異世界気分
「コラッ!!もうちょい息吐かんか!!!」
これが私の祖父、鎌田 極
まるで絵にかいたようなキラキラネームだがその名の通り極めたいと思ったものは極め続ける。末恐ろしい祖父さんであった。
私は現在風船を膨らませていた。それも特大の風船を。祖父が言うにはこれを一瞬で膨らませられたら合格とのことらしいが私はまだそれができないのでとりあえず一息の限界を高めろと言われとにかく息を吐いていた。
「まだ半分にも行ってないぞ。」
こんな感じの教育をされていたため私は思ってしまった。
そのため
もうちょい息吐ける!
と思ってしまう。
125秒経過
隣の人もまだやっていた
「すげえ、俺以外にもいるんだ。………あ!」
思わず口を放してしまった。
結果は125秒
2位だ。
そのせいかどうにも遠い異世界がさらに遠のいていくような気がしてならなかった。
私はその日の夜、ふと歴代の異世界渡航者たちの装備が飾られているフロントホールでバイザーがしてあるモノを見つけた。
「俺がこういうのを着ることは適わないかも知れないな。」
でも
せめて……せめてバイザーに目を写せば着てるっぽく……
「見えないな。もうちょっと低ければ顔が反射しなくて済むんだろうけど。」
そして後ろを振り向くと美並さんに観られていた。
顔にこそ出さないが誠の心の中はテンパりまくってしまっていた。
美人に変な人と思われたかもしれないのだ。
テンパらない筈がない。例を挙げるならチャック全開で街中を歩きまくって後になって気が付いた男子の心境に近いだろう。
それくらいにはテンパっていたのだ。平静さを装いながらその場をとにかく後にした。
…
体力測定を終わらせた私は一種の恋のようなものに落ちていた。
今は無き異世界オタクの祖父がやっていたことと同じことを全く同じことをやっていた人物がいたのだ。
「もしもしお母さん?」
私はこの試験期間中、両親に電話をするようにしている。
「今日も無事終わったの?」
「うん今日も無事終わったよ。今日は体力測定でクタクタだけどね。」
「あら、そうなの?じゃああんまり長話しない方がいいかしら?」
「うんうん、それより話したいことがあるんだ。」
「何?」
「昔おじいちゃんと一緒に日本異世界ゲート研究開発機構の特別部分の公開イベントに連れてってもらった時のこと覚えてる?」
「もちろん覚えてるわよ。お義父さんったら装備展示のバイザーがあったところかしら?そこでバイザーに自分の顔が入らないかって顔を展示ボックスに張り付けていたじゃない。」
「そうそう、それとさ同じことやっている人が居たんだ。」
「あら、まあもしかしてい同じ受験生で?」
「うん、そう。凄いビックリしてとっても懐かしく思ったよおじいちゃんと同じことをしたいと思うくらい異世界が好きなんだなぁって。」
思わず見とれてしまうくらいには感動した。恰好だけでも異世界に行きたい………そう言っていたおじいちゃんと同じことをやっていたのだ。感動しないはずも無かった。
「ふふふ、そうね。あの時恥ずかしかったけどおじいちゃんほんとに異世界が好きだったもんね。異世界渡航者の試験も何回も受けて全部落ちちゃってたみたいだけど何度やっても諦められないくらいには一生懸命だったもんね。」
「その割には運動とかはサボってたけどね。」
「そうだったわね。美並もその人に負けないくらい頑張りなさいよ。」
「あ、そうだそうだ。その人凄いんだよ。体力測定ほとんどトップだったんだ。それでもあんまり嬉しがってなかったからストイックな人なのかなと思ってたんだけどあんなことするだもん。」
その人は現異世界渡航者の鎌田優さんの兄だった。それ以外にも運動においてはスポーツマンクラスの成績を収めるなど何かと凄い人だ。アレはアドバイスだけじゃできない本当に努力をした人がなせる業だ。才能ももちろんあるかもしれないが好きのためにあそこまでできる人は凄いと思う。
「何よアンタその人のこと話すとなんか楽しそうじゃない恋でもした?」
「お、なんだなんだ異世界好き過ぎて恋バナのひとつもなかった美並が恋をしただって。」
「ち…違うから!」
父は意気揚々にからかってくるが私が今まで異世界好き過ぎて恋をしてこなかったのもまた事実だ。
「はははっ冗談だよ。もう遅くなるから切るな。」
「はーい。」
プツンと電話が切れた。
祖父の装備展示のバイザーのところで顔を展示ボックスに張り付けていた情景が思い浮かぶ。
「あ……なるほど。」
「異世界渡航者みたいになれた?おじいちゃん。」
「ふふふ、教えないよ………大きくなったら美並もやってみなさい。」
それが祖父の……おじいちゃんの言葉だった。
明日こっそりやってみようかな……
今日の一大ニュースは異世界装備の展示ボックスにへばりついてる人を目撃したことだったけどおじいちゃんに会えたような気がしてうれしかった。