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第10話 「宣戦布告」――異形の怪物


そして時は戻り、場所はA班。


彼らは撤退を決め、帰路につくための馬車の準備をしていた。




「そういえば……魔族ってそもそも何なのかなぁ?」


ボブ程度の黒髪を風になびかせながらジャックがふと聞く。


ジャメラポムが肩を鳴らして笑った。


「魔族はなぁ。簡単に言っちまえば、別世界のバケモンってとこだぜぇ」


「別世界……?」


アクラが眉をひそめる。




「厳密に言えば“魔界”からはるばるやってくるんだけどよ……まあ、ここ数年は安全って言われてやがったが……」


ジャメラポムは、先輩のツヴァイを顎でクイッと指した。 明らかに挙動不審のツヴァイ。


「あんたの隊は去年、魔族に血祭りにされちまったもんなぁ!ギャハハハハハ!」


「お、おいやめろよジャメラポ……!」


アクラが止めに入るが、ジャメラポムは悪びれない。




「だが心配はご無用だぜぇ。ウチが安全に城まで届けてやる」


ピンクの髪が揺れ、疲れきったタレ目がツヴァイを射抜く。




「すごいね……わたしと同い年の女の子とは思えないなぁ……」


ジャックがぽつりと言う。 ジャメラポムは胸を張った。


「ったりめーだ!ウチはもう5年目なんだぜぇ?」


——5年目。それは、孤誓隊に入隊してから、という意味だろう。





「よし!準備はできた!!いつでも行けるぞ!」


バロロが大きな声で言う。




「ツヴァイ先輩、歩けそう……?」


ジャックが心配そうに駆け寄り肩を撫でる 「うっ……まだ吐き気が……」


「男のくせにだらしねぇぜ!ほらウチが御者になってやっから、あんたら尻軽ちゃんどもは後ろだ!」





こうして彼らは、先ほど来た道を引き返す。 もう夕方だ。地平線が赤く染まる。春特有の涼しい気候が、戦闘終わりの身体に、ほんの少しだけ安らぎをくれた。


「でももし、もしの話なんだけど。急に敵が来たらどうすればいいの…?」

ジャックが不安げに誰かに問う。

アクラと同じく入りたて独自の不安要素だ。


「心配ご無用!どんな敵相手だろうがジャックちゃんはオレが守ってみせるぜ!!うおおおおおお!!!」

筋肉を誇示するようにバロロが馬車の中で叫ぶ。

数秒の静寂が流れ、夕日が彼の肌を照らした。


「えっと、ありがと…かな?」

ジャックは微笑みを作ってみせる。

大きな青い双眸が夕日を反射し、馬車が揺れる度にその宝石も揺らめく。

――ついでにその豊かな胸も…。





そして、朝に立ち寄った“屈強な店長がいた村”へ寄ることになった。 アズラル村。小規模ながら道沿いにある便利な村で、多くの旅人や隊員がここで食料を揃えたり宿を借りる。




「ウチは別に野宿でもいいけどよぉ。安全性に欠けやがるからな。宿でも借りようぜぇ」


そう言い出したのはジャメラポムだった。




時刻は五時半頃。空が紅く光る。幻想的ではあるが、何かを惑わしているような赤さだった。




「おーい、おっちゃん!」


バロロの大きな声。しかし闇に打ち消されていく。


「店長さーん!」


ジャックの暗がりなど無縁の明るい声も闇には勝てない。


「もう寝てるんだよ、きっと」


アクラが周りを見渡しながら言う。


「でも"のれん"はかかってますよ……」


「しゃあねぇ。食料は後回しだ。先に宿に荷物置いておきてぇしな。今日の盗品はレアモノばっかだしなぁ」


ジャメラポムが目を光らせ、下品に笑う。





そこで、一番距離の近い宿へ足を踏み入れた。

木造の3階建ての少しボロい建物。

昼間は窓から宿泊人らしきものが景色を眺めていたのを覚えている。

活気で溢れていたはずが今となっては静寂そのものだ。


――取り返しのつかない選択をしたかのように


「チッ、誰もいねーじゃねぇか。おーいお客様だぞ。五人の尻軽がおでましだ。部屋は男女で二つでなるべく広——」




べちゃり。




ラウンジに入ったその時。 何か赤黒い液体を踏んだ。





——血。


そして、頭部のない遺体。


「——ッ」


「きゃぁぁぁぁ!!」


「も、もう無理ですぅ……」

ツヴァイが真っ青になって倒れる。


「ど、どうなってんだ!?」




首の断面は黒く焦げていて、よく見ると壁や床にも穴が空いている。




「これはまずい。一旦外に出るぞ!」


バロロの掛け声と同時に外へ出て馬車で少し走ると、今まで気づきづらかった物陰や家の中に、頭部のない遺体がちらほら転がっていた。




「ツヴァイはオレが担ぐ!ジャメラポム!このまま馬を走らせるか!?」


「そのほうがよさそうだ。このまま城まで走り抜けるぜぇ。最高速度でぶっ飛ばすからビビんじゃねぇぞ!!」


そして馬車に乗った4人。

ジャメラポムは閃光の如く馬車を走らせた。



その瞬間——


激しい爆発音。


目の前に映ったのは、玉砕した馬車と、吹き飛ばされた仲間たちだった。




アクラは受け身を取れた。だが腕を強く打ち、強烈な痛みが走る。




「敵襲だーーッ!!」


バロロの叫び声とともに皆が立ち上がる。 ただ一人を除いて。





ジャメラポム。 いや、彼女だったものが、黒焦げになって馬車の残骸とともに転がっていた。

内蔵なのか、皮膚なのかそれすら分からない何かが散らばっていた。


胸の糸が苦しい。逃げ出せと叫ぶ。


どうすれば——

一体誰が——


いや、わかったところで勝てるのか。 いや、生き延びられるのか。




「ジャメラポムゥゥウ!!!!」


アクラの叫び声が残酷に響き渡った。


そして彼らは戦慄した。気がついたのだ。血の 地平線の向こうから、新たな異形が迫っていることに。


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