108.今を生きる
ある朝のこと。
「剛くん見て!」
リリィが、朝刊を広げた。
「ん?」
俺はコーヒーを置いて、新聞を覗き込んだ。
『S級最強の男ジャック、前人未踏の超難度ダンジョンソロ踏破!』
写真が載っていた。
倒した多頭のドラゴンの上に乗って、ジャックがピースしている。
笑顔だった。
あの「っす」口調が聞こえてきそうな、明るい笑顔。
だが——
ジャックが小人に見える。
ドラゴンがでかすぎる。
サイズおかしいだろ……。
「はは、相変わらず世間を騒がせてんな」
俺は笑った。
「ほんと賑やかな男! またお肉持ってきてくれそうだね」
リリィが嬉しそうに言った。
「そうだな、当たりだといいな」
ジャックは時々、旅の土産に魔物の肉を持ってきてくれる。
大体美味い。
だが——たまに、未知の謎肉を混ぜてきやがる。
見た目じゃわからない。
だが味や食感が、うまく言えねぇがヤバい。
そして、次会った時に絶対聞いてくるんだよな。
『なんかいつもと違う肉なかったっすか?』
なぜか神妙な顔で。
やめろっつっても、巧妙に隠してくるようになるだけだった。
諦めた。
まぁ、たまに絶品な肉もあるから——少し楽しみでもある。
「ねぇ、せっかくお休みなんだから出かけようよ」
リリィが立ち上がった。
「そうだな」
俺も立ち上がった。
俺たちは散歩に出かけた。
日差しが気持ちいい。
街は賑やかだ。
あの日、瓦礫だらけだった街は——もう、すっかり元に戻っていた。
新しい建物が建ち。
新しい店が開き。
人々が、笑って歩いている。
「あ、きてきて!」
リリィが、俺の手を引いた。
小さな手。
でも力強い。
「ここどーこだっ」
路地裏に連れてこられた。
薄暗い。
ゴミ箱がある。
壁には落書き。
「ここは……路地裏だな」
「えー、もっとない?」
リリィが頬を膨らませた。
「もっと?」
「ぶー、時間切れでーす」
リリィが指を振った。
「私が剛くんに初めて会った場所でした! テストに出ますよ!」
「はいはい」
俺は笑った。
暗くてわからなかったが——確かに、ここだったな。
チンピラに絡まれてたリリィを助けた。
あの日から、全てが始まった。
俺たちは歩いた。
冒険者ギルド。
最初に登録した場所。
魔力ゼロって言われて、受付嬢に同情された場所。
安宿。
追放されて、金もなくて、転がり込んだ場所。
闘技場。
武闘会で優勝した場所。
ダリウスと殴り合ったな。
全部——懐かしかった。
ふと、通りがかった広場で人形芝居をやっていた。
子供たちが、目を輝かせて見ている。
人形が動いていた。
勇者の人形。
悪魔の人形。
『異世界からやってきた勇者が、悪魔を打ち払ったのだ!』
人形遣いの声が響いた。
『めでたしめでたし!』
子供たちが拍手した。
『どうだい、楽しかったかい?』
人形遣いが、子供たちに語りかけた。
一人の男の子が、目を輝かせて言った。
「うん! 僕も異世界行って勇者になる!」
人形遣いが笑った。
『言っただろう? 君が一生懸命頑張って強くなれば、もしかしたらそうなるかもしれないぜってな!』
人形遣いが、男の子の頭を撫でた。
『忘れんなよ坊主!』
男の子が、大きく頷いた。
俺は——立ち止まって、それを見ていた。
そうだな。
前世で頑張れねえ奴が、転生したって頑張れねえ。
何も変わらねえんだ。
チートがあっても。
女神の加護があっても。
強い体をもらっても。
本質は変わらない。
だから——まずは今を本気で頑張るんだ。
今いる場所で。
今持ってるもので。
全力でやる。
それしかねえんだ。
「剛くん何やってんの? いこー」
リリィが、俺の腕を引っ張った。
「おう、わりぃ」
俺は歩き出した。
「お昼何食べよっか」
リリィが、メニューを指折り数え始めた。
「んー、肉とかどうだ?」
「ありー! お肉食べよ!」
リリィが飛び跳ねた。
金髪のツインテールが、揺れた。
俺は笑った。
空を見上げた。
青い空だった。
雲が、ゆっくり流れていた。
俺は、この世界で生きていく。
全力で。
本気で。
今を——生きていく。
「剛くーん、早くー!」
「今行く」
俺は、リリィの後を追った。
日差しが、眩しかった。
●なろう(以下コピペ)
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