ヨロシク言っといてね。
~吉本side~
その日は、いつもと変わらない朝だった。
深瀬くんが学校を休んだこと以外は。
「えっ、深瀬くん今日休み?」
「うん。なんか高熱が出て寝込んでるみたいよ。深瀬くんのお母さんは、最近深瀬くんの様子がおかしいなって思ってたらしくて、体調を崩す予想はしてたみたい。」
同じクラスの女の子が教えてくれた。
「そっか。じゃあ放課後お見舞いに行こっかな。」
「でさ、そのことなんだけど。あまりにもしんどそうで、放っておいた方がいいとか、皆に移ったら大変だとかで、見舞いに行くのもダメだって。」
「え、そうなんだ……。」
ちょっとショック。
次会えるのいつになるんだろう…。
一人落ち込んでいると、教室の扉が開き、榊原くんが入ってきた。
「おはよ~。」
「あ、おはよ……………って、榊原くん!?その手どうしたの!?」
驚くなっていう方が無理。
だって、彼の左手が包帯で覆われているのを見たら驚くしかない。
「あぁ、コレ?いや、ちょっと……ね。」
「本当にどうしたの?」
「うーん…。話したらちょっと長くなるからさ、放課後教室残っててくれる?」
「……分かった。」
正直彼と教室で2人きりになるのはトラウマのせいで少し抵抗があった。でも、何があったかは気になるので、聞かなくちゃならない。
放課後、前のように相変わらず人気のない教室で私たちは向かい合っていた。
「ああ、来てくれたんだ。」
「そりゃ知りたいからね。」
「うん。じゃ、誰もいないし、話をしようか。まず、この手がどうしたって話だよね。率直に言っちゃえば………………強盗のせいだよ。」
「ご、強盗!!!!?」
「シーーッ!!声が大きいよ!!!」
「だ、だって………。」
そういう榊原くんも大概だと思うけど。
「それ………本当に?」
「……………うん。吉本さんは聞いたことなかったっけ?僕が一人暮らしなの。やっぱりどこからかその情報を聞きつけて狙いに来る奴らがいるんだよ。以前にも三回ほど被害があったからね。今回の奴は空き巣を狙ってたらしいけど、たまたま僕が帰って来ちゃってさ。あとは見ての通りだよ。」
「……け、警察に通報は……!?」
「もちろんしていないよ?」
「もちろんじゃなくて!!何で!?」
「どうせ相手にされないことは目に見えてるし、それに、もう一つの事情があるからなんだ。実は、そのことを伝えるために今日来てもらったってのもあるからね。」
「事情…?」
「うん。僕、もうすぐ、
引っ越そうと思ってるんだ。」
「…………………………………え?」
「だから、もうすぐ引っ越すんだよ。」
「な……何で?」
「さぁ。僕の親戚の関係じゃないかな。………それで、言っておいてほしいんだ。」
「え?」
榊原くんの方に顔を向けると、うつむいて、何かを耐えるように肩を震わせていた。
「深瀬くんに、今まで、ゴメンねって。今まで、ありがとうって。」
「…………。」
「僕、自分でも分かっていたんだ。深瀬くんに、余計な迷惑をかけていたことも。自分のせいで疲れ切ってたことも!」
「榊原くん…………………。」
「だからさ、吉本さん、深瀬くんにヨロシク言っといてね。じゃ。」
「あっ、…………。」
何か声をかけようとしたけど、結局言葉にならず、そのまま榊原くんは教室を出て行った。
榊原くん……………。
自分では分かってたんだ。
だからって、引っ越しまでしなくたって…。
親戚とかは関係ないことぐらいは分かり切ってるのに。
このこと、深瀬くんに伝えたらどういう反応をするだろう。
でも、せめて最後は本人たちで話をしてほしい。
あ、にしてもどうしよう。家に行くのもダメなんだった。
………だったらメールだけでもしておこ。
To:深瀬くん
From:吉本
件名:大丈夫?
本文:ゆっくり寝て、早く元気に学校来てね。それと、日記はしんどかったら無理して書かなくても良いよ。
あと、榊原くんが引っ越すんだって……。
これは榊原くんからのメッセージ。
今までゴメンね。そしてありがとう。
だからさ、引っ越すまでには一度でも話をしてあげて。
「送信、っと。」
メールが送れたのを確認してケータイを閉じた。
今思えば、何故あの時反対を押し切ってでも深瀬くんの家に行かなかったのだろう。