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第四十話 新たなる出会い

 ネオンに紹介してもらった───といっても黒猫の姿で道案内してもらっただけだが───宿に泊まり翌朝。

 シディアは実験も兼ねて念のため、と父ジョセフに渡された通信機をいじくり回していた。

「どう?繋がりそう?」

「いや。わかってたけど、やっぱりダメそうだな」

 単純に距離の問題か、はたまた針山などで物理的に阻まれているのかは定かでないが、いっこうに繋がる気配はない。

 少なくとも現状、両親に報告し指示を仰ぐことはできないのというのが確定したことになる。覚悟してはいたが、二人で判断して行動するしかないようだ。

「あのトマスって爺さん、どう思った?アリスの正直な感想が聞きたい」

 唐突な問いにアリスは一瞬目を丸くし、その後口もとを緩めた。

「シディアがそんな聞き方する時は、たぶん同じこと思ってるけど口に出して確かめたい時だよね」

 アリスの返答に、シディアも同じく口もとを緩める。

「さすが。伊達に双子じゃないな、俺ら」

「……変な感じだなって思った。うまく言えないけど、あの人を信じちゃダメな感じ。なんか、こう、ざわざわする」

 胸元にぎゅっと拳を当てるアリスに、シディアはしっかりと頷いて見せた。

 あの老人は信用ならない。本当にトマスかどうかすら疑わしい。これを大前提として今日の動き方を決めるべきだ。さて、何からどうするか。

 考え込むシディアの顔を、心配そうな表情のアリスが下から覗き込む。

「怪しい人だけど、悪い人だって確定したわけじゃないんでしょ?ネオンには……」

「俺も今のところネオンには言わないつもりだから、心配しなくていい。大丈夫だ、アリスと同じ気持ちだよ」


 本当は、今日トマスの家に行くのはアリスと二人だけのつもりだった。そのほうが監視役としての話題も出しやすいからだ。

 しかし、このところ繁華街の治安が悪いらしく、ネオンも念のため同行すると申し出てくれた。魔物ならまだしも、街中で絡んでくるチンピラ程度ならアリスが居れば何ら問題ないとは思うが、好意を無下にするのも申し訳ない。

 ついでに自警団のメンバーも紹介してくれるというものだから、わざわざ断る理由もなかったのである。


「ねえ、シディア」

「ん?」

「あたし、強くなるからさ」

「どうした急に」

 突然、真剣な調子で宣言するアリスに気圧され、ベッドの上で胡坐をかいていたシディアは思わず姿勢を正した。淡い紫の瞳に視線を合わせる。

「シディアのぶんまで、強くなるから。最っ強の戦士になるから」

「お、おう。……ん?俺のぶんまで?」

「だから、シディアはちゃんと生きてて。ダンとエイミーのぶんも生きて。二人はシディアの中で生きてるって、あたし思ってるから」

 シディアと目が合ったクラスメイトが泣き出して、クラス全員で涙を流した日を思い出す。

 みんなも、そう思っているのだろうか。シディアの中に、二人を見ているのだろうか。

「あと……あたしの代わりにその賢い頭、まわしてて。あたし一人だったら、あのおじいさんを怪しいと思ったって、たぶん何もできない。どうしていいかわかんない。ネオンに誤解された時だって、あたし一人だったら面倒くさくなって、とりあえず喧嘩から始めてたかもしれない」

 とりあえず喧嘩から始めるとは、さすがに脳筋すぎないかと思いつつ、想像できてしまうのが恐ろしい。至極あり得そうだ。

「シディアが考えてくれたら、あたし、いくらでも動くから。だから、その剣は、せっかく父様が作ってくれたけど、その……」

 ここまで聞いてようやく、シディアはアリスが一番言いたかったことを悟った。

 つまるところ、双子の妹は変なところで心配症なのだ。基本は楽観的で脳筋思考なくせに、一度心配の種が生まれてしまうと、深みにハマりがちな性格なのである。

「この剣なら大丈夫。俺の特性を生かせるように父さんが工夫してくれた結果だ。たしかにリスクはあるけど、アリスが思ってるほど大きくない」

「ほんと?」

「天才ジョセフが、愛する息子のために考え抜いた剣だぜ?信じろよ」

 ベッドの傍らから剣を持ち上げ、鞘をトントンと軽く叩いて見せると、アリスは少し安心したようだった。


 この剣は、父ジョセフがもともと考案してくれていた三つの武器候補の中で、一番最後にシディアが手にしたものだ。

 三日月島の一件後、シディアが魔力操作を苦手としていることを知ったジョセフが、初期モデルから更に夜な夜な改良を重ねて作り上げた代物である。

 なお、三日月島で使用したグローブにリミッターをつけることも検討したらしいが、製作時間や耐久性を考慮すると現実的でないとのことだった。回数限定とはいえ、即席でリミッターを付与できたネームレスの支配人は、やはり只者ではない。

 ちなみに二番目に試した武器も、ひとまず持って来てはいる……のだが。

 外出の支度をしながら、ちらりとローブの内側を見る。これに関しては今のところお守りでしかない。

 その情けなくも恥ずかしい理由は、いったん記憶の隅に押しやることにしたのだった。


 授業がある時間を避けるため、トマスの家に行くのは夕刻に決定した。

 これで必然的に、自警団のメンバーに先に会わせてもらうことになる。トマスに会う前にある程度の情報収集ができそうだ。

「先に自警団のほう?おっけー、じゃ、さっそく行こっか★」

「そんな軽く!?いや、頼んだのは俺だけどさ。いいのかよ、メンバーに確認とか」

 時刻は午前十時。ネオンとの待ち合わせは、予め指定されていた空き家の中だった。

 獣人の姿で、昨日と変わらぬ独特の軽い調子で話すネオンは、フットワークもとんでもなく軽いのだと知る。

「今日行くってことは言ってあるし、もともと時間は決めてないし、大丈夫っしょ」

「そういうもん……か……?」

「そういうもん、そういうもん。あ、今日は走らないから、ちょっと距離取ってついてきて。れっつらごー」


 黒猫姿のネオンの後をついて歩くこと、約二十分。

 ポートシーガルの住宅街では一等地と思われる場所。整備された道沿いに建つ、大きな屋敷の前にシディアたちは立っていた。極端に華美な印象はないが、美しい立派な屋敷だ。

「ここが自警団のアジト……?町長の家とかじゃなく……?」

「あたし、洞穴(ほらあな)みたいなの想像してた……」

「わかる。廃屋の地下とか、薄暗い感じのな……」

 町長非公認だと聞いていたものだから、てっきりコソコソ隠れているのだと思いきや、である。

 呆然とする双子をよそに、黒猫はすたすたと敷地に入っていく。複雑な意匠が施された高級そうな門をくぐり抜けるのも、至極当たり前といったようすだ。

 慌てて後に続くと、屋敷の扉が開き中から小さな人影が飛び出してきた。トマスの家で出会った、犬妖精(クー・シー)の少年である。

「わーい、ネオンだ!」

「お、キオも来てたんだ」

 いつの間にか獣人姿に戻ったネオンと、キオと呼ばれた少年が親し気に話していると、閉じかけていた扉が再び開き、今度は青年が顔を出した。

「思ったより早かったね」

「やっほー、シリウス。昨日ぶり」

 シリウスと呼ばれた青年にも淡いクリーム色の垂れ耳と、同色の尻尾が生えている。どうやら、キオと兄弟であるようだ。

 そろそろ自己紹介をと思い一歩前に出たシディアを、キオが楽しそうに指差し叫ぶ。

「あー!昨日の、びしょびしょのお兄ちゃんだ!」

「びしょびしょ……なんかやだ……違うのにしない?ほら、他にも特徴あるだろ?」

「うーん、じゃあ、のっぽのお兄ちゃん?」

「ありがとう、それで頼む」

 アリスが笑いを堪えきれない中、更に扉が開きもう一人青年が歩み出てきた。

 精悍な顔立ちと堂々たる佇まいが、若くともこの家の主であると語っている。

「ようこそ、ポートシーガルへ。町長に代わり、このロードリックが歓迎いたします。───なーんて、実家との関わりが希薄すぎる次男坊だけどな」



   第四十話 新たなる出会い <終>


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