表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

22.闘技場 【3章】


 街の東側に、それはあった。


 円形闘技場──コロッセオ。


 古代ローマの遺跡を思わせる巨大な石造りの建造物が、青空を背に堂々とそびえ立っている。

 外壁には無数の柱が連なり、アーチ状の入口がいくつも口を開けていた。


 風化した石材の表面には、かつての戦いの痕跡──剣傷、焦げ跡、ひび割れ──が刻まれている。


 歴史を感じさせる威圧感。

 ここで、どれだけの戦士が拳を交えてきたのか。


 俺は首を鳴らしながら、正面ゲートをくぐった。


「すごいでしょ?」


 隣を歩くリリィが、得意げに胸を張る。


 「この闘技場、建国当時からあるんだって」

 「三百年以上の歴史があるの」


 「へぇ」


 俺は壁に手を触れた。

 ひんやりとした石の感触。


 指先に、無数の戦いの記憶が宿っているような気がした。


 (ここで、俺も戦うのか)


 拳を握りしめる。

 血が、熱くなる。


 久しぶりの感覚だった。


 受付は闘技場の入口すぐ横にあった。


 石造りのカウンター。

 その向こうに座る受付嬢は、思ったより若い。


 二十代前半くらいか。

 整った顔立ちに、きちんとした制服。


 冒険者ギルドとは違う、洗練された雰囲気があった。


 「いらっしゃいませ」


 にっこりと微笑む。

 営業スマイル。


 でも、目は笑ってない。

 値踏みするような視線が、俺の全身を舐めるように観察していた。


 (ああ、こいつもか)


 俺のボロい服装、疲れた顔、冒険者カードに記されたFランクの文字──。

 きっと全部、見透かされてる。


 でも、構わねぇ。


 「武闘会に出たい」


 俺は、真っ直ぐに言った。


 受付嬢が、少しだけ目を細める。


 「武闘会ですね」


 ペンを取り、何かを記入し始める。


 「では、資格試験を受けていただきます」


 「資格試験?」


 「はい」


 受付嬢が、淡々と説明を始めた。


 「出場希望者全員が受ける実力テストです」

 「審査員との模擬戦で、一定の実力があると認められれば本戦トーナメントに出場できます」


 カウンターの上に、規約書が置かれる。

 細かい文字がびっしりと並んでいた。


 リリィが横から覗き込む。


 「あ〜、そういえばあったね」


 軽い口調で言う。


 「雑魚ばっかり出ても興行にならないから」

 「最低限のフィルターかけてるんだ」


 「その通りです」


 受付嬢が頷いた。


 「審査員は、元Aランク闘士のバルドスです」


 元Aランク──。

 その言葉に、リリィが少し表情を引き締めた。


 「五分間耐えるか、ダウンを奪えば合格」


 受付嬢が、俺の目をじっと見る。


 「資格試験は現在実施中です。よろしければ、このまま参加されますか?」


 俺は、ニヤリと笑った。


 「おもしれぇじゃねぇか」


 拳を鳴らす。


 「やってやるよ」


 受付嬢の目が、一瞬だけ揺れた。


 驚き──だろうか。

 それとも、呆れか。


 どっちでもいい。

 俺は、もう決めた。


 試験会場は闘技場の中央にあった。


 巨大な円形の闘技エリア。

 直径五十メートルはあるだろうか。


 地面は固く踏み固められた土。

 周囲を石造りの観客席が取り囲んでいる。


 天井はない。

 青空が、そのまま見える。


 風が吹いて、砂埃が舞い上がった。


 (ここで、戦うのか)


 胸が高鳴る。


 観客席には、ちらほらと人影があった。

 数えるほどしかいない。


 十人いるかどうか。


 暇つぶしに見に来た連中だろう。

 酒を片手に、だらしなく座っている。


 そして──闘技エリアの端に、挑戦者たちが待機していた。


 五、六人。


 みんな緊張した顔をしている。

 武器を握りしめたり、深呼吸したり、仲間と小声で話したり。


 俺とリリィは、その列の最後尾に並んだ。


 「緊張する?」


 リリィが、小声で聞いてくる。


 「しねぇよ」


 本当だ。

 むしろ、ワクワクしてる。


 試験が始まった。


 審判が、中央に立つ。

 そして──審査員が入場してきた。


 バルドス。


 元Aランク闘士。

 年齢は四十代後半くらいか。


 がっしりとした体格。

 筋肉質だが、無駄な贅肉は一切ない。


 短く刈り上げた髪。

 顔には無数の傷跡。

 鼻は曲がっている。

 何度も折れたのだろう。


 目が、鋭い。

 獣のような眼光。


 ただ立っているだけで、圧がある。


 観客席から、どよめきが起こった。


 「バルドスだ」

 「今年も容赦ねぇな」


 一人目の挑戦者が、舞台に上がった。


 魔法使いだ。

 若い男。

 二十代前半くらいか。


 杖を握りしめている。

 手が、震えていた。


 審判が、開始の合図を出す。


 「始め!」


 瞬間──。


 「ファイアボール!」


 魔法使いが叫んだ。


 杖の先端から、炎の球が放たれる。


 だが──。


 バルドスは動かなかった。

 ただ、手を翳しただけ。


 「ウォーターシールド」


 水の壁が出現し、炎を飲み込んだ。


 ジュッ、という音。

 白い蒸気が立ち上る。


 次の瞬間──。


 「サンダースピア!」


 バルドスの手から、雷の槍が放たれた。

 空気を裂く轟音。


 「ひっ……!」


 魔法使いが、目を見開く。

 避ける余地もない。


 ドガァン!


 直撃。


 魔法使いの体が、宙を舞った。

 地面に叩きつけられる。


 白目を剥いている。

 痙攣している。


 「三十秒、失格」


 審判が、淡々と告げた。


 治癒師が駆け寄り、倒れた魔法使いを担架で運び出す。


 観客席から、ため息が漏れた。


 「また瞬殺か」

 「今年は厳しいな」


 二人目。


 剣士だった。


 バルドスも剣を抜く。

 

 今度は少し粘った。


 バルドスの攻撃を、必死に剣で受け止める。

 火花が散る。

 金属音が響く。


 だが──三分が限界だった。


 バルドスの剣が、剣士の武器を弾き飛ばす。

 そして、柄で腹を突く。


 「ごふっ……!」


 剣士が、膝をつく。


 「三分二十秒、失格」


 また一人、担架で運ばれていく。


 観客席の声が、さらに大きくなった。


 「今年は合格率低いな」

 「審査員のバルドス、手加減しねぇからな」


 三人目、四人目、五人目──。


 全員、失格だった。


 誰一人として、五分を耐えられない。

 ダウンを奪うなんて、夢のまた夢。


 バルドスは、圧倒的だった。


 魔法、剣技、体術──全てが一流。

 しかも、手加減なし。


 容赦なく叩きのめす。


 観客席は、既に諦めムード。


 「今年は全滅かもな」

 「まぁ、毎年こんなもんだろ」


 そして──俺の番が来た。


 「次、鬼塚剛さん、入場してください」


 審判の声。


 「お」


 俺は立ち上がった。


 「んじゃ、いってくるわ」


 リリィが、にっこり笑った。


 「頑張ってね!」


 「おう」


 砂の舞台、中央に立つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ