鬼と竜と策謀。時々ライオン 2
弥彦を倒した私たちは大きな屋敷の客間らしき場所へと通された。どうやら約束通り今日の寝床は確保出来たらしい。あとは豪華な食事が手に入れば言うことはないんだが、むこうの出方がわかる前に出されたものに手をつけるのは危険であろう。弥彦には早く意識を取り戻してもらい、弥生に会いに行かせてもらいたいものだ。
「さて、入国には成功したが問題が増えてしまったな。ルナは今回の件どう思う?」
「それは『弥生』、つまりわたくしが宮殿にいると言われたことで御座いますよね。正直、全くわかりません。ただ、お父上様は嘘をつく方ではないので、わたくしの姿は今の『弥生』とは違うと言うのは間違いないと思います。」
ふむ。自分の事なのに随分冷静に分析できている。
「ゼロ様には何が起きているかわかっている口ぶりでございましたが・・・。」
「わかってる。と、言いたいところだが想像の範疇をでない。実際にはまず見てみないとな。それに、俺の予想があっていたとしても、それで解決というわけではないんだ。」
「そうでございましたか。では、父上様がお目覚めになるのを一緒にお待ちしましょう。」
ちょっと強く叩き過ぎたかもしれないと、後悔しても後の祭り。いつも大人になったんだから少しは落ち着いて対話とかしたほうがいいんだろうな・・・とか、思うんだけど、実際年をとっても言うほど大人になりきれない自分がいます。
それから数時間後。目が覚めた弥彦が部下数人を引き連れてやってきた。
「いやぁ、参った参った。まさか門の柱で吹っ飛ばされるとは夢にも思わなかったわ。貴殿の生命エネルギーは見せ掛けではなかったというわけだな。刃物も通さぬワシの体をここまで傷つけるとは、まさに鬼神の如き強さだな。」
「そんなことはないさ。ちょっとイライラしてたからいつもより力が入ったんだろうよ。さて、おっさんも目を覚ましたし、早速、弥生さんのところに案内してもらいたいんだが。」
早く済ませてご馳走にありつきたい。
「ああ、しかし、変なまねをされては困るんでな。そこの娘をこちらに預けてもらってもいいか。」
ふむ、もっともな提案だがその場にルナが行かないのは得策ではない。
「それが今回は預けるわけにはいかないんだな。この子と弥生さんを会わせたいんでな。それにおっさん、おっさんは本当は薄々気づいてるんじゃないのか、この子があんたの実の娘だってことに。」
「貴殿は面白いことを言うな。確かにそこの子はワシの娘の小さい時に良く似ている。しかし、ワシの娘は貴殿が推測した通り、眠りについておる。そのことはワシら一部のものしか知らないことではあるが。そのことをどう説明するつもりじゃ。」
「ま、ここで議論しても始まらない。とりあえず武器とライオンを預けるってことで勘弁してくれないか。」
ルークはあからさまに嫌な顔をしているが私は見てないフリをする。あとでいっぱい肉食わせてあげるから許せ友よ。
「よかろう。では、娘の部屋へ通そう。」
武器とルークを客間に残し、私たちは弥生が眠るという部屋の前に来た。すると突然女中らしい人がかけてきて、
「頭領様。幾ら頭領様でもこの部屋に手続きなしで入ることは許可できません。必要な手続きをとってからもう一度いらして下さい。」
「それが、今回はそうも言ってられなくてな。一族の大事なれば、決定は頭領であるワシがする。わかるな?」
「・・・はい、畏まりました。」
女中はしぶしぶ引き下がる。ここが運命の分かれ目だと弥彦はわかっているようだ。
「では、参ろう。」
弥彦がドアを開けるとそこには赤く綺麗な長い髪をなびかせ、立派な2本の角を持つ女性が眠っていた。その姿はまさしくルナを大人にした感じだ。
「さて、彼女はワシの娘『弥生』である。御覧の通り、眠ったままだが、呼吸も脈も正常に動いている。貴殿がそこの娘がワシの娘と言い張るなら、彼女は一体何者だというのか?」
弥彦はきわめて冷静に話しているつもりだろうが、娘が眠ったままという状況を前に感情が高ぶってしまっているのが手に取るようにわかる。鬼族はみんながみんな感情を隠すのが下手らしい。
「おっさん、ここから先は俺の推測の話になるんだが、正直はずれると恥ずかしいので、おっさんとそこの娘と3人で話したいんだが、人払いをしてくれるか?」
「これは滑稽な。恥をかきたくないなら、即刻この場を去ったらどうだ?」
若く血の気の多そうな鬼が嫌な言葉を投げかけてくる。もちろん恥ずかしいなど嘘だが、こいつらにそれを悟られてはまずいので、こちらも喧嘩腰で言い返す。
「おいおい、自分達の姫さんがこんな状況になって何ヶ月経ってるんだと思ってるんだ。この状況を解決できない鬼さんに言われて『はい、そうですか。』って、帰っても、結局恥ずかしいんですけどぉ。とりあえず、出てってくれない? 無能さがうつると嫌だし。」
「ぐ・・・貴様、我らを愚弄するか。」
若い鬼は感情を爆発させ、今にも襲ってきそうだがそれを静止して隣の鬼が言う。
「いやはや面目ない。お客人の言うとおり我らは姫を助ける事も出来ない無能だが、お客人なら何とか出来ると仰っているように聞こえるのだが、私たちを侮辱して、『やっぱり無理でした』では、筋が通りますまい。もし、お客人が解決できないようなら、その時はきっちり責任をとってくださいますな?」
「ああ、いいだろう。」
本当は断りたいが、売り言葉に買い言葉で、つい受けてしまった。さっき反省したばかりなのに感情のコントロールは本当に難しい。きっと、まだ腹が減っているのがいけないんだ。
「話がまとまったようだな、ワシ以外のものは部屋を出るがよい。ん、黄鬼、どうした? まだ不満があるか?」
ほかの鬼は部屋を出て行こうとしたのに部屋の隅でずっと黙っていた黄鬼と呼ばれた鬼はこちらを睨んで動こうとしない。
「弥彦様。私はこの者が信頼できません。どうかお側にいる許可を。」
「黄鬼、主の心配はよくわかる。しかし、この者、何か知っておるようじゃ。頭領としてではなく、父としてワシは可能性にかけてみたいと思うておる。すまんがここはワシの顔を立ててやってくれんか?」
「わかりました。しかし、部屋の外で待機していますので、何かあった場合にはすぐに私たちをお呼びください。」
「わかった、そうしよう。」
納得はしていないようだが渋々、黄鬼は部屋を出て行った。これで部屋には私、弥彦、ルナ、弥生だけとなった。
「さて、おっさん。いくつか質問したいんだが、答えてくれるな?」
「ああ、もちろんだ。」
力強く頷く弥彦の父親として助けたいという言葉に嘘はないだろう。
「まず、いつから彼女はこのままなんだ?」
「3ヶ月前だ。」
「原因はわかっているのか?」
「いや、ただ、弥生が眠りはじめた晩に賊がこの宮殿に進入したというのは間違いない。ただし、警備についていたもの全員が眠りにつかされて、誰もその姿は見ていないそうだ。」
「ほかの希望の民で睡眠や幻術を使う部族はいないのか?」
ここで、弥彦の目の色が変わる。
「100年前の不可侵条約締結からワシら鬼族はほかの部族との交流を殆どたっておってな。詳しい術の情報は持っておらぬ。ただ、つい最近部下が手に入れた情報では竜神族の巫女がその様な術を使うとの話があり、数ヶ月前から宮殿に篭ってその術を使用している様なのだ。」
「つまり、竜族の巫女が怪しいと、おっさんは睨んでるということか?」
「ああ、実は、偵察に送り込んだものが数名、使者として正式に竜人族に使わしたものが数名無残な姿になって帰ってきておる。このまま娘の意識が戻らない場合は戦争も辞さないつもりでおる。」
ふむ。なんとなく背景が見えてきたが、思い込みは危険だ。もう少し、情報を手に入れておいたほうがいいだろう。
「おっさん、術って言うもののことが詳しく知りたいんだが、種族によって使うものが違うのか?」
「種族によってもそうだが個人で違うものもいる。特に巫女と呼ばれる存在は同時に1人ずつしか存在せず、種族の中でもほかの誰も使えぬ術を使うと聞く。」
「それが弥生で回復と分魂の術というわけであっているか?」
弥彦の顔が強張るが、すぐに苦笑いに変わり、
「ああ、そうだ。分魂の術はその中でも1回しか使えぬ秘術だがな。」
「心配するなおっさん、必ず娘さんは助けるから。」
巫女の術というのは唯一のものであるということは、ルナは本物の『弥生』であるということ。
「おっさん、今から言う事をきちんと聞いてくれ。手順が狂うとたぶん娘さんも助からずに国が滅ぶ。」
私は私の意見とこれからすべき事を事細かに弥彦に伝えた。それを聞いた弥彦の反応は、
「ふざけるな!!娘は助けられないだと!! 誰か、この者たちを牢にぶち込んでおけっ。」
フカフカの寝床を期待していた私が就寝するのは硬い牢屋に決定した。




