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Sランク冒険者が推し活したらパパ活だった  作者: ヒナツキスバル
第一章 森のエルフと池袋の勇者
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みんな疲れたら森に帰ってきてね♡

 西麻布にあるマンションの一室。


リングライトの柔らかな光が、森を模したスクリーンの前に座る少女を照らしていた。


長い耳。淡い色の髪。幻想的な衣装に身を包んだ森のエルフ――

人気コスプレイヤー兼配信者の「あーにゃん」は、カメラへ向かって可愛らしく微笑んでいた。


傍らにはコメントが流れ続けるタブレットが置かれている。その一つひとつへ視線を送りながら、あーにゃんは鈴を転がすような声を響かせた。


「◯◯ちゃん、わー♡ 素敵なギフトありがとう。はい、回復魔法〜♡」


画面の向こうから次々と反応が返ってくる。


「あ、□□さん、はじめましてかな? いつでも森に帰ってきてね♡」


まるで本当にどこかの森に住むエルフが、疲れた旅人を迎えているかのようだった。


配信は終盤に差しかかっていた。

流れるコメントをいくつか拾い、最後まで笑顔を崩さないまま、あーにゃんはカメラへ小さく手を振る。


「じゃあ今日はここで終わりにするね。みんな疲れたらまた森に帰ってきてね♡ おやすみにゃん♡」


配信終了。

カメラのランプが消えた。


「はい、おつかれさまでした」


スタッフの男が声をかける。


次の瞬間だった。


「………っはー、疲れた」


先ほどまでとはまるで違う低い声が、部屋に響いた。


安西杏奈は椅子にもたれ、大きく伸びをする。

カメラの前にいた「あーにゃん」は、もうどこにもいない。


頬に浮かべていた柔らかな笑みも、甘い声も消え失せ、そこにいるのは安西杏奈という一人の女だった。


「今日、コメント拾うの遅くなかった?」

「す、すみません」

「切り抜き朝までに3本。昨日のマジ話しにならなかったからやめて」

「は、はい」


杏奈は傍らに置いてあった電子タバコを手に取った。ひと息吸い込み、エルフのウィッグへ煙がかからないよう顔をそらして吐き出す。


「サムネが弱いんだよね。ちゃんと数字見て作って」

「はい。すみません」


スタッフの男は小さく頭を下げ、機材を確認すると部屋を出ていった。

ドアが閉まる。

それまで声と光に満ちていた部屋が、急に静かになった。



杏奈は、この静寂が嫌いだった。


たった一人だけ取り残されたような感覚がする。

幼い頃、一人で泣きながら眠りについた夜。


何も聞こえない部屋の中で、どこまでも底のない闇へ吸い込まれていくような、あの感覚。

それが今でも、ふとした瞬間に蘇る。



杏奈は逃げるようにスマートフォンを手に取った。

なんとなくSNSを開く。


タイムラインには、つい先日起きた銀座の強盗事件についての投稿が大量に流れていた。


『こいつ池袋の勇者じゃね?』

『変な動きで3人一瞬で仕留めてる』


「池袋の勇者……?」


杏奈の指が止まった。

投稿された動画を再生する。


映像の中では、一人の青年が三人の男を相手にしていた。


何をしたのか、よく分からない。

だが次の瞬間には、三人とも地面へ倒れている。


「なにこれ」


杏奈は関連する投稿を辿っていった。

どうやらこの青年は以前にも話題になっていたらしい。


雨の池袋。

鎧姿のまま街中に立っている青年。


その異様な光景がSNS上で拡散され、いつしか「池袋の勇者」と呼ばれるようになった。


銀座の動画に映っていた青年も、おそらく同一人物。


杏奈は画面を見つめた。

夜の街灯程度の明かりしかない。加工されているようにも見えない。


それでも分かる。

立ち姿がいい。

顔もいい。


しかも、拡散されている投稿には本人と思われるアカウントから返信までついていた。


杏奈はそのアカウントを開く。


「……五万?」

フォロワーはすでに五万人を超えていた。


だが、投稿数は多くない。

内容を眺めても、SNSを使い慣れている人間には見えなかった。

むしろ妙にぎこちない。


それなのに、これだけ数字を持っている。

杏奈はプロフィールを開き、さらに投稿を遡った。


そこに載せられていた顔写真で、指が止まる。

「なにこの子……」


しばらく、そのアカウントを眺め続けた。


話題性がある。

顔もいい。

すでにフォロワーもいる。


それでいて、SNSの使い方には妙に不慣れだった。


既存のインフルエンサーとは明らかに違う。

作られた匂いがしない。

プロフィールにも目を通す。


「へえ……おもしろい子」


杏奈の口元に、配信中とは違う笑みが浮かんだ。


レンのアカウントにあるDMのボタンを押す。


白い入力欄が画面に現れる。

杏奈はそこへ指を置き、ゆっくりとメッセージを書き始めた。

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