ソフィア・スカーレット
≪マ、マスター!!≫
う~ん、遠くから声が聞こえるような気がする。しかも俺を呼んでいる。・・・そういえば何とかカードの世界に入ったんだったか。どれだけの間寝ていたんだ??
ボーっとする頭のまま起き上がろうと上半身を起こす。
「いって。」
体に痛みが走って思わず声が出てしまった。しかし今の刺激で頭にかかっていたモヤが晴れた。あれからどうなっただろうか?まだ世界樹の木の中か、それとも城で歓待でも受けているのか。
とりあえず俺も外に出るか。
体を引きずるように立ち上がり、魔力を込めた。
♢
「!?、ツバサ様!!」
ソフィアさんが泣きそうな顔で抱きついてきた。汗と甘い体臭が混ざった金貨100枚分の香り。
「おほっ///」
そんなに強くハグされると全身に痛みが走るのだが・・・これはすごい。いろんな意味ですごい。
っていつまでも姫様の感触を楽しんでいるわけにもいかなそうだ。明らかに様子がおかしい。それにここはどこだ?空気がムワっとしていて肌に張り付いてくるこのかんじ・・・まだダンジョンの中か。
「どうしたんですか?」
華奢な肩を持ち姫様の顔を見つめる。黄金比よりもさらに素晴らしい顔の造り。パッチリとしたお目めに長いまつ毛、スッとした鼻筋、小さな口、極めつけはプクっとした涙袋。それが俺の目の前にあるのだ。確認するように姫様の目を見つめる。
・・・・あれ?暗くてよく分からなかったが目が充血しているのか?
「実は・・国が襲撃されています。」
「は?」
今なんて言ったんだ?
「国が襲撃されています。」
「誰に?」
「おそらくブオーにです。」
「ってあの俺がぶっ飛ばした大商人のブオーか!?」
「はい。」
「・・・。状況がよく分からないんだが、俺がカードの世界に入ってから何があったのか説明してくれないか?」
「はい。あれから赤マロ様、黄マロ様、ロマン君たちで世界樹の木を出るために出発しました。道中はモンスターもいなくなり危険ではありませんでした。おかげで順調に下りて行ったのですが、問題は入口を出たところで起こりました。」
姫様はそこで一旦言葉を切った。今にも泣き出しそうな顔だ。
「というと?」
「世界樹の木の周りが・・・奴隷エルフを連れた人間の男たちに包囲されていたのです。私は慌てて木の中に戻りました。なので詳しいことは分かりませんが・・・赤マロ様が仕入れてくれた情報によると丸々太った頭の悪そうなブ男がリーダーだと・・・」
突然の事にピンとこなかったが、だんだんと話が飲み込めてきた。同時に体の底から怒りがこみ上げてくる。
「・・だが虹の国の兵士は何をしているんだ?」
「それは・・・おそらく奴隷エルフを人質に取られてあまり動けないのではないかと・・・」
クソっゲスな奴らが考えそうな手だ。
「女王様はどうなっているか分かりますか?」
「おそらく城の中で交戦中かと・・・」
囲まれているとしたら早くしないとマズイな。
「確か世界樹の木の周りの池は、奴隷を連れていても通れないんですよね?」
「はい。心が綺麗な人しか無理です。それに木の中に人間だけで入るのは無理です。」
「てことは世界樹の木が最後の砦というわけですね。」
「はい。・・・囲まれてしまっていますが・・・」
どうする?どうしたらいいんだ?今の俺はようやく体が動くようになっただけで正直走るのも辛い。戦闘なんて到底できる状態ではない。
しかし・・・何とかしなければ。俺がブ男をぶっ飛ばしてしまった責任もある。長期間籠城する食料の備蓄もないし、時間がかかればかかるほど事態は悪化するだけだろう。おそらく現在進行形でエルフたちが奴隷にされているのだから。
「ソフィアさん入口を開けてもらっていいですか?」
「え?ですがどうするのですか!?」
「ちょっと行ってきます。」
「そんなのダメです。」
「いや大丈夫ですから。」
「それなら私も一緒に行きます!」
「それこそ絶対にダメだ。ブオーの1番の狙いはおそらくソフィアさんでしょう?」
「そんなことはありません。私も行きます。」
・・・なんだこのめんどくさいやり取りは。
「元気そうじゃな。」
どこからともなく赤マロが現れた。
「事態は深刻じゃ。今のお主ではろくに戦えぬし、小娘1人ではどうもならぬしな。こうなったらソナタがエルフをカード化して救うしかないのう。」
「カード化?」
確かに時の呪縛から解放する手段にはなるらしいが・・・まだ未完成の世界にエルフを入れるのは時期尚早ではないか?
「それならまず初めに私をカードにしてください!」
「いや、ソフィアさんは姫様ですよ?そんなことしたらこの先どうなるか・・・」
「姫だからこそ私が率先してやらなければならないのです!それにツバサ様の配下になるとテレパシーが使えるようになるんですよね?私が話しかければ、混乱を抑えられると思います。」
「・・・。」
「この先私のパートナーはツバサ様以外に考えられません。それに国を救うにはそうするしかありません。お願いします!」
「女にここまで言わせてよいのか?」
赤マロがふがいない俺を憐れむように言った
「分かったよ。」
「ありがとうございます。」
ゆっくりとカードをソフィアさんに刺す。こんな美人にカードがめり込んでいるという事実。もちろん痛みは無いはずだが、何とも言えない背徳感に襲われる。世界中の権力者や大金持ちから求婚される絶世の美女にイケないことをしている。しかもその美女はニッコリと微笑んでいるのだ。彼女の目に映るのは、世界の誰でも無い、俺を見ているのだ、いや俺しか見ていないのだ。
『エルフを捕獲しますか?』
無機質な声が脳内に響き渡る。その瞬間姫様の体がひび割れ光を発した。そして俺のカードの中へと吸い込まれていった。
ソフィア・スカーレット:エルフ:レベル21
体力 83
魔力 86
攻撃力 75
防御力 64
素早さ 80
スキル:ホーリーショット、ヒール
カードの中で動いている。普通の人間より強い、そしてかわいい。ペットみたいだ。
≪ソフィアさん聞こえますか?≫
≪・・はい!凄いです!頭の中にツバサ様が・・・それにここがツバサ様の世界・・・不思議な場所ですね。≫
姫様は興奮しているようだった。まあ喜んでくれたなら良かった。
≪じゃあ外に行きますから、入口を開いてからまたカードの世界に入っていてください。≫
≪はい。≫
ブックマークありがとうございます!感謝感激です!
今日も何とか間に合いました!
平成もあと2日ですね。次回は頑張って5月1日にしたいと思いますが・・・・




