ジークは竜を街に連れ帰る
出張続きで進行が遅いorz
というわけで、今週は二話追加です。
あいかわらず前半後半のテンションの差がひどいです
竜牧場をあとにしたジークたちは夕暮れ前にはハックエストに到着した。
「はい、次〜」
門の前で並んで待っていた3人、特にジークの頭の上に注目が集まっていた。
「あいよ。ゼノ、ジーク、それから途中で保護した竜の3名だ」
「ゼノさん、おかえりなさい。はぁ珍しいですね。陸竜の子供ですか……責任者は彼ですか?」
門兵はそう言ってジークとその頭にしがみついているリンデに目をやった。
「ええ、僕が登録しようかと思っています」
受け答えするジークは内心冷や汗ものだった。好奇の目で見られていたが、「問題なし、どうぞ」と3人は無事、街に入ることができた。
「……うまくいったか」
「ゼノさん、本当に大丈夫なんですか?」
門から離れたところで、ゼノとジークはほっと溜息をついた。
「隠せるならそのほうがいいだろ……それともバレて有名になりたいか?」
「いえ、できれば僕も注目されたくはありません」
リンデが真竜とバレずに街へ入り込めた理由──それはハックエストへの帰路の途中のことである。
「なぁジーク、焚き付けておいてなんだがやっぱ真竜はまずいよな……」
「ですよね……」
今更ながらどうしようと悩むふたりがいた。
『フンフフン、ウガウガ、クックル〜〜♪』
リンデはそんなことを気にせず、ジークの頭の上で楽しそうに鼻歌を歌っていた。竜につたわる何かだろうか……
そんなリンデを見てさらに深いため息をつくふたりだった。
『──どうしたの?』
そんなふたりに気づいたリンデは覗き込むようにジークに問いかけた。ジークも何か案をだしてもらおうと、事情を説明した。
『──つまり私、というより真竜だとジークに迷惑がかかるってこと?』
「いや!迷惑というよりも、リンデがやたらと注目されるのが心配というかなんというか……」
悲しそうなリンデに、ジークは慌てるように言った。
「う〜ん、せめて羽が隠せれば、陸竜の幼体って言い訳できるんだが……布でかくしてもいみねーしなぁ……」
ゼノは腕を組みながら、ふと思いついたことを口から漏らした。
『あ、それならできるわよ?』
「え?」
「ジーク、なんだって?俺にはキューキューってしか聞こえないんだ」
「羽隠せるそうです」
さすがに無理だろうなぁと思っていただけに、ゼノは「真竜ってのはなんでもありか?」とツっこんだ。
『じゃ、いきまーす!──ふん!』
やっぱり気合の入った掛け声と共にリンデの体が光ると、先ほどまであった立派な翼はなくなり、代わりに小ぶりなトゲのようなものが背中についていた。
『どう!?』
「「見た目は陸竜ですね(だな)」」
そして、ゼノはリンデに、街では絶対に羽を出さないように言い聞かせた。こうして、「真竜ですか?いいえ陸竜です」と押し通すことに決まったのだった。
──街に入ってから、3人が真っ先に向かったのは組合であった。現在、リンデは野良という扱いであり、正規の手続きのもとジークの竜として登録する必要があった。
そして3人、いやリンデが組合に入ると数名がビクついてジーク達へと目を向けた。彼らの視線に気づいたゼノは「あ、やっべ」と今更ながら思い出した。しばらくリンデの近くにいたため、強者のみが感じられる真竜のオーラのことを失念していたのだ。
「お、おう、ゼノ……なんか、すげー圧感じるんだが…そのちっこいのか?」
彼らのうちのひとり──現在討伐2級とゼノに次ぐ実力者のおっさんが、恐る恐るジークの頭の上に鎮座している竜を指した。
「い、いや〜実はな…ジークと遠出してたら、親とはぐれたのか保護したんだよ。そしたらジークになついちまって、頭から離れなくてな。せっかくだから騎竜にどうかってな、珍しい色の竜だし、きっと将来性あるぜ。きっと……」
ゼノは早口で言い聞かせるようにいった。嘘はいっていない──たしかにジークになついている、親もいなかったし、白銀色と珍しく、将来性はすさまじい。ただひとつ、真竜という情報を抜いただけだ。
詐欺師の手口ですね……
「お、おお、そうか……それにしてもすげーな……」
まじまじと見つめられたリンデは居心地悪そうにジークの頭に顔を埋めた。
「まだ登録してないんで、またあとでな」
ゼノはそう言ってボロが出る前に話を切り上げ、ジークに「登録急げ」とアイコンタクトを送った。
「すいません。アネットさん。従竜登録はどちらで行えばいいんでしょうか?」
ジークは誰かに捕まる前に様子を伺っていたアネットに声をかけた。
「え、あ、はい。えと、従竜は新規でしたら私の管轄ですのでこちらへどうぞ」
突然、声をかけられたアネットは驚いたがプロとして即座に対応した。
「この子をお願いします」
「──っ!?」
「アネットさん?」
ジークはアネットに連れられたカウンターにリンデを乗せた。また、ちょうどお座りのポーズになったのか、その可愛らしさはアネットのハートを鷲掴みしたらしい。
「す、すいません。それではこちらに記入してください……とその前に、幼体ですと街、組合で保護できますが、ジークさんの従竜ということで本当によろしいでしょうか?なにかあった際には責任はジークさんがとることになりますが……」
『失礼ね!私何もしないわよ!』
「はい、大丈夫です」
抗議の声をあげるリンデをなだめ、ジークは従竜の申請書に記入してアネットに手渡した。その際キューキューと鳴いているリンデを見て、アネットの頬は緩みまくっていた。彼女は可愛いものに目がないらしい。
申請書と交換で渡されたのはジークの組合番号が印字されたドックタグだった。ジークの従竜という証として、常につけておく必要があった。
「リンデ、ちょっと首上げてもらえる?……よし、ついた」
『わーい、ジークからのプレゼントだー!』
正確には組合からの支給品だがジークにつけてもらったのがよほど嬉しかったのだろう、リンデは首にドックタグをつけてもらうと踊るように定位置に飛び乗った。
「あ、あのジークさん。お、お願いが……リンデちゃんを触らせてください!」
そんな二人の様子をうらやましそうに見ていたアネットは我慢できなくなり、いつもの品行方正な受付嬢の仮面を地面へ叩きつけるように外した。そして頬を染めてジークへ詰め寄った。
カウンターを乗り出すように詰め寄られたジークは突然のことに後ろへ下がれず、アネットの顔が間近というところにあった。
『ちょっと、私のジークにちょっかいかけないでよ!』
男(夫)と女(他人)の顔が間近というのが気に入らないリンデは頭から前足のみを正面に出してアネットの顔をグイグイと押し返していた。本人はいたって真面目に抗議しているが、声の届いていないアネットにはキューキュー鳴きながら肉球を押しつけられるというご褒美になっていた。
しばらく、攻防?が続いていたが妹のアジーが姉の首根っこを掴まえて、引っ張り、奥へと消えていった。
「あ〜〜〜リンデちゃ〜〜ん──」
ちなみに動くに動けなかったジークは、人には裏の顔ってあるんだな〜と固まりながら考えていた。
ひと騒動あったが、無事登録も終わったので帰ろうかというところでゼノから待ったが掛かった。ジークが登録している最中に組合長に話をしておいたらしく、本人に直接会ってみたいとのことだった。
ゼノに連れられて進んでいくと『組合長室』を札が掛かった部屋のまえにジーク達は立っていた。
「バルザ、入るぞ?」
入れという声が聞こえると、ゼノは首をかしげているジークを置いて部屋に入っていった。続いて部屋へ入っていったジークは絶句した。
組合長室には高級そうな机やソファ、棚などがあったが、それらよりも圧倒的な存在感を示していたのが中央にいた。ゼノより少し小さいが、不釣り合いなほどの筋肉で服がはち切れんばかりだった。また、やはり長と呼ばれているだけのオーラが漂っている。少なくともジークよりは強いだろう。
「こいつらが、ジークと真竜、リンデだ」
「ふむ、なるほど直にすると確かに並ではないな……」
バルザはリンデから感じるオーラに身を引き締めながらも今度はジークへと視線をやった。
「ふむ……たしかにゼノが興味を持つだろう。まっすぐな目をしている。だが、迷いが見え隠れしているな……」
突然の指摘にジークは戸惑った。
「初対面で失礼だな、すまない。しかし、これでも一組織の長をやっている。だからこそ気にもなる。真竜と共にあって何を望む?」
ジークはすぐに答えが浮かばなかった。“竜と一緒にどうしたいか”など、正直なところ考えたことがなかったのだ──少なくともこれまでは。
「……いますぐにはわかりません。でも……」
「そうか、まぁ急すぎたか。しかし考えることだ。真竜と共にある以上、少なくとも君は“力”を手に入れた。そして“力”をどう扱うかは君の決断に委ねられるわけだ。──もっとも今はまだ幼竜で完全とは言えない。考える時間はたっぷりある」
いつか答えを聞かせて欲しい、そう言ってバルザは話を区切った。
「さて、本題のリンデ嬢の扱いに関してだが、ゼノからの要望通り陸竜の子供ということにしておこう。だが、一定以上の者ならばリンデ嬢から漏れ出ている尋常ではない圧を疑問に思うものもいるだろう。幸い、この国の民からは竜を神聖視しているため害されることはないとは思うが、他国あるいは他国出身者、間者であれば逆に狙われるかもしれないことを忘れないで欲しい」
リンデはジークと引き離されるのを想像したのか、先ほどよりもがっちりとジークの頭をホールドした──簡単には引き剥がせまい。
「現状、少年ができることはゼノに鍛えてもらい、そんな状況になった場合に跳ね除けるだけの力をつけてもらうのが一番だろう。なに問題ない。”見た目通り”、私は治癒術師だ。時間があるときは組合の医療班も兼任している。そこそこ重傷でもなおしてあげよう。存分に励むといい」
ジークは耳を疑った。目の前の体格がよすぎる御仁は、ハボックと同じ治癒術師とのことだ。どう見ても「前線で撲殺してます」といわれたほうが納得できる。
人は見かけないと改めて学んだジークであった。
その後も街中ではリンデを一人にしないことなど、陸竜の飼い方ともいえる諸注意を受け、3人は組合を後にした。
宿へ戻る途中、ゼノからもよく考えるように言われたジークは、わかりましたと言って軽めの夕食をとって自室に戻った。
夜も深くなったころ、ジークは未だ答えがちっとも浮かばずにベッドの上でゴロゴロしていた。
その頃リンデはというと……
『ぐ〜、ふが〜、ぴろろろ〜』
はしゃぎすぎて疲れたのだろう。相棒を心配しながらも眠気には勝てなかった。
いびきをかきながら眠るリンデに、「女の子だよね?」と首をかしげるジークだった。そしてリンデに寝言で『ジ〜ク〜』と呼ばれると、苦笑しながらも優しくリンデを撫でていた。
ジーク気づいていますか?そんな自然な顔で笑ったのはいつぶりだったか……
ほのぼの回をようやく始められそうだ……




