに人間の方々の会話を聞いて覚えたのでございます。」


え、なにその簡単でした的な言い方。こっちはチートで手に入れたスキルだからあれだけど、『言葉が違うから分かりあえない』って 前回あんだけ深刻に述べた私の立場は!?何、天才って言葉で片付けていいの?それともニュータイプなの?


「そ、そうか。で、鬼族の里は後どれくらい着くんだ?」


「もう、間もなく里の入り口でございます。ほら、あちらに門が見えますでしょう?」


なるほど、確かに地獄の門のように禍々しい門が一つ。その奥には町が広がっている。ただし、全ての建物が木造で平屋だ。私たちが近づくに連れ、ざわめきが聞こえだした。


「おい、どんな化け物が近づいて来るんだ?」

「魔王とやらが乗り込んで来たのかしら?」

「守備隊だけでこの国を守れるのか?」

「きっと、大丈夫さ、俺たちには頭領様がいるんだから。」


どうやら私の生命エネルギーを感知して完全に敵襲だと思い込んでいるらしい。私の意見としてはこっそり里に忍び込んで頭領のみと話をつけようと思ったが、ルナに猛反対された理由が今わかった。生命エネルギーを感知する鬼族には私が数キロ先にいても発見されてしまうようだ。私の生命エネルギーって一体どれ程、人と違うんだろう?


門の下まで来ると門番が問う。


「汝、この国に何用か?」


「頭領の弥彦様にお目通りを願います。わたくしは彼の娘『弥生』でございます。」


「これは滑稽な。弥生様は今も宮殿におられるわ。嘘をつくならもう少しましなものを用意してきたらどうだ?」


あれ、どう言うことだ?いきなり出だしから躓いてるんですけど・・・。


まぁ、考えられるのは3つ。


1、誘拐したあと誰かがルナのフリをして入れ替わった。


2、誘拐されたことを隠すために上層部が箝口令をひいている。


3、ルナが嘘を言っている。


さて、3は速攻選択肢から外すとして、1か2か。まぁ、どっちでも構わないが、取り敢えず弥彦とやらに会えばわかるだろう。


「おい、いいから弥彦とやらを連れてこい。でないとこの国にとってあまりいい結果にならないぞ。」


ざわめきが大きくなる。本心を言ったつもりだったが挑発と捉えられたらしい。


「いや、別に怒らすつもりはなかったんだけど・・・。」


門の後ろにこん棒を持った鬼が数十人見える。面倒だが、必要ならやる気は十分です。だって、もう、野宿はしたくないんですもん!!ここ1ヶ月の野宿は私をイラつかせる要因を作った。ベットと美味しい食事が恋しい!!


「そいつら全員ぶっ飛ばしたら、弥彦に会わせてくれるか?」


隠れる気が無くなったのか、門から30人程度の鬼が出てきた。


「ワシら守備隊を前に怯まんとは中々いい根性じゃが、後悔するなよ。どこに部族か知らんが、きっちり条約違反の責任は取って貰うからのぉ。」


それってもう完全に俺の圧勝フラグの言葉ですやん。


「どこの部族・・・。鬼族の次期頭領です。」


つい、のりでそんなことを口走ってしまったが、ルナはその言葉を聞いてハァハァしてる。そして、守備隊のお兄さんたちも別の意味でハァハァしてる。では、始めましょうか。


「まぁ、待て。」


そこに落ち着いた声が響いた。


「頭領様。」

「弥彦様。」

「お頭。」


「お父上様!!」


最後にルナの言葉が響く。


そこにいたのは如何にも百戦錬磨といった出で立ちの、頬に十字傷がある紅い髪をした立派な鬼だった。


「そこのちんまいの。残念ながらワシはお前の親父では無いわけだが、どうしてそんなに弥生の小さいときの姿をしているか説明をしてくれると助かるんだが。」


ん、どう言うことだ。この姿は子どもの時のルナの姿ってことか?あれ?


「ルナ、どう言うことかわかるか?」


「いえ、正直分かりません。申し訳ありません。」


「えっと、あなたが弥彦でいいのかな?この子が弥生を名乗るには小さすぎるってことは、今の弥生さんはもう少し年上ってことだよな?」


「ああ、今年で20歳になった。」


ん?情報はあっている。と、言うことは。


「一つ質問なんだが、弥生さんは今どうしてる?」


急に弥彦の顔が曇る。


「お前、何か知っているのか?」


「いや。だが、予想はつく。俺の見立てが正しければ、弥生さんは眠ったままだ。そうだろう?」


「ほう、面白い考えだな。だが、どうやらお前らをこのまま帰すことは出来なくなった。」


「おっさん、始めから帰そうなんて気はなかったろ。まぁ、いいや。取り敢えず俺も珍しくそこそこやる気が出てるので、条件次第でおっさんとさしで勝負したいんだけど、どう? 鬼族は力が全てって、聞いたことがあるんだけど。」


「ますます面白い。ワシに勝つ気とは。言っておくがワシは強いぞ。生命エネルギーだけが勝負の鍵ではないことを分からせてくれるわ、小わっぱが!!」


「いやいや、俺も強いからっ!!魔王討伐してますしっ!!」


周りから失笑が漏れるが弥彦は笑っていない。


「で、条件なんだけど、こっちが勝ったら弥生さんに会わせることと、寝床と豪華な食事でお願いします。」


「いいだろう。こちらが勝てば知っていること全部吐いてもらうぞ。」


そう言うや否や、弥彦がこん棒で襲ってくる。大きい図体のわりにはスピードはある方だが、私のスピードに対抗できるほどではない。こん棒の一撃をきちんと見切り、ボクシング漫画を見て覚えたボディーブローの一撃。勝負ありのはずだったのだが。


「固っ!!」


殴った手が痛い。これってあれか? えっと、術って言ってたっけ? 己の生命エネルギーを云々カンヌん。 あれ? 生命エネルギーってことは俺にも使えるもかな? いよいよ俺も異世界的なパワーに目覚めるときが・・・。魔法の時は兎に角ショックだったからなぁ。魔法がある世界に異世界転移して、魔法の才能ゼロ・・・ないわ~。魔族のあれも魔素感じないから使えないし、使えても口から火を吹くって人間的にどうなのって話だしね。


あ、余計なこと考えすぎてた。術のことは後で聞くとして、今はこの固いおっさんをどう倒すかだな。とりあえず、固くないとこないか片っ端から殴っとく?


腕、足、脇腹、顔、顎、鼻、テンプル、最後は金的。流石に目玉とかはグロすぎるのでそういうとこ以外殴ったけど、手応えがまるでない。 と、言うことは・・・あきらめて、お互いの健闘を称え合う風に持ってったらどうだろう。


「ちょこまかちょこまか動きおって、卑怯ものが!!」


え、何も卑怯じゃないのに卑怯って言われたら優しい私も怒っていいよね?


カッチーーーーーーン!!


「死ぬなよ、おっさん。」


私はセンスの悪い門に手をかけると、力任せに柱をぶっこぬき、弥彦目掛けてフルスイング。


後には、壊れた門と、唖然とする守備隊、そして気絶(たぶん)した弥彦が残った。

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