ローディルート
【】は過去軸の会話です
これが最後です
「・・・ローディ」
「はい、お嬢様」
「長かったわ」
「はい」
「いえ、永かったわ」
「はい」
「いえ、長かったのかしら?あの日に話してから十三年、リカルドにはリチャードとユーリシアで教育をしてもらおうとすればするほど、傲慢な王子になったときは焦ったけど、王妃様が話の分かる方で良かったわ」
傲慢になり王族としての資質を疑われ、実の母から見放され、この間、海の底に沈んだばかりだ。
ネックはベルガモーラだが、それもお茶会で相談されて渡りに舟だった。
※※※
【して、エネミー。相談があるのだが】
【何でしょう?叔母様】
【リックを追放しようと思うのだが、何か案はあるか?】
【まぁ、物騒ですこと、王族の資質を問えば良いのでしたら公の場で婚約破棄を宣言させてはいかがかしら?ユーリシアを自分の婚約者のように扱っていますもの。ユーリシアに何か落ち度があると思えば、ありもしないことで宣言すると思うわ】
【ほう、それでどれくらいで宣言させることができる?】
【そうですわね、条件が揃いましたら一か月ほどでできるかと思います】
【そうか。では考慮しよう】
※※※
婚約破棄という素地を作り、あとは丸投げしようと思ったが、上手いことベルガモーラに使われてしまった。
ベルガモーラと悪友二人が立てた案に巻き込まれて学院内で暗躍するはめになったことは記憶に新しい。
「あの時は、叔母様、血迷ったと気を失いそうになったわ」
「ご立派でございました」
「その悪友・・・両理事長が立てた案がリカルドのゲームの話そっくりだったのも驚きだったわ」
※※※
【叔母様、話って何ですの?】
【話とはな・・・・・ということだ】
【叔母様、そこまで話を進めるおつもりなら何も今わたくしに話さなくてもよろしいではありませんか?わたくし学生ですのよ?】
【最後の詰めが甘いだろう。嫌がらせに耐えかねて男爵令嬢が学院を辞めてしまっては困るのだ】
【その根回しをわたくしにさせるおつもりですの?お断りしますわ】
【それくらい手伝っても良いだろう。何やら学院に入った二年前から画策していたようだからな。我が姪は】
【あら何のことですの?わたくしがその程度の言葉で動揺すると思っていらっしゃるのでしたら心外ですわ】
【では取り引きといこう。手伝いを断るというなら兄が用意している婚姻話を推し進める。手伝うというなら今までのように兄の用意した婚姻話を握り潰す。悪い話ではなかろう】
【卑怯ですわね。仕方ありません。お手伝いいたしますわ。ただし、条件がありますわ】
【言ってみろ】
【ひとつ、男爵令嬢は編入生として学院に入れる。ふたつ、婚約破棄の場は歓迎パーティとする。この二つですわ】
【ひとつ目は良いが、歓迎パーティは早すぎないか?】
【あまり長いと他の貴族の嫌がらせを受けてしまいますわ。いくら大公家の言葉でもせいぜい一か月が限度だと思います。それに国内来賓だけなら何とでも誤魔化せますもの】
【なら任せよう】
※※※
「上手く行って良かったわ。リチャードがあそこまで怒って沈没船を用意させたのは驚きだったけど」
「たしかに驚きましたね。お嬢様のお話では政を行うための影の薄い王子でしたから。学院でも似たような感じだとお聞きしていましたから」
「ええ、驚きだったわ」
リチャードは学院では寡黙でユーリシアを守るナイトのような立ち位置でリカルドが何をしても何を言っても受け入れる弟という感じだった。
その男が今回、動いたのだ。
ユーリシアのためだけに。
※※※
【エネミー】
【あら、リチャード】
【何を企んでいる。ユーリシアに手を出すならお前でも殺すぞ】
【ユーリシアに手を出しているのは第一王子ではなくて?婚約者として連れ回しているのを咎めなくても良いの?】
【目の届く範囲で遊ばせてやっている。それで何を企んでいる】
【わたくしじゃないわ。叔母様立案よ。まぁ王妃様も関わっていらっしゃるようだけど】
【詳しく話せ】
【嫌よ。話してしまって邪魔をされたら今までのことが無駄になってしまうわ】
【・・・なら決闘だ】
【臨むところよ】
※※※
「リチャードが出てきたのは想定外だったわ」
「お嬢様、あれほど淑女としてお淑やかにお過ごしくださいと申し上げましたでしょう」
「仕方ないじゃない。わたくしに決闘を申し込んだのは、リチャードよ。それにわたくしが負けるはず無いでしょう」
決闘は圧勝でエネミーが勝った。
幼いときから稽古をつけていたのだ。
戦女神の後継者が負けるはずがなかった。
それでも健闘したリチャードに邪魔をしないことを条件に話した。
それでベルガモーラに直談判をして沈めさせたのだが。
「それに叔母様に二年前からの仕込みがばれていたとは迂闊だったわ」
「さすがという慧眼でしたね」
「そうよ」
※※※
【リカルドは我が儘でリチャードとユーリシアを入学させるつもりよ。リカルドの教育は二人に任せることにするわ】
【お嬢様、これでリカルド様の対応は様子見ですね】
【そうね。次のハーベルトだけど、叔母様に任せたおかげで出来損ないとは言われないから大丈夫のようね】
【卒業と同時に宰相見習いに就任とのことですから問題ないでしょう。婚約者の方も別の男性と過ごしたことは無いようですので安心かと】
【ラルフシェンの対応は難しいわね。未だに親子の溝はあるもの】
【はい、ラルフシェン様の御母堂と奥様は未だに男性の取り合いをされていますから問題ないでしょう】
【叔母様が若手育成に名乗りを挙げてくれたから時間稼ぎは出来るわね】
【卒業まで問題ないかと存じます】
【そう、ミシェルは学院にすら来ないようね。家で古文書解読だけを生き甲斐にしているから婚約者を処刑もヒロインに会う可能性も無いわ。むしろ来ないように我が家の古文書も渡してしまいましょう】
【そのように手配しておきます】
【ニコラスは何かする前に婚約者を連れて留学してしまったわ】
【はい、僥倖と言うべきことでした】
【これで問題を全部解決したと思うのだけど】
【安心しても良いかと思います】
※※※
「分からないようにしたつもりだったのだけど、まだまだのようね」
「仕方ありません。ベルガモーラ様と学院理事長は旧友のようですから」
「そうね。あとは上手くいって良かったという思いしかないわ」
「お疲れ様でございました」
「本当に長かったわ。でも一番助かったのは・・・」
※※※
【ローディ、全部話したのだけどね】
【はい】
【一番の問題はヒロインが転生者だった場合よ】
【お嬢様と同じように話の流れを知っているということですね】
【そうよ。そうだと、誰に行くかは分からないけど今までの仕込みが全部無駄になるかもしれないわ】
【お嬢様、根本的なことをお聞きしておりませんでした】
【何かしら?】
【ヒロインの名前です】
【・・・・・・・・・アリアネスよ】
※※※
「・・・・・・・・・・そう、転生者じゃなかったことね」
「俺はヒロインの名前を知らないまま調べろと言われるのかと思ったよ」
「すでに話したと思っていたのよ。悪かったわね」
「上手くいきましたので、よろしゅうございました」
「さて、上手く行ったわ。当面の危機は去ったわ」
「はい」
「ローディ、わたくしと婚姻を結んでいただけるかしら?」
「はい?」
雰囲気も何もないままエネミーは告白した。
恋愛感情と呼べる好意を一度も相手に向けないまま。
「わたくしは言ったはずよ。ずっと隠れ登場人物に会いたかったと」
「いや、お聞きしましたけど、ゲームの中の俺でしょう」
「最初はそうだったわよ。でも憧れの人が目の前に現れて恋しない女の子がいないわけないでしょ」
「いや、そうとも限らないかと」
「好きなのよ。返事をしなさい」
「・・・お嬢様、少しお待ちください」
「少しってどれくらいよ」
「少しは少しです」
ローディはエネミーの足元に跪いた。
「絶対に口にしまいと心に決めていました。でも言わせていただきます」
エネミーの手を取り、口づけを送り、そのまま見上げる。
「エネミー様、十五年前よりお慕い申し上げています。心より愛しています」
「じゅっ十五年前って、三歳のときじゃない」
「はい、俺が十八歳のときです」
「なっよっ幼児趣味」
「幼児趣味ではございませんよ。エネミー様以外に心動かされませんし」
顔色ひとつ変えずに告白した男は顔を真っ赤にする主人を愛おしそうに見つめる。
「私が他の人と結ばれたらどうするつもりだったのよ」
「そのときは従者として生涯お仕えするだけです。相手が碌でもない方でしたら追い出すまでです」
「どうして私だったのよ」
「二七年前、先代の大公家に拾われて育てていただきました。何か恩返しをと考えていましたときに、いつか産まれてくる跡継ぎの方に精神誠意お仕えしようと思いました。十八歳になったときにエネミー様に会わせていただいたのです」
「それで?」
「エネミー様は覚えていらっしゃらないと思いますが、エネミー様から求婚していただいたのですよ。大変美しく可愛らしい求婚をいただきました。その時の俺の一目惚れです」
「覚えていないわ」
「まだ三歳でしたので、無理もありません。そのあと五歳になられたときに転生をされたという話を俺にだけ打ち明けてくださったのは天にも昇るほどに嬉しかったのですよ」
「でも、ローディが恋に落ちたのは三歳のエネミーだわ。江音光の記憶を持たないエネミーが好きだったのでしょう?」
「江音光様の記憶があることは重要ではありませんよ。五歳になられるまでのエネミー様と、なられてからのエネミー様の性格に違いはありませんでした。言葉使いも行動も何一つ違和感はございませんでしたし、他の誰も知らない秘密の共有というのは心躍るものがありました」
不安げに瞳が揺れるエネミーを安心させるように言葉を紡ぐ。
「エネミー様、ひとつよろしいでしょうか?」
「ええ」
「貴族の求婚で、身分が上の令嬢から男性に行われたあと、男性から婚約を申し込むのでしたね?」
「そうよ」
「では、お返事をお聞かせください。生涯愛することを誓います。どうか俺と添い遂げていただけないでしょうか?」
「男らしすぎるわ・・・はい」
「ありがとうございます。エネミー様、いや、エネミー」
さらに顔を真っ赤にするエネミーの頬に口づけをするローディは心からこの状況を楽しんでいるのだろう。
※※※
「エネミー?」
「ローディ・・・思い出していたのよ。あの日、貴方がわたくしに婚約を申し込んでくれたことを」
「そうか、一年前のことを思い出してもらわなくてもお望みなら今すぐ口説いてやるが?」
「けっ結構よ」
「冗談だ、これから神の前で誓うのだから今言う必要はない」
「・・・それもそうね」
純白のドレスに身を包んだエネミーと同じく純白のタキシードを着たローディが談笑していた。
「体調はどうだ?」
「大丈夫よ、座っているから問題ないわ」
「そうか、一人の体じゃない。体調が悪くなったらすぐに言えよ」
「分かっているわ」
この二人が婚約するまでにも紆余曲折があった。
第一の関門はエネミーの父、大公家当主だった。
※※※
「認めん。誰が拾っただけの子どもに娘をやらねばならん。認めんぞ」
案の定、反対した。
だが、それも想定済だった二人は先に婚約届を王城に出している。
見届け人として二人以上の貴族のサインが必要だが、それは王妃とベルガモーラが務めている。
つまりは事後報告だ。
「お父様に認めていただかなくても構いませんわ。王妃様と叔母様が見届け人となってくれましたし、ローディの後見人は陛下ですもの。わたくしの婚約は王家の総意ですわ」
「なっ」
「王妃様からは好きな者が身分で引き裂かれるなど言語道断とおっしゃられていましたわ」
「ぐっ」
「それにお祖父様とお祖母様も賛成してくださいました。何でもローディは二七年前に誘拐された隣国の皇太子であるらしく密かに我が大公家に預けられたとか言っていましたわ」
「おっ」
「認めてくださいますわね」
「うむ、もちろんだ。幸せになりなさい」
「ありがとう、お父様」
※※※
「ひとつ聞いておきたいんだけど」
「何かしら?」
「俺は本当に隣国の皇太子なのか?」
「それは嘘よ。隣国から誘拐されたのは本当よ。容姿が皇太子に似ていたから誘拐されて、人違いだと分かったから捨てられるの。あのゲームのローディの後日談として語られるのよ」
「ではなぜ嘘を?」
「ゲームでも現実でもローディを匿うための嘘よ。そうでもしないと身元が分からない子どもを引き取るなんてできないもの」
「先代には頭が上がらないな」
ローディを見つけたときに皇太子ではないと先代夫婦は分かっていた。
いくら国交が断絶しているからと言って子ども一人くらいは帰せる。
そうしなかったのは、ローディが皇太子に似ていることに目をつけて影武者にされてしまうのではないかと危惧したから。
それといつか産まれるであろう孫に心から信頼できる者をと望んだことも理由のひとつだ。
先代夫婦は息子が役に立たないのを知っていた。
早々に孫に当主の座を譲るであろうことも見えていた。
その目論見は上手くいき、夫婦にまでなった。
長期的な策略を得意とするのは大公家の血筋なのかもしれない。
ただし、全員に遺伝するとは限らないが。
※※※
「ベルガ、貴女の読みどおりでしたわ」
「そうだろう」
「ええ」
「実はな、エネミーが三歳のときにローディに求婚している場面に遭遇してな」
「まぁ」
「心の底から嬉しそうにローディが求婚に応えるものだから将来、エネミーに婚約を申し込むのではないかと踏んでいたんだ」
「そうでしたの。それでも良かったですわ。エネミー様が思い人と結ばれて」
「そうだな」
「エネミー様がブーケを投げますわ」
「ユーリシアが貰ったな」
「これで王家も安泰ですわ」
これで終了です
いろいろ詰め込みました
男性陣はまともなのがいなかった
乙女ゲームのタイトルは、
身分違いの恋を目指せ
~現実はそんなに甘くない~